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第6話 集団戦闘訓練

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「ルミナ、ルミナぁーーー!まぁだーーーーー?」



「ちょっと、マナ!声大きいから!皆んな見てるよぉ」



「そんな事言ったって、レンガにここの特製アップルパイ持って行きたいって言ってたのルミナでしょっ?」

「マナぁぁぁ言っちゃダメーーーー!!!!」


全力疾走でマナの口を塞ぎに掛かったが、ヒラリと闘牛を躱す闘牛士が如くルミナを躱し、目的のパン屋の入り口に並ぶ列の最後尾に着く。



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西の塔の遺物についての、カスリとレンガの決意の夜から一カ月。パラネラは特に変わり無く、日常の日々が送られていた。

変わった事と言えば、ある研究生の話題で法学院内が持ちきりとなっている事ぐらいだ。

風変わりな戦闘法を駆使して、瞬く間に研究生【特級】に昇級、実践形式の戦闘訓練も対集団戦に移っているらしい。

今日は全研究生の能力検定試験の日であり、法学院関係者だけでは無く、一般の住民も観覧が可能となっている事もあり、訓練場周辺はある種お祭り騒ぎの様相を呈している。

またギルド認定試験も兼ねている為か、パラネラ冒険者ギルドの関係者やベテランの冒険者と思われる人々も来ている様子だった。


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「はーい、ルミナちゃんお待たせっ!確かアップルパイだったっけ?」



順番待ちの列が終わり、カウンターまで来たところで、意地悪な笑顔をしたパン屋の主人から声を掛けられた。


「もーーマナ!バカ!バカマナ!」



「ちょっ!痛いイタイ!何よ、注文が早く通って良かったじゃないの!」



「そう言う事じゃなくて、、、そっちも笑わないでっ!」



愛しい娘を見守る様に二人の様子を見ていたパン屋の主人にも突っ込みが入る。どうやら自然と笑顔になってしまっていたらしいな、と苦笑いしながら、まだ暖かいアップルパイを箱に入れる。


「はいはい、じゃあ800マルクね。ルミナちゃん、レンガに伝えておいてよ、健闘を祈るってね。」



「、、、、まあ、それは伝えておきます。」



「今じゃルミナも健闘を祈られなきゃいけない立場かもねーーーー?」



「なっっっ!?」



「違いねえ、レンガも有名になって競争率が上がっちまったからなーーはっはっは!」



「もうっっっ別に何でも無いです!今日も訓練見学行きません!アップルパイも自分でたべますっ!」


代金の800マルクをカウンターに置くと、耳まで真っ赤になった顔をそっぽに向けて店の外に小走りで出て行ってしまった。


「おおっと、スネちゃった。じゃあマナちゃん、後はヨロシク。」


「あーゆートコが可愛いのよ、ルミナは。また店に寄ってねー!じゃあ!」


ショートボブの黒髪を揺らしながら、いかにも活発な少女「マナ」はパン屋の扉を開けて、親友のルミナのご機嫌を取るべく通りに出ていった。


同じヨウラン亭で働き、同年代という事もあり、親友としてお互いに気兼ねなく話し合える仲の2人は、休みの日などには、パラネラ大通り沿いにある大陸で流行のファッションブランドの店や、大好物のワッフルの店などを一緒に回り、いわゆる普通の女子の過ごし方をしている。



レンガの競争率はさて置き、法学院生から広まった結果、有名になったのは事実であり、万年研究生だった彼がたった一月で特級と呼ばれるエリートの仲間入りになったシンデレラストーリーが先行して噂を呼んでいた。


中々の顔立ちの最下級上がりの研究生が、風変わりな戦闘で強豪揃いの特級エリートを打ち負かす。そんな話しが法学院の女子達に広まり、街中に広まり、今やレンガは時の人として熱い視線を集める存在となっていたが、約1名は面白くなかった。


「なによ今更。ワタシは最初からミツケテタのに。ミーハー根性出してワタシのレンガに手をダサナイデヨ!」



「ちょっとマナ!?なに今の!?」



「ワタシはアナタのココロの声を『ココロの声要らないからっ!?』」



「ホント強情ね、、、。分かりやすい癖に。」



「分かりやすくないもん。」



「へぇぇぇ?今日は珍しく若草色のワンピース来てきたのは何故か、私が知らないとでも??」



「!!、、、居たの?」



「ルミナさん!そ、そのワンピースめっちゃ似合いますね!可愛いっす!、、、だったっけ?厨房からでも分かるくらい耳まで赤かったわよ。」



「、、、、、、、私は、べ、別にこのワンピースお気に入りだったもん。」



「まったく、語尾にもん付ければ可愛いって訳じゃないのよ、、。とにかく、急いで行くわよ訓練場!いい場所取れないじゃないっ!」


そう言うとルミナの手を取り、大通りを駆け出す。


「きゃっ!もうっマナ!レンガのアップルパイ崩れちゃうじゃない!」



「あれ?だーれの?」「!?もうっ!行くよっ!!」


相変わらず真っ赤な顔のルミナと意地悪なマナの2人は、通りを風を切る様に走り抜けていった。その話の中心となる人物の戦いの場に。



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訓練場でレンガは呟く。



「・・・・うん、いじめだなコレは。」



全体のプログラムは既に後半に差し掛かる所まできており、レンガの公開実践訓練まであと少し。

例年の慣例として公開訓練はマンツーマンの対人戦でここまで来ていたが、先ほど運営部の新入生が恐る恐るレンガの所に一通の文書を持ってきた。

【以下の研究生の実践訓練を、対集団戦にて執り行う変更を通達する。】

 下級研究生 : ロクオンジ レンガ

 以上。


更に、その下には集団戦の相手役の生徒が指名されているのだが、揃いもそろって研究生内の実践訓練上位ナンバーワンから順に20人、きっちりとご指名。どこの誰の圧力が掛かったのか、、、、出る杭は打たれるとは言うが、露骨にも程がある。


「まあ、、、、やんないとオフェリアさんこえぇしな。」


もちろん、どうせオフェリアさんも了承の上の変更だろう。あのどSめ。

ただレンガにだって、オフェリアさんとの過酷な訓練の末に手に入れたそれなりの自信があった。

決して思い出して楽しい時間では無かったが、、、得難い時間でもある。どれだけ厳しい訓練であったとしても、自分を追い込んで強くなる必要がレンガにはあった。


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「ハァハァ、、、、良かった、、まだみたいだね。レンガの訓練。」


「ルミナ、、、風を切る様にってのはあくまで表現なのよ?風術でホンキで風を切って全力疾走するのは違うのよ・・?」


本人いわくお気に入りの若草色のワンピースがめくり上がり、肩で息をしながらも訓練場の観覧席に立つルミナと、その足元にぐったりと身体を横たえるマナの姿があった。

程なく、観覧席の壁面に人だかりが出来ているのに気が付き、例の通達分を目にする。


「ちょっっっと!!?なによコレ!?マナ、これってどういう事?」


「あちゃー・・・これは、上層部の人にでも目を付けられたかなー。いくらレンガでもこれは厳しいかもね・・・。」


突然、ブゥゥン!とルミナの周りに突風が生まれ、ワンピースの裾をはためかせながら、にっこりと張り付いた様な笑顔のルミナがマナに振り向く。


「ちょっとお話ししてくる。」「ダメダメダメッ!!!ルミナダメよっ!」


「あら?お話しするって誰と、どんなお話ししちゃうのかしら?」


憤慨するルミナを、マナが必至になだめていると、艶のある声で問いかけてきた人物がいた。

ゆったりとした白いシャツと黒のパンツの上からでも、思わず見惚れてしまうスタイルの良さ。深く開いたシャツの間からは褐色の肌、手入れの行き届いたストレートの黒髪をなびかせて、魅力的な笑顔を向ける女性。

「あ、オフェリアさん?お、お久しぶりです!」

思わず背筋が伸びる、とはの事だろうか。

「ルミナちゃん、元気そうね?でも、ちょっと風で裾がはしたないわよ?フフッ」


「は、はしたないって、、そんな事!バサッ・・・・すみません。」


風が止み、はためいて太ももギリギリまでめくれ上がっていたワンピースの裾を慌てて抑える。


「っっそうだ!オフェリアさん、確かレンガの専属講師をされてるって!あの通達分、、、」


「もちろん、知ってるわよ。だって、私が許可したんだもの。」


「「ええっ!!?」」ルミナとマナがそろって声を上げる。


「心配性ねぇ。・・・・まあ、前のレンガならそうなるわね。でも、もう研究生レベルじゃ相手にならないと思うし、、ちょうど上層部を説得する口実も欲しかったしね。」


「え、相手にならない?・・・説得?」


「あら、そろそろ始まるわね。・・・見てやって、レンガのデビュー戦よ。」



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特別に観覧席のある訓練場だけあって、天井が高い。


初日の訓練こそ他の研究生と同室の訓練場で行ったものの、それ以降はオフェリアと共に2人で最少クラスの訓練場を貸切で実践訓練だったから余計に大きく見える。最少でも体育館ぐらいの大きさはあるが。


周りを囲む塀の上に観客席が設けられ、さながら闘技場の様だ。



「何のショーを見に来てんだよ、、、。見世物じゃないってのに。」



訓練場を見回すと、ちょうど反対側の扉から相手役の生徒約20名が同じく観覧席を見上げていた。
多くは観客の視線が気恥ずかしいのか、控えめに俯き加減であったが、目立つ輩は何処にでもいる様で、観客に手を振って応えるヤツ、氷の魔法を天井付近に打ち上げてアピールするヤツ、そして、、、



「おい、レンガ!お前こんな集団戦企画して目立とうとしたって甘いんだよっ!」



・・・突っかかってくるヤツ。なんで俺が企画した事になってんだよ。。



「ちげーーーーよっ!オフェリアさんの差し金に決まってんだろっ!」



「はぁ!?あのエロイボディのねーちゃんと、イチャイチャしてただけのお前に差し金って、意味ねーだろうがっっ!」


「「「おおおおおぉ!!そうだっ!!」」」相手役男子の一体感が凄い。


その時、相手役男子軍とオレの間に、冷たい凍気が迸り、ピキピキッと一瞬で低い凍りの壁が地面から立ち上がった。



「静かにしなさいっ!!」



おお、正統派イケメン。観客席からも黄色い声が上がる。

確か今回の立ち会い役を務める、特級クラスを受け持つ講師で、法学院上層部の一人の、、、?名前、なんだっけかな。んーーーー何か美味しそうな感じだった様な。



「今回、この実践訓練の立ち会いを行わせて頂く、ピサーラだ。」



「ブフォッ!!某大手ピザチェーン店!?美味しそっ!!う・・・・・。」



「・・・・。」冷たい、冷たいよ。視線に得意の氷魔法を載せられるの?ピザーラパイセン。



仕切りなおしたピザーラパイセンから、今回の集団戦の実践訓練のルールについて、またその趣旨について両陣営と観客に説明があった。簡単にまとめると以下の通り。

・安全を期するため、魔法は触媒を訓練用の杖にて、剣は訓練用木刀を使用。
・より実践に近い形式とする為、初撃決着では無い。
・脱落の判定は立会人により判断。(レンガは一人の為、危険を考慮し判断は早めとする。)
・あくまで集団訓練の一環であり、私情等を持ち込んで戦いを行わない。



既に4番目に関しては、すでに相手側20名とピザーラパイセンが違反ですが、何か?

ピザーラパイセンは、そもそも臨時講師として突然入って来たオフェリアさんに対して敵意むき出しで、上層部を丸め込み、今回の集団戦を画策。専属で講師をしている万年研究生のオレを潰して、規律を乱す女講師の鼻を折ってやろうとしたが、逆にオフェリアさんからも同様の提案があって、、なめんなコラ、と。


もはや私情以外、何の理由があるだろうか。そして俺は何も悪くない筈。



「レンガァァァァッ!!ヤルぞゴラァァァァッ!!」


「容赦して貰えると思うなやぁぁぁぁぁ!」「柔らかかったのかぁぁぁ?」


「うおぉぉぉぉぉぉっ!」「見たのかぁっ!?」




怒号の中に、男の醜い本音が交じって聞こえる。分かる、分かるよ気持ちは。



野蛮な相手チームの男どもの声を遮るように、立会人講師の・・・ピサーラ先生が割って入る。




「それでは実践訓練を開始するが、、、、その前にレンガくん。」



「ん?はい。」



「止めるなら今が最後の機会だと思うが、どうする?」



「やりますよ、オフェリアさんに怒られますし。・・あと、上の知り合いにも良いとこ見せないとね。」



そう言ってレンガは観客席の最上部、若草色のワンピースに向かって笑いながら手を振った。



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「あ、レンガが手振ってる?おーーーーい!レンガぁ!がんばってねーーーぇ!!!」

スポーン。

「うあぁぁダメッ、ルミナ!アップルパイがっ!アップルパイがぁぁ!」




--え、あれヨウラン亭のルミナさんじゃね?--

---なんでレンガの事応援してんの?---

-ーなんじゃ!?なんで空からアップルパイが?--




ざわつく訓練場。そして膨れ上がる殺意。無駄に増える怒号。無神経に笑顔で手を振るレンガ。

そんなカオスな状況の中、額に青筋の浮かんだピザーラパイセンが声を張り上げる。





「これより集団戦訓練を開始する!双方、、、始めぇぇぇっ!!!」





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