終わりのはじまり

momiwa

文字の大きさ
12 / 26
第三章 エリコの話

失恋①

しおりを挟む
 バイト先の店長が結婚すると知ったのは一週間前。同じバイトの仲間から聞いた。エリコは密かに店長に恋をしていた。店長がモテるのも知っていた。来るもの拒まず、去る者追わず。そんな大勢の女の一人で終わりたくはないと、気持ちを伝えられずにいた。こんなことなら告白していれば良かったと、後悔の念がエリコを襲う。

 あれから店長とは顔を合わせているが、本当に結婚するのか確かめられてはいない。お客さんの少ない時間を狙ってと思うのだが、幸か不幸か繁盛しておりチャンスはこない。この居酒屋でバイトを始めてもう2年。顔なじみのお客も多いアットホームなお店だ。

「エリコちゃん、なんか元気ない?」

「そんなことないですよー」

 と、から元気で返す。

「店長、いる?」

「ごめんなさい。店長は今、ちょっと出かけていて」

「おっ。噂の彼女のとこか?結婚するんだって?」

「いえいえ、食材が足りなくなったので買い出しに行っただけですよ。そういえば、店長の結婚相手ってどんな人なんですか?」

「10歳も年下の美人らしいよ」

「へぇ。そうなんですか。じゃぁ、美男美女夫婦ですね」

 そう返事をしながらも、エリコの心は穏やかではいられない。美人だと聞いて仕方がないと思う反面、若さなら自分だってと思う。だがそれ以上に、やはり結婚してしまうのかと実感し気持ちが沈む。どこにも行き場のない気持ちを抑え込み、残りのバイト時間をやり過ごす。珍しく早めにお客の波が引き、店長が声をかけてくる。

「今日はもう上がってくれていいよ」

「はい。じゃぁお先に失礼します」

 本当は違う言葉をかけたいエリコだったが、出てきたのはいつも通りの返事だった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

妻への最後の手紙

中七七三
ライト文芸
生きることに疲れた夫が妻へ送った最後の手紙の話。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...