天使達の憂鬱

樹林

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魔王子は嘲笑う

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私は母が苦手だった。

半分は悪魔、半分は天使のままの母を見ると悲しみが湧いてくるからだ。

あの慈しみ、いたわるような瞳も、悲しげな微笑みも全てが嫌悪の対象になっているというのに、母の眼差しが変わる事はなく、それに我慢が出来なくて母を遠ざけるよう父に進言し、父は「子育ては終わりか!ならば彼女はもう私だけのものだ」と喜んで了承した。

父は堕天使だそうだから、その頃から狙っていたのだろうが、私にはあの女のどこがいいのかさっぱり分からない。

そんな時に父が言った。

「お前もそろそろ地上に慣れないとな」

「なぜですか」

「人間は可愛い生き物だからだ。糧にもなるし嗜好品にも愛玩動物にもなるからな」

「私はまだ人間の魂を食した事はありませんが」

「最初の人間というのは大事なんだ。伴侶とする者もいればその魂を小瓶に入れて記念に持つ者もいる。もちろん食べてしまう者もな」

「そういうものですか」

「お前の見た目は高校生という所かな·····学校という場所に通って品定めするというのはどうだ?その学校の全てがお前の餌場になるのだから好きに遊べるぞ」

「それはいいですね。では下見に行って良さそうな場所を探しましょう」

「ああ、行ってこい」

その言葉に黒い翼を出して空へと羽ばたき、初めての人間界へと心を弾ませて出て行った。

だが、なんだこのゴミゴミした場所は?

地獄にいる人間の魂は薄汚れているが、肉体を持った人間共はもっと酷いではないか。

こんな所に私の最初の獲物が本当にいるのか?と思いながら空を飛び、様々な国を回ったがどこにも食指の動く人間はおらず、このまま地獄に帰りたい気分になった時にある島国に着いた。

「友梨奈、待って」

その声は鈴のように軽やかで少し甘く、なぜだかは分からないが興味をそそり見てみると、清廉でありながらどこかいびつな美しい少女が友人の所へと笑顔で向かっている所だった。

────この女だ。

一目見てそう思った私は少女を観察する事にしたが、何故か家に近付く事ができず、強力な守護の力が働いていると察した。

「天使が絡んでいるのか?それなら尚面白い」

俄然やる気を出した私は更に調査を進め、少女の名が紫之宮彩未という事、現在は15歳で来年から高等部という場所に入る事、そこには外から来た者も試験というものを受ければ入れると知り、いい感じに黒く染まった金持ちの家に息子として入り込んで少女のいる学園に行く事が決まった。

その報告をする為に地獄へ戻ると、人形のようになった母が父に抱かれていて、全く生気のない瞳を見てホッとするのと同時に違和感を覚える。

「父上、母上はどうなさったのですか?」

「私の邪魔をしようとしたから罰を与えたんだ。見てみろ、もう私に逆らう事も蔑みの目で見る事もないぞ!この美しい見た目さえあれば永遠に楽しめるからな」

楽しそうに嘲笑う父に、それに何の意味があるのかと思ったが、それよりも母の翼が気になった。

「なぜ、漆黒が灰色に?」

「暗闇の中で天使としての役目を思い出したらしくてな。これは天使の頃から常に仲間を信じ、支えて来た自己犠牲の心を持っているからな」

「そうですか·····完全に天使に戻る前に処置できて良かったですね」

「ああ、お前を地上に行かせて良かったぞ」

うっとりと母の頬を撫でながらも手酷く陵辱し続ける父に背を向けて部屋を出るとまた人間界へと戻った。

その時になって父に報告をしていない事に気付いたが、たかが数年の事を報告する必要もないだろうと思い直して人間としての棲み家へと戻った。

侑李ゆうり、どこに行っていたんだ。お前の婚約者を選んで来たぞ」

横柄なジジイにそう言われ、思わず本性を出しそうになったがすんでの所で堪えて笑顔を作る。

「申し訳ありません。学園の下見に行っていたのですよ」

「今ここに来てるんだ。早く着替えて応接室に来い!」

仕方なく部屋に行き、正装に着替えてから応接室へと行くと、ここまで醜悪な生き物がこの世にいたのかと思う位の魂を持った女がそこにいた。

「初めまして、東森麗華と申します」

優雅に挨拶をする様は令嬢らしく勝気そうではあるが美しいのだが、その中身は化け物に近い。

何人もの人間を傷つけ殺して来た快楽殺人者───家の力でもみ消してきたのだろうが、醜い豚は連れて来る者も醜いのだなと思いながらなるべく優しく微笑んで挨拶をする。

「初めまして、西園寺侑李と言います。長く海外にいたので色々と教えて頂けるとありがたいですね」

決めた。

この女がしてきた事をそっくりそのまま返してやる。
大きめの瓶に入れ、永遠に救われる事のない地獄を味あわせてやろう。

この女も同じ学園に通うらしいから、彩未には近付けないようにしないとな。
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