悪役のままで

玉袋 河利守

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4”あの子は目が良いんだ。

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 「それにしても、殺戮兵器って言われてた葛霧が接客業って。どう言う風の吹き回しなんだよ。」
 「接客業は、人を殴っちゃ言えないんだゼェ?」

 「‥フゥー‥‥、黙れ。ノッポとチッポ」

 「誰がノッポなんだよ!!」
 「誰がチッポなんだよ!‥ってか、チッポってなんだよ!!しかもちょっと危ないし!」

 「‥‥‥チィ。黙れよ。」

 ブチギレる2人を無視して目を瞑ったまま煙草を吹かす。今日は相当、激務だったらしく疲れているみたいだった。

 今、僕と葛霧君は同じ職場で働いている。

 高校を卒業して、家をそそくさと出ていき、社会人になった僕。此処から僕の新しい人生だと浮かれていたのだが、残業の日々、悪態しか付かない上司に性格の悪い同期。彼女を作りたいなんて夢もあったが、そんな事をする暇もない大量の仕事。あれだけいた僕の同期達も気付けば残りは僕含め2人。睡眠も削られて、心身共に病んでしまったのだ。

 ただ、そんな事で折れるほど狂気じみた世界で生きてはいなかった。

 僕は喰らい付いた。身体は慣れてゆく物。時に身を任せて必死になって取り組んだ。その結果、成績は伸び、頑張りを認められる様になった。そして、なんと僕がプロジェクトのリーダーに任命されるまでに登り詰めていた。同期で入った鐘花 翁と言う女性と高め合い、ライバルとして仕事を務めていた。

 僕の案が上層部の耳に届きやすくなった頃、昭和じみた風潮を少しでも消していこうと努力していた。可愛らしい後輩も出来て、僕の心にも余裕が出来た。

 あれだけ精一杯になっていた頃と比べて、今は仕事を任せる存在、やる事はしっかりとあるが暇な時間が増えると視野が広くなる。そして僕は気付く。

 右も左もわからない後輩に、丁寧に仕事を教える翁さんの事を目で追っていた。長い黒赤紫色の髪をまとめ上げて、バンズクリップで留めた姿。そこから見える横顔を、キーボードから手を離して目で追っていた。

 どんな事でも真剣に取り組み、ブラック企業でも折れない精神。今は、この会社の風潮を変えようとしている僕に手を貸してくれる人の良さ。

 彼女の全てに惚れてしまった。でも、

 でも、折れてしまった。

 「二度と、話しかけないで。‥」

 裏切られた。‥僕も裏切りだけは体制がなかった。

 翁の行動や言動に、僕の強かった精神は簡単に折れてしまったのだ。

 何も手をつけられなかった。やる気がなくなってしまった。仕事だけを糧に頑張って来た6年間、僕の手元にはお金だけが残った。生きる為に稼いだ筈のお金、大量にあった。でも生きる気力すら出てこなかった。お金では何も僕の心を癒す事なんて出来なかった。

 そして直様、会社を辞めて此方に戻って来た。

 お金ではない何がを求めて、お家に帰ろうとした。


 「‥んで、価格が明日から変わる商品の値段表は、机に置いてあるからな。」

 「‥‥‥。」

 「聞いてんのか?‥」

 
 寂しかったんだろう。必死に仕事をして来た僕は、彼方の会社で友達すら作らなかった。だから寄り添える人なんていなかった。そもそも、友達の作り方なんて物も知らないし。

 実家に戻ったは良いが怖気付いてしまい、またこの駐車場で高校生のあの頃の様に不良達に絡まれてしまった。カツ揚げかと財布を取り出した所。来てくれた。来てくれたんだ。僕を見つけてくれた。

 「おい!!聞いてんのか!!」

 「あ!。え?ごめん。ボッーとしてた。」

 「はぁぁ、今日は休みだったんだろ?何が疲れただ。プライス!!作ってあるから朝変えとけよ。」

 「あぁ!やってくれたのかい?ありがと、クズ。」

 葛霧君が見つけてくれた。
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