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【七十五】宝田劇団のスケジュールと康代の予知夢

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 かるたの練習を終えた朝川と夜神は、宿泊施設の西側に隣接する神聖ショッピングセンターに出かけた。
豊下秀美と明里光夏が二人の案内をしている。
徳田康代と天宮静女は別の目的で同行していた。

「豊下さん、試合の時に下に敷くタオルは、どこか分かりますか」
「それなら、多分、この上の階にあると思います」
豊下は、エスカレーターを乗り継ぎ、朝川たちを案内した。

『夜神さん、きっとーー この奥じゃないですか』
徳田の声で、一同が次の棚の前に移動した。

「徳田さん、あったわ。十日の大会に間に合いそうよ」

『じゃあ夜神さん、お買い物を済ませたら、
ーー 上のカフェに行きませんか』
徳田の言葉を受けて、豊下が反応した。

「じゃあ、カフェの席を確保しますね」
豊下は、忍者のようにいなくなった。

「本当、豊下さんは、忍者みたいね」
夜神の言葉に朝川も苦笑している。

 久しぶりのカフェで、静女の紫色の瞳がキラキラと輝いている。
『静女、嬉しそうね』
「康代殿、静女はスイーツのとりこでござる」

『あら、そうだったの、知らなかったわ』
「康代殿は、意地悪でござるな」



豊下秀美がカフェの中で手を振っている。
「康代さん、こっちですよ」
『今、行くから・・・・・・』

 天女の天宮静女、徳田康代、明里光夏が窓際の席に順に腰掛けた。
テーブルの反対側は、窓際から朝川夏夜、夜神紫依、豊下秀美の順となった。

 明里がホログラムディスプレイを操作して、オーダーを聞いている。

「静女さんは、イチゴのショートケーキでいいですか」
「良いでござるよー」

「朝川さんと夜神さんと康代さんは、チーズケーキですか」

 三人を見ながら明里は自分の分をオーダーした。
まもなくして、カフェの制服姿のウエイトレスがオーダーを運んで来た。
水色のワンピースがカフェの内装に溶け込んでいた。

『朝川さん、そちら側の転居は順調ですか』

「お陰様で、私たち四人に加えて生徒八十名が先月末までに到着。
ーー スタッフ七十名も八月三日までに無事到着。
ーー 劇団員は四百名のうち、今日までに百四十名が到着しています」

続いて、明里光夏が朝川を引き継ぎ説明を続けた。
「あとの二百六十名も、明日の八月八日からの十三日間で到着予定となっています」

『一日平均、二十名なら予定通りね・・・・・・ところで、朝川さん』
「何でしょうか」



『劇団員や生徒の練習場所が必要になるわね』
「ええ・・・・・・」

『うちは、中等部、高等部、大学の使用スケジュールを調整したいの』
「と言いますと・・・・・・」

『今、学園寮の東側にある旧体育館をメンテナンスしている最中なの。
ーー 夏休みが終わる前には使用可能になるわ。
ーー 旧体育館でもよろしいかしら』

「お稽古する場所が確保出来るなら問題ありませんわ」

『そう言って頂ければ幸いです。
ーー そして、神聖女学園校舎の西側にある体育館、体育館の地下、
ーー 大講堂にある大ホール、中ホール、小ホールなどの使用は、
ーー 明里とスケジュール調整して欲しいのよ』

「徳田さん、大ホールは事前に予約しないと難しいですが」

『じゃあ、中ホール、小ホールは?』
「秋の文化祭以外は問題無いかと」

『体育館と体育館地下は、どうなの』
「それは、調整しないと分かりません」

『多目的ルームは?』
「同じです」

『旧体育館は大丈夫なのよね』
「そこは、現在使用されていないから心配ありません」

『旧体育館を宝田劇団と宝田の生徒に解放して上げて』
「徳田さん、そのようにスケジュールしておきます」

夜神が口を開いた。
「徳田さん、私は、旧体育館で大丈夫よ。
ーー 生徒も問題無いと思います」

『夜神さん、ありがとうございます。
ーー じゃあ、あとは明里と相談してください。
ーー 旧体育館以外の施設も、使用時間を調整すれば問題無いかしら、明里さん』

「多分、大丈夫かと思いますが・・・・・・」

「じゃあ、明里さん、よろしくお願いしますね」
朝川だった。

『ローテーションは、生徒会とも相談しましょう』

 静女は、大江戸平野に広がる山々を眺めていた。
「静女さん、茶色の学園寮って、どのあたりですか」
朝川だった。

 静女はおもむろに指を差して朝川に教えていた。
「随分、離れているでござるよ」
朝川は、静女の反応に微笑みを返した。



 お茶会が散会したあと、徳田康代は学園寮に戻って仮眠をした。
体がいくつあっても足らない激務が続いている。
 
 康代は、夢の中で、神使のセリエと会話している。
前にも見た記憶のある建物の中にいた。
セリエが何か言っている。

「康代よ、ここは天界の康代の家だから安心じゃあ・・・・・・」
「天界なの・・・・・・」

 康代は、天界の記憶を夢の中で思い出していた。

 次に、山々が見えた。
山の高さ超える大津波が見えた。
康代は“夢なんだ!”と叫んだが、夢は終わらず、すべては水に隠された。

そばで、静女が叫んでいる。

「康代殿!康代殿!康代殿!
ーー 大丈夫でござるか!」

 康代は目覚めて静女を見上げた。
静女は康代を見て微笑んでいる。

「康代殿、うなされていたでござるよ」
『そうなの?なんか・・・・・・。
ーー 夢を見ていたわ。変わった夢だったの。
ーー 私が海の上に立っているの。
ーー そこに見たこともない巨大津波が押し寄せて来たの。
ーー パニック映画のクライマックスシーンのようで怖かったわ』

 珍しく徳田康代は取り乱していた。



 神使セリエが三毛猫の姿で康代の寝室に現れた。

「康代よ。疲れているにゃあ」
『セリエさま・・・・・・』

「その夢は、一部は記憶じゃ、一部は予知夢であるにゃあ」
『・・・・・・』

「心配するなとは言わにゃあいが、
ーー 康代は守られているから大丈夫にゃあ。
ーー 康代、じゃあにゃあ」

 セリエは消えて虹色の光になって金色に輝いていた。
「神々しいでござるー」
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