ユーレイ食堂

第2章 下宿

新生活①

　ゆう子がこのやまだ食堂の二階に越してきて、あっという間に一ヶ月が過ぎた。

　もともと彼の部屋に移り住む予定で、家財道具はほとんど処分していたため、スーツケース一つでこの部屋に越してきた。

　張り切って買ったペアの食器や、お揃いのパジャマなどは全て彼の部屋に置いてきた。百貨店で大金はたいた事が今更ながらに悔やまれる。なけなしの貯金なんて崩さす、こんなことなら食器ぐらい百均で済ませばよかった。そんなことをぼんやりと考えながら、ゆうこはパソコンとにらめっこしていた。

　８畳の和室の中は殺風景だ。もともとあった布団と小さな文机、その上にノートパソコンを置けばもう仕事部屋兼寝室の完成である。

　ゆう子は主にイラストやデザインの仕事をしている。フリーランスといえば聞こえは良いが、実際は月によって収入の増減も多く、お世辞にも軌道に乗っているとはいえない。

　単発のアルバイトなどをしてなんとか生活はしのいでいたが、彼の部屋へ引っ越せばそんなアルバイト生活にも終止符がうてると思っていた。人生、そうは上手くいかないものである。

　だが、捨てる神あれば、拾う神ありというところか。運良くこのやまだ食堂の二階に住めることとなり、収入が不安定なゆう子にとって食事付きというのは夢のような話だった。

　清三、トヨ、清子、そしてお客さんには常連が多く、みな温かい。このにぎやかなやまだ食堂での日々のおかげで、ゆう子の寂しさも少しずつ薄れていっていた。