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【七十四】八月七日、西和の異変と自陣かるた練習でござる!

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 西和大陸の終末が近付いた頃、皇国の神聖学園都市は、いつもと変わらない平和な日常を送っていた。

 八月七日、茶色の学園寮前では、豊下秀美と明里光夏あかりみかせわしなく劇団員二十名の受け入れに動いている。

 朝川夏夜、夜神紫依、赤城麗華、大河原百合の宝田劇団の四人は、団員と顔合わせをしてかるた部に向かった。

 徳田康代は、生徒会執務室で織畑と前畑に、現状を説明していた。
徳田を真ん中に、織畑と前畑が両脇に並び、大きな青いソファに腰掛けている。
天女の天宮静女は、その隣の小さなソファに腰掛けて、遮光カーテンの隙間からグランドのスプリンクラーを見つめていた。



 西和インターネットニュースは西和国内に限定されている。
配信社のオフィスでは、スタッフが上司に報告していた。

「海外への発信が閉ざされています」
「トラブル?」

「それが、電話も不通で、おかしいんです」

「西海岸の間欠泉と陥没は、どうなっている」
「それが、拡大が止まりません」

「群発地震は、どうなった?」
「毎時、二百回レベルに上昇しています」

「何かの前兆なのか」
「まるで、チョコレートバーが溶けているような感じです」

「砂浜が端から大きく消えてなくなっているんですが・・・・・・」
「そんなこと聞いたことがない」

「これが最新の映像です」
「これは液状化現象とは、まるで規模が違う・・・・・・」

「地震学者は、何と言っている」
「それが、気象関係者の殆どが、
ーー 例の神隠し事件で消えてしまっています」

「八方塞がりか」
「・・・・・・」

[ゴーゴゴー、ゴゴー]

 西和インターネットニュースの動画にも地鳴りの音声が記録されていた。
その後、西海岸の砂浜の殆どは、水没して消えた。
まだ、それが前兆と知る者はいない。



 最強神使のセリエは、地球自身の自浄作用の経過を観察して地球の守護神“”に報告した。

「アセリアさま、セリエでございます」
「どうじゃ、西和のゴミ掃除は・・・・・・」

「そろそろでございます」
「まだじゃな・・・・・・セリエよ、ご苦労じゃった」

「アセリアさま、失礼します」

セリエは、消えて光になった。



 次に神使セリエは康代のいる生徒会執務室に黒猫の姿で現れた。

「康代よ。この会話は、
ーー 其方そちにだけ聞こえるから心配はいならぬのじゃ」
『セリエさま、ありがとうございます』

「康代よ。西和の西海岸の砂浜が水没を始めたのじゃ。
ーー まだ、分からぬが用心して待っているのじゃよ」
『ありがとうございます。セリエさま』

 神使セリエは消えて虹色の光になって金色に輝いている。



 姫乃水景ひめのみかげ和泉姫呼いずみひめこが珍しく生徒会室にやって来た。
「康代さん、ランチまだなら、ご一緒しませんか」
水景だった。

『まだ、間に合うかしら』
「大丈夫よーー」

水景の言葉に康代は腰を上げた。
『じゃあ、信美も利恵も静女も行きましょう』
「拙者もお供するでござる」

光夏と秀美もやって来た。
「康代さん、遅いランチですか?」
光夏が尋ねた。

『水景に誘われて行くことにしたの』

「じゃあ、私が人数分を確保するね」
秀美は、言って訂正した。
「一階ですか。二階ですか」

『今日は、二階にしませんか』
「じゃあ・・・・・・」
秀美は言葉尻を残し、その場から消えていた。

「本当に、秀美は忍者みたいにすばしっこいですね」
『そうね、光夏の言う通りよ』

 秀美の後を追いかけて七人は、二階の食堂に向かう。
到着すると、秀美が手招きしている。

「康代さん、水景さん、姫呼さん、こっちですよ」
秀美の大きな声が食堂に響く。

 水景と姫呼は、秀美からゲスト扱いをされているらしい。
静女も、信美も、利恵も、光夏も呼ばれなかった。
秀美にしてみれば、他は身内同然の四人だったのだ。

「康代さん、今日は何にしますか?」
『これから、かるたするから糖質の低いのがいいわね』

「じゃ、ざるそばは、如何ですか」
『そうね。糖質は低くないけど、GI値が低いですね』

宝田劇団の夜神紫依がやって来た。
「GI値はね、グライセミック・インデックスの略で、
ーー 食後血糖の上昇の指標なのよ」

『夜神さんの言う通りよ。
ーー GI値六十以下の食品が良いとされているのよ』

「そういう意味じゃ、お蕎麦そばは、ギリギリセーフね。
ーー じゃあ、私も今日は、ざるそばに決めたわ」
夜神が話していると、朝川、赤城、大河原もやって来た。

「宝田劇団の元大スターと現役の大スターと、
ーー ランチをご一緒できるなんて夢のようでござる」
静女が横ではしゃいでいた。

『静女は、何がいいの』
拙者せっしゃも、ざる蕎麦そばが良いでござる」

 徳田康代は食事を終えると生徒会のメンバーと別れて、かるた部の部室に移動した。



 かるた部は、かなり自由な部活で細かい規律がなく自由な時間に参加出来た。
康代たちが入室すると、新人部員の八人と先輩部員の五人が、かるたの自陣練習をしている。

 顧問の安甲晴美が鮮やかな水色のワンピースで現れ部室の空気が変わる。

「じゃあ、みんな、今日も対戦相手を変えて練習するよ」
安甲は、部室に入るなり指示を始めた。

「自陣の配置は、暗記時間で覚えるのじゃ遅いからね。
ーー 大山札は、ここ。
ーー 五字決まりは、ここと固定化していれば、瞬時に動けるわ。
ーー 毎回、ぐるぐるしていれば、苦しくなるだけよ」

 安甲は宝田劇団の夜神と朝川を見ながら言った。
「今日は八月七日よ。
ーー 十日の認定大会に出場する人は自陣練習を徹底するのよ。
ーー 自陣練習のメリットは一人で出来ることよ。いいわね」

 安甲は宝田劇団の四人を見て対戦カードを発表した。
「徳田さん、今日は夜神さんの相手をして上げて、手加減しないでいいわよ。
ーー 夜神さんは、一枚を取ることに集中するのよ。
ーー 朝川さんの相手は私、赤城さんの相手は唐木田さんで、
ーー 大河原さんの相手は森川さんでお願いしますね」

 安甲あきのは早口で話し終えると読手を指名した。
「三笠さん、読手をお願いします」

 側近の天女天宮静女は、徳田康代のそばにいた。
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