60 / 86
第八章: プレイング・ウィズ・ダークネス
第五話
しおりを挟む
全く、マーガレットは強引だな。これで俺も戦争に強制参加だ。急に戦場に落とされて、どうすればいいか分からなかったが、その心配はすぐに無くなった。
「あなた様は、、、ハ、ハジメ様!!!」
上から転げ落ちて来た俺を見て、兵士たちが言った。たった今気付いたことだが、ノース軍では、どうやら俺は有名人らしい。正直アルバッドとかカンナとか、軍で俺が面識のある奴らは限られているから、他の兵たちが俺を知っているとは全く思わなかった。
「勇者様自ら、戦に参加されるとは。これほど頼もしい助っ人はいません」
さっきから話しているこの兵士は、この地帯を任せられている隊長らしい。他の者と服装が明らかに違っていた。軍服の色は他の兵士たち同様純白だが、隊長は膝くらいまである、これもまた純白色の長い丈のジャケットを着用していた。
見た目は、戦場には似つかないほど綺麗な顔立ちだった。どちらかというと中性的な見た目だが、何かの劇にでも出てそうなくらいだ。
「はあ、こんにちは。えーっと、、、」
俺は隊長の名前が分からなかったので、あるはずもないネームプレートを探していた。それに気付いたのか、あっちから名乗って来た。
「申し遅れました。私はサボン・デュ・フランシス。この橋下A地区を任せられています」
名前もお洒落だった。名前に『デュ』とか『ボン』とか入ってたらお洒落に決まってる。俺も改名しようかな。ハジメ・オ・ナールに。俺にしては珍しく、自虐ネタを言ってしまったな。
「よろしくお願いします、サボンさん」
「サボンとお呼びください。命令なり何なりと仰ってください。それに、敬語はお止めてください」
うわあ、この人、俺の前で跪いちゃったよ。こっちが止めて欲しいわ。アルバッドとかと居る方が楽だと初めて思ったわ。
「そ、そうか。では、敬語を止めよう」
コホンコホン、と俺は偉そうな咳払いをして言った。
「所で、A地区ってのは何なんだ?」
一瞬、勇者であろう者が、そんなことも知らないのかという顔をしたが、ちゃんと説明してくれた。
「この橋下は横に長く続いています。それぞれAからZの地区に分けられていて、それらを任されている隊長が配置されています。私もその中の一人という訳です」
橋の下はそんなに広かったのか、という関心と共に、橋下でこんな大戦が繰り広げられていたのかと思うと、ゾッとした。
神の子に関しては、大天使と上層部何名かしか知らないみたいだった。それは、サボンの反応を見たら分かった。そりゃそうだ。神の子の存在を知ったら、大騒ぎになるし、神の子一人の力で戦況は大いに変わるからな。
「俺も戦闘に参加させてくれ」
「こちらからお願いしたいくらいです」
「今の状況は?」
「ここA地区は今のところ優勢です。このまま戦力を削っていけば、A地区を制圧出来そうです」
「ノース軍は何個地区を制圧出来てるんだ?」
「正直なところ、半分程度です」
じゃあ、全体を見ればどちらが優勢とかは無いってことか。だから長い間続いてるんだな、この戦争は。
「俺はどうすればいい?」
「自由に参加して頂ければと思います」
「そうか、任せとけ」
任せとけと言った割には俺の手が震えてやがる。人を殺したことなんて無いからな。いや、待てよ。別に殺さなくてもいいんじゃないか?峰打ちでも良いし、俺の能力で皆んなのエレメントを見ることも可能だ。でもそれだと俺が持たないかもしれない。
まあ、物は試しだ。
俺はエレメントでイヌを作り、少し開いたズボンのチャックの隙間から魂を出した。暫くすると、イヌはピョンピョン飛び始め、両軍の兵隊の中に飛び込んでいった。
『死ね!』『くたばれ!』などの相手に対する暴言が飛び交っていると思ったが、俺の予想は外れた。
『早く家に帰りたい』
『家族に会いたい』
『戦争なんてもう嫌だ』
聞こえて来た声は、こんなのが多かった。やっぱり誰も戦争なんかしたくないんだ。俺はただ周囲の人のエレメントを読むことしか出来ない。勇者として相手を倒すべきなんだろうが、声を聞く限り、敵もただの人なんだ。ゴンゾウと同様に、待ってる家族がいるんだ。そんな奴らを殺すことなんて出来ない。
この歯痒さが俺の中で闇に変わっていくんだろう。そして、今回の特訓では、この闇に慣れることと、素早く光を回復する力を付けることが目的だ。そんなの、どうやってやればいいんだ。
戦争を止めるには全地区を制圧しなければならない。でもそのためには、敵兵を殺さないといけない。それで良いのか?最終的には全員幸せになれるのか?
俺はヨハンのことを思い出していた。アイツは平和的解決を求めていたが、結局エマやゴンゾウたちによって平和的ではなくなった。一人が平和を望んでも何も変わらないんだ。一人では何も出来ないんだ。そんな気がしてきた。俺一人で何が出来るんだ。
虚しさという闇が、俺の中で湧いてきた。敵を倒さないで解決なんて出来ないんだ。俺は役立たずだ‥‥‥
『そんなことないわ。私だって居るんだから』
カンナの声が聞こえたような気がする。会いたい。カンナに会いたい。そうだ、俺は一人じゃないんだ。大丈夫だ。ありがとう、カンナ。
何回もこの失敗を繰り返すわけにはいかない。俺は一人じゃない。俺は一人じゃない。俺は一人じゃない!
これを何回も復唱し、俺は頭に叩き込んだ。そして前に進んだ。
「大丈夫ですか、ハジメ様」
「ああ、大丈夫だ。これからA地区を制圧するぞ、サボン!」
「あなた様は、、、ハ、ハジメ様!!!」
上から転げ落ちて来た俺を見て、兵士たちが言った。たった今気付いたことだが、ノース軍では、どうやら俺は有名人らしい。正直アルバッドとかカンナとか、軍で俺が面識のある奴らは限られているから、他の兵たちが俺を知っているとは全く思わなかった。
「勇者様自ら、戦に参加されるとは。これほど頼もしい助っ人はいません」
さっきから話しているこの兵士は、この地帯を任せられている隊長らしい。他の者と服装が明らかに違っていた。軍服の色は他の兵士たち同様純白だが、隊長は膝くらいまである、これもまた純白色の長い丈のジャケットを着用していた。
見た目は、戦場には似つかないほど綺麗な顔立ちだった。どちらかというと中性的な見た目だが、何かの劇にでも出てそうなくらいだ。
「はあ、こんにちは。えーっと、、、」
俺は隊長の名前が分からなかったので、あるはずもないネームプレートを探していた。それに気付いたのか、あっちから名乗って来た。
「申し遅れました。私はサボン・デュ・フランシス。この橋下A地区を任せられています」
名前もお洒落だった。名前に『デュ』とか『ボン』とか入ってたらお洒落に決まってる。俺も改名しようかな。ハジメ・オ・ナールに。俺にしては珍しく、自虐ネタを言ってしまったな。
「よろしくお願いします、サボンさん」
「サボンとお呼びください。命令なり何なりと仰ってください。それに、敬語はお止めてください」
うわあ、この人、俺の前で跪いちゃったよ。こっちが止めて欲しいわ。アルバッドとかと居る方が楽だと初めて思ったわ。
「そ、そうか。では、敬語を止めよう」
コホンコホン、と俺は偉そうな咳払いをして言った。
「所で、A地区ってのは何なんだ?」
一瞬、勇者であろう者が、そんなことも知らないのかという顔をしたが、ちゃんと説明してくれた。
「この橋下は横に長く続いています。それぞれAからZの地区に分けられていて、それらを任されている隊長が配置されています。私もその中の一人という訳です」
橋の下はそんなに広かったのか、という関心と共に、橋下でこんな大戦が繰り広げられていたのかと思うと、ゾッとした。
神の子に関しては、大天使と上層部何名かしか知らないみたいだった。それは、サボンの反応を見たら分かった。そりゃそうだ。神の子の存在を知ったら、大騒ぎになるし、神の子一人の力で戦況は大いに変わるからな。
「俺も戦闘に参加させてくれ」
「こちらからお願いしたいくらいです」
「今の状況は?」
「ここA地区は今のところ優勢です。このまま戦力を削っていけば、A地区を制圧出来そうです」
「ノース軍は何個地区を制圧出来てるんだ?」
「正直なところ、半分程度です」
じゃあ、全体を見ればどちらが優勢とかは無いってことか。だから長い間続いてるんだな、この戦争は。
「俺はどうすればいい?」
「自由に参加して頂ければと思います」
「そうか、任せとけ」
任せとけと言った割には俺の手が震えてやがる。人を殺したことなんて無いからな。いや、待てよ。別に殺さなくてもいいんじゃないか?峰打ちでも良いし、俺の能力で皆んなのエレメントを見ることも可能だ。でもそれだと俺が持たないかもしれない。
まあ、物は試しだ。
俺はエレメントでイヌを作り、少し開いたズボンのチャックの隙間から魂を出した。暫くすると、イヌはピョンピョン飛び始め、両軍の兵隊の中に飛び込んでいった。
『死ね!』『くたばれ!』などの相手に対する暴言が飛び交っていると思ったが、俺の予想は外れた。
『早く家に帰りたい』
『家族に会いたい』
『戦争なんてもう嫌だ』
聞こえて来た声は、こんなのが多かった。やっぱり誰も戦争なんかしたくないんだ。俺はただ周囲の人のエレメントを読むことしか出来ない。勇者として相手を倒すべきなんだろうが、声を聞く限り、敵もただの人なんだ。ゴンゾウと同様に、待ってる家族がいるんだ。そんな奴らを殺すことなんて出来ない。
この歯痒さが俺の中で闇に変わっていくんだろう。そして、今回の特訓では、この闇に慣れることと、素早く光を回復する力を付けることが目的だ。そんなの、どうやってやればいいんだ。
戦争を止めるには全地区を制圧しなければならない。でもそのためには、敵兵を殺さないといけない。それで良いのか?最終的には全員幸せになれるのか?
俺はヨハンのことを思い出していた。アイツは平和的解決を求めていたが、結局エマやゴンゾウたちによって平和的ではなくなった。一人が平和を望んでも何も変わらないんだ。一人では何も出来ないんだ。そんな気がしてきた。俺一人で何が出来るんだ。
虚しさという闇が、俺の中で湧いてきた。敵を倒さないで解決なんて出来ないんだ。俺は役立たずだ‥‥‥
『そんなことないわ。私だって居るんだから』
カンナの声が聞こえたような気がする。会いたい。カンナに会いたい。そうだ、俺は一人じゃないんだ。大丈夫だ。ありがとう、カンナ。
何回もこの失敗を繰り返すわけにはいかない。俺は一人じゃない。俺は一人じゃない。俺は一人じゃない!
これを何回も復唱し、俺は頭に叩き込んだ。そして前に進んだ。
「大丈夫ですか、ハジメ様」
「ああ、大丈夫だ。これからA地区を制圧するぞ、サボン!」
0
あなたにおすすめの小説
やさしい異世界転移
みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公
神洞 優斗。
彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった!
元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……?
この時の優斗は気付いていなかったのだ。
己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。
この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編
収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?
木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。
追放される理由はよく分からなかった。
彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。
結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。
しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。
たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。
ケイトは彼らを失いたくなかった。
勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。
しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。
「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」
これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。
ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜
平明神
ファンタジー
ユーゴ・タカトー。
それは、女神の「推し」になった男。
見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。
彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。
彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。
その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!
女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!
さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?
英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───
なんでもありの異世界アベンジャーズ!
女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕!
※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。
※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。
老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!
菊池 快晴
ファンタジー
10代という若さで老衰により病気で死んでしまった主人公アイレは
「まだ、死にたくない」という願いの通り異世界転生に成功する。
同じ病気で亡くなった親友のヴェルネルとレムリもこの世界いるはずだと
アイレは二人を探す旅に出るが、すぐに魔物に襲われてしまう
最初の武器は木の棒!?
そして謎の人物によって明かされるヴェネルとレムリの転生の真実。
何度も心が折れそうになりながらも、アイレは剣と魔法を使いこなしながら
困難に立ち向かっていく。
チート、ハーレムなしの王道ファンタジー物語!
異世界転生は2話目です! キャラクタ―の魅力を味わってもらえると嬉しいです。
話の終わりのヒキを重要視しているので、そこを注目して下さい!
****** 完結まで必ず続けます *****
****** 毎日更新もします *****
他サイトへ重複投稿しています!
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる