前世の趣味のままにBL小説を書いたら、サイン会にきた護衛騎士様の婚約者になりました

ayame@コミカライズ決定

文字の大きさ
37 / 42

小説書いて地固まる4

しおりを挟む
「おまえは……アレン殿下に想いを寄せていたのだろう?」
「…………は?」

 耳を疑うような台詞に、一瞬目が点になった。手がフリーだったら眉間を指で揉みながら思案していたところだ。

 誰が誰に想いを寄せていたって?

 まさかとは思うが……私が魔王アレン殿下にって、この人言った?

「ありえません!」

 思わずジェスト様の手をぐっと握りしめた。私たちが動きを止めたタイミングで曲の演奏が終わった。辺りの空気はやや熱を帯びて、人々が和やかに入れ替わっていく。

 だが私の胸中はそれどころではなかった。彼の手を握ったまま詰め寄る勢いで迫った。

「私がアレン殿下を好き? いったいどこをどう見たらそんな解釈になるんですか」
「しかし、おまえは“殿下のために小説を書く”と……」
「そうしなければ不敬罪に問うって脅してきたの、向こうですよね。私は仕方なく従ったに過ぎません。そりゃ結果としては楽しかったので良かったですけど、とにかく私がアレンまおう殿下を好きとか、そんな死に急ぐ真似するわけないでしょう。心外です」

 今なんか呼び方逆に間違えちゃった気がするけど、それどころではない。王太子捕まえてなんて言いようだと別で不敬罪に問われそうだが、心外なものは心外だ、私は私の心に正直でいたい。いつの間にか流れてきた音楽に身を任せながら、再びジェスト様の腕に手を添えた。

「だいたい未成年の少女を軟禁して働かせるって、そもそも犯罪じゃないですか? それもカトリーナ様のためにって言いながら結局自分のためだったわけでしょう? しかも人に指示するだけで、自分はなんにもしてないし。ブレインといえば聞こえがいいけど、頑張ったジェスト様やカトリーナ様にちゃんと報いてほしいですよ」
「……俺は十分報いてもらったから、大丈夫だ」
「本当に? ジェスト様って、いっつもアレン殿下を第一優先で自分のことを後回しだから心配です。カトリーナ様も国や王家のために頑張る方だから、やっぱり心配で……」
「そういうおまえはどうなんだ。何か褒章として殿下から貰いたいものはないのか?」
「私は好きな人と社交界デビューのファーストダンスが踊れたから、もう十分ですよ」
「———!!」

 流れるような動きだったジェスト様のダンスリードが一瞬途切れた。大ミスをやらかすほどではなかったが珍しいと思い、彼の表情をまじまじと見れば———いつもの無機質な白い頬と耳に朱が差していた。

 もしやこの表情は怒ってらっしゃる? いや、というよりも———。

「あ、あのジェスト様……」
「す、すまない。ちょっと動揺してしまった。その、驚きすぎて……」
「何か驚くようなことありました?」
「おまえが、その、“好きな人とファーストダンスを踊れた”と言ったから」
「へ……?」

 言われて自身の発言を思い出してみれば……確かに、何かこう、するっと、ところてんみたいに口からつるんとそんな言葉を吐いたような……っていうか、吐いていた。

 そのことに気がついた私は———盛大に赤面した。

「あ、あのっ! 違うんです、これは……! とにかく、そうじゃなくて、いや、そうなんだけど、でも、そんなつもりじゃなくてっ」

 狼狽うろたえる私の手を彼が強く引いたとき、またしてもタイミングよく曲が終わった。羞恥のあまり逃げ出そうとする私を捕まえて、ジェスト様が膝をついた。

「グレース・ハミルトン伯爵令嬢。小説に情熱を捧げるあなたの姿に、私は心を囚われてしまった。ペンを持つ崇高なるその手を、どうかこの先も私に守らせてほしい」
「———っ」

 逃げようとした私を引き止める、美しい告白。

 カトリーナ様のことが誤解だったと知れて、彼が傷ついていなかったとわかって安堵した。それでも、その先の想いが私に向けられるとは思ってもおらず———繋がれた指先と彼の薔薇色の瞳を、ただただ見比べるしかなかった。

「……そのリボンを、デビューのこの場で着けてくれたということは、まだ期待していいのだろうか」
「あ……これは」

 ジェスト様の視線が向かうのは私の髪。ドレスに合わせて選んだ白百合の生花。その花を支えるように巻き付けられたのは、あの日ジェスト様がプレゼントしてくれた燕脂色のリボンだった。生花を飾りに使おうということは早々に決まっていたのだけど、取り寄せた百合の花が思いの外重く、ピン留めだけでは頼りないことがわかってしまった。何か土台になるようなレースかリボンがないかと支度を手伝ってくれたメイドたちに問われ、思いついたのがあのリボンだった。しっかりした生地が支えにちょうどよく、刺繍が密で豪華だからデビューの衣装としても申し分ないと、メイドたちは喜んで装飾に加えてくれた。

 針のむしろになることがわかっていた社交界デビューで、少しでも縋れるものが欲しいと思ってしまった。ジェスト様の気持ちが私になくても、私の想いは彼にあるのだと、それだけで堂々と強くあの場に立てる気がしたから。

 その一方通行だった想いが、今こうして彼から返されている。嬉しさが込み上げてきてつい瞳が潤んでしまったのを、ジェスト様は見逃さなかった。

「その涙を拭う権利を、どうか俺に与えてほしい———グレース」

 彼が差し出したハンカチーフは、私の瞳の色をしていた。微かに頷く私の涙はこぼれ落ちる前にさっと拭われ、役目を終えたチーフは彼の胸元に戻っていった。そこにその色が刺してあったことに初めて気がついて、私の赤面はますます深くなった。

「……あまりそんな顔をするな」
「そんな顔って、変顔でもしてました!?」
「違う、そうじゃない、その、他の男には見せたくない顔ってことだ」

 そのまま引き寄せられ、ジェスト様の胸元が近くなる。彼の指が、私の頭を飾るリボンに触れているのがわかって、息が止まりそうだった。

 時間が止まったかのようなフロアの中心へ、苦笑を浮かべたアレン殿下とカトリーナ様が歩いてきた。

「あー、その、なんだ。盛り上がっているところ恐縮なんだが、デビューしたてのご令嬢がおもいっきり社交界のルールを破るのはどうかと思うよ。私とリーナだって今から2曲目のダンスで、これで終いなんだからね」
「へ?」
「グレース様、講師である伯母様から習いましたわよね。舞踏会で同じ異性とダンスを踊るのは1回まで。2回続けていいのは婚約者、3回続けて踊るのは———夫婦のみですわ」
「え、だって今、私はファーストダンスで……」

 デビュタントのファーストダンスは、まだ慣れていないことを考慮して、短めのワルツが選ばれる。私が踊ったのはそれだったはずで……。

王家わたしが婚約を認めたから2回は許容されるが、3回はやりすぎだぞ、ジェスト」
「それは失礼いたしました。けれど私も必死だったのです。彼女が昨今のブームに則って婚約破棄を言い渡そうとしていましたので、どうにか翻意させられないかと説得しているうちに、あっという間に3曲が終わってしまったのです」
「まぁ! それなら仕方ないのかしら」
「どうせブームに乗るなら、破棄じゃなく真実の愛ブームの方にしておくんだな。ほら、壇上でも義母上が盛大に喜んでおられる」

 言われて玉座の辺りを見上げれば、「あぁ、またひとつ“真実の愛”を見つけましたわぁ!」と王妃様が感動しながら陛下も巻き込んで拍手を送っておられた。その先にいるのはどう見ても———私とジェスト様だ。

 そのまま彼に腕を取られ、ますます密着すれば。

「王家のお墨付きだ。証人も山のようにいる。これでもう———婚約破棄はできないな」

 抱き込まれた耳元でそう囁かれて。

「———しません!!」

 盛大に言い返した私は、絶対悪くないと思う。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

「白い結婚最高!」と喜んでいたのに、花の香りを纏った美形旦那様がなぜか私を溺愛してくる【完結】

清澄 セイ
恋愛
フィリア・マグシフォンは子爵令嬢らしからぬのんびりやの自由人。自然の中でぐうたらすることと、美味しいものを食べることが大好きな恋を知らないお子様。 そんな彼女も18歳となり、強烈な母親に婚約相手を選べと毎日のようにせっつかれるが、選び方など分からない。 「どちらにしようかな、天の神様の言う通り。はい、決めた!」 こんな具合に決めた相手が、なんと偶然にもフィリアより先に結婚の申し込みをしてきたのだ。相手は王都から遠く離れた場所に膨大な領地を有する辺境伯の一人息子で、顔を合わせる前からフィリアに「これは白い結婚だ」と失礼な手紙を送りつけてくる癖者。 けれど、彼女にとってはこの上ない条件の相手だった。 「白い結婚?王都から離れた田舎?全部全部、最高だわ!」 夫となるオズベルトにはある秘密があり、それゆえ女性不信で態度も酷い。しかも彼は「結婚相手はサイコロで適当に決めただけ」と、面と向かってフィリアに言い放つが。 「まぁ、偶然!私も、そんな感じで選びました!」 彼女には、まったく通用しなかった。 「なぁ、フィリア。僕は君をもっと知りたいと……」 「好きなお肉の種類ですか?やっぱり牛でしょうか!」 「い、いや。そうではなく……」 呆気なくフィリアに初恋(?)をしてしまった拗らせ男は、鈍感な妻に不器用ながらも愛を伝えるが、彼女はそんなことは夢にも思わず。 ──旦那様が真実の愛を見つけたらさくっと離婚すればいい。それまでは田舎ライフをエンジョイするのよ! と、呑気に蟻の巣をつついて暮らしているのだった。 ※他サイトにも掲載中。

悪役令嬢は調理場に左遷されましたが、激ウマご飯で氷の魔公爵様を餌付けしてしまったようです~「もう離さない」って、胃袋の話ですか?~

咲月ねむと
恋愛
「君のような地味な女は、王太子妃にふさわしくない。辺境の『魔公爵』のもとへ嫁げ!」 卒業パーティーで婚約破棄を突きつけられた悪役令嬢レティシア。 しかし、前世で日本人調理師だった彼女にとって、堅苦しい王妃教育から解放されることはご褒美でしかなかった。 ​「これで好きな料理が作れる!」 ウキウキで辺境へ向かった彼女を待っていたのは、荒れ果てた別邸と「氷の魔公爵」と恐れられるジルベール公爵。 冷酷無慈悲と噂される彼だったが――その正体は、ただの「極度の偏食家で、常に空腹で不機嫌なだけ」だった!? ​レティシアが作る『肉汁溢れるハンバーグ』『とろとろオムライス』『伝説のプリン』に公爵の胃袋は即陥落。 「君の料理なしでは生きられない」 「一生そばにいてくれ」 と求愛されるが、色気より食い気のレティシアは「最高の就職先ゲット!」と勘違いして……? ​一方、レティシアを追放した王太子たちは、王宮の食事が不味くなりすぎて絶望の淵に。今さら「戻ってきてくれ」と言われても、もう遅いです! ​美味しいご飯で幸せを掴む、空腹厳禁の異世界クッキング・ファンタジー!

[完]本好き元地味令嬢〜婚約破棄に浮かれていたら王太子妃になりました〜

桐生桜月姫
恋愛
 シャーロット侯爵令嬢は地味で大人しいが、勉強・魔法がパーフェクトでいつも1番、それが婚約破棄されるまでの彼女の周りからの評価だった。  だが、婚約破棄されて現れた本来の彼女は輝かんばかりの銀髪にアメジストの瞳を持つ超絶美人な行動過激派だった⁉︎  本が大好きな彼女は婚約破棄後に国立図書館の司書になるがそこで待っていたのは幼馴染である王太子からの溺愛⁉︎ 〜これはシャーロットの婚約破棄から始まる波瀾万丈の人生を綴った物語である〜 夕方6時に毎日予約更新です。 1話あたり超短いです。 毎日ちょこちょこ読みたい人向けです。

異世界で悪役令嬢として生きる事になったけど、前世の記憶を持ったまま、自分らしく過ごして良いらしい

千晶もーこ
恋愛
あの世に行ったら、番人とうずくまる少女に出会った。少女は辛い人生を歩んできて、魂が疲弊していた。それを知った番人は私に言った。 「あの子が繰り返している人生を、あなたの人生に変えてください。」 「………はぁああああ?辛そうな人生と分かってて生きろと?それも、繰り返すかもしれないのに?」 でも、お願いされたら断れない性分の私…。 異世界で自分が悪役令嬢だと知らずに過ごす私と、それによって変わっていく周りの人達の物語。そして、その物語の後の話。 ※この話は、小説家になろう様へも掲載しています

乙女ゲームっぽい世界に転生したけど何もかもうろ覚え!~たぶん悪役令嬢だと思うけど自信が無い~

天木奏音
恋愛
雨の日に滑って転んで頭を打った私は、気付いたら公爵令嬢ヴィオレッタに転生していた。 どうやらここは前世親しんだ乙女ゲームかラノベの世界っぽいけど、疲れ切ったアラフォーのうろんな記憶力では何の作品の世界か特定できない。 鑑で見た感じ、どう見ても悪役令嬢顔なヴィオレッタ。このままだと破滅一直線!?ヒロインっぽい子を探して仲良くなって、この世界では平穏無事に長生きしてみせます! ※他サイトにも掲載しています

「転生したら推しの悪役宰相と婚約してました!?」〜推しが今日も溺愛してきます〜 (旧題:転生したら報われない悪役夫を溺愛することになった件)

透子(とおるこ)
恋愛
読んでいた小説の中で一番好きだった“悪役宰相グラヴィス”。 有能で冷たく見えるけど、本当は一途で優しい――そんな彼が、報われずに処刑された。 「今度こそ、彼を幸せにしてあげたい」 そう願った瞬間、気づけば私は物語の姫ジェニエットに転生していて―― しかも、彼との“政略結婚”が目前!? 婚約から始まる、再構築系・年の差溺愛ラブ。 “報われない推し”が、今度こそ幸せになるお話。

田舎暮らしの貧乏令嬢、幽閉王子のお世話係になりました〜七年後の殿下が甘すぎるのですが!〜

侑子
恋愛
「リーシャ。僕がどれだけ君に会いたかったかわかる? 一人前と認められるまで魔塔から出られないのは知っていたけど、まさか七年もかかるなんて思っていなくて、リーシャに会いたくて死ぬかと思ったよ」  十五歳の時、父が作った借金のために、いつ魔力暴走を起こすかわからない危険な第二王子のお世話係をしていたリーシャ。  弟と同じ四つ年下の彼は、とても賢くて優しく、可愛らしい王子様だった。  お世話をする内に仲良くなれたと思っていたのに、彼はある日突然、世界最高の魔法使いたちが集うという魔塔へと旅立ってしまう。  七年後、二十二歳になったリーシャの前に現れたのは、成長し、十八歳になって成人した彼だった!  以前とは全く違う姿に戸惑うリーシャ。  その上、七年も音沙汰がなかったのに、彼は昔のことを忘れていないどころか、とんでもなく甘々な態度で接してくる。  一方、自分の息子ではない第二王子を疎んで幽閉状態に追い込んでいた王妃は、戻ってきた彼のことが気に入らないようで……。

【完結】何故こうなったのでしょう? きれいな姉を押しのけブスな私が王子様の婚約者!!!

りまり
恋愛
きれいなお姉さまが最優先される実家で、ひっそりと別宅で生活していた。 食事も自分で用意しなければならないぐらい私は差別されていたのだ。 だから毎日アルバイトしてお金を稼いだ。 食べるものや着る物を買うために……パン屋さんで働かせてもらった。 パン屋さんは家の事情を知っていて、毎日余ったパンをくれたのでそれは感謝している。 そんな時お姉さまはこの国の第一王子さまに恋をしてしまった。 王子さまに自分を売り込むために、私は王子付きの侍女にされてしまったのだ。 そんなの自分でしろ!!!!!

処理中です...