ユーレイ食堂

第3章 年下の男の子

決断

　夏の昼下がり、ゆう子はまだ布団の中にいた。

　昨夜は良く眠れなかった。泣きながら眠ってしまったせいで、目が腫れてうまく開けられない。

　洗面所でタオルを濡らし目に当てるが夏の気温とゆう子の体温で、すぐにタオルは温くなる。やっと腫れがひいてきた夕方、今日初めての食事をとりに食堂へ向かう。

「あぁ、ゆう子ちゃん。なかなか下りてこないから心配してたのよ」

「清子さん、心配かけてすみません」

「ゆう子ちゃん、ビール飲むかぃ」

「清三さん、ありがとう。でも、今日はやめときます」

　清子が作ってくれていた朝食のおかずと昼食のおにぎりをお盆に乗せ、清三の隣に座る。トヨも心配そうな目でゆう子を見つめている。

「昨日、彼にお断りしてきました」

そう言うとおにぎりを頬張り、ゆっくりと噛みしめる。

「清三さんとトヨさんの話を聞いて、思ったんです。もし彼と結婚して歳を重ねて昔を思い返した時、そんなに愛おしそうに喋れるのかなって。穏やかな日々と幸せな日々って似てるようで違うんだって思ったんです」

　震えるゆう子の肩を清三がトントンと優しくたたく。必死に堪えていた涙が零れ落ちた。清子がハンカチをそっと差し出す。

「お別れした時にお守りを渡したんです。彼の夢が叶うようにって。そしたら彼……　夜、LINEをくれて。お守りに願いを込めましたって。私がこれからも幸せでいられますようにって……　本当に最後まで素敵な人だったのに……　」

「ゆう子ちゃん。きっとその彼にもゆう子ちゃんにもこれから先、もっともっとたくさんの幸せが待ってるから大丈夫だよ」

そう言って、清三はゆう子の肩を強く握りしめた。