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第一王子
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※ あっさりですが残酷表現があるので、苦手な方はバック推奨。
物心ついた頃にはこの広い王宮で1人だった。
離宮に閉じ込められて外に出る事もままならず、顔を見るのは俺の身の回りの世話をする使用人と王妃の送り込んで来た刺客だけの日々は、確実に俺の心を蝕んでいったよ。
そして、人が見る自分の姿と使用人達が見る姿が違うという事を、それが母が自らの命を使ってした事だと気付いた頃にフローリスに出会ったんだ。
4つ下のこの少女は誰も来ない筈の枯れ果てた庭園に来て、キョロキョロと周囲を見回して誰もいない事を確認してならポロポロと涙を零し始め、涙など見た事のなかった俺はその姿を美しいと思い、部屋を出てフラフラとフローリスに近付いた。
俺の姿を見たフローリスは驚き、それでも逃げずにポツポツと自分の状況を話し始めたが、それまで良い子だった娘が我儘になったからと言ってすぐに見限るものか?と疑問に思ったが、それを口に出す事はできなかった。
この美しい少女が心の中に悲しみを飼い続ける限りは俺の所へ来て、俺に抱き着いてその美しい涙を見せてくれると知っていたから。
あの男に呼ばれたのは16歳になった頃。
母親似の俺を気に入ったあいつは、俺を側に置いて父親として有るまじき事を散々とやらかしたよ。
苦悶の表情を浮かべる俺を見て悦に入るあの男は、見た目は人間でも心は悪魔だったからな。
その歪な関係は始まるのも突然なら終わるのも突然で、刺客との戦いで頬に傷を負った俺を見て「その醜い傷を見せるな」とだけ言ってあの男の部屋から追い出され、その翌日には騎士団に放り込まれて鍛錬という名の拷問を騎士団長から受け続ける事になった。
騎士団長には加虐趣味があり、俺に傷が増える程に興奮してその後は必ず俺を自分の仮眠室へと連れ込んでもっと酷い目に合わせたよ。
その頃にはフローリスと合う事もままならなくなっていたが、自室に戻ると必ず花と「あなたに会いたい」というメッセージが残されていて、それが俺の心を癒してくれたが、俺の彼女に会いたいと思う気持ちは彼女以上に強かったせいなのか背中に黒い蝙蝠のよつさうな翼が生えた。
「なんだこれは」
そう言いかけるのと同時に翼は俺の意思とは関係なく羽ばたき、ある場所へと連れて行った。
「·····クラウス様?」
その屋敷のバルコニーにいたのはフローリスで、この突然生えた翼は俺をフローリスの元へと連れて来る為に現れたのだとその時になってやっと理解した。
「フローリス、お前に会いたくてこんなものが生えて来たぞ」
「まぁ、それならいつでもお会いできるという事でしょうか?」
こんな姿にも臆する事なく微笑むフローリスが愛おしく、その日から毎晩のように逢瀬を重ねて愛を確かめあったが───フローリスは正妃の子というだけで愛され王太子にもなった義弟の婚約者で、俺は母の姿すら知らぬ打ち捨てられた名ばかりの王子。
フローリスの身も心も全て手に入れる為にすべき事は何かと考えていた頃に、魔の国の侵略に将として出ろという命令が下った。
魔族を実際に見た事はないが、人間とはかなり異なった姿をしている上に身体能力が高く、特殊な能力も持っているという事は聞いていたから、これは俺を殺す為の戦争だとすぐに気付いたが拒否権などなく、フローリスに会いに行く事すらできないままで国境へと向かったのだが、そこで戦う筈の敵の全てが私に膝を折った。
「ユリア様の面影を色濃く残す貴方様は、我が国の正統な王位継承者でございます」
狼の顔を持つ屈強な男がそう言うと俺の体が青白く発光し、その後すぐに弾けて人間達を襲い命を奪うだけでなく、その魂の全てが俺に吸収されて行く。
「なんだこれは·····この力は!」
急激に増して行く魔力に吐き気を覚えながら叫ぶと、狼の顔を持つ男がニタリと笑った。
「ユリア様によって隠されていた貴方様の能力が覚醒したのです·····クラウス皇太子殿下」
「俺はユリアなどという女は知らん!」
「·····長きに渡り国交を断絶していた我が国が、この国の挑発に乗って戦争を始めたのは何故だと思いますか?」
「知る筈がないだろう!」
「この森で穢されて殺された、当時の姿のままのユリア様が見つかったからです」
「どういう意味だ!」
「戦争を始めたのは5年前ですが、ユリア様が殺されたのは魔術師の過去視によると22年前の春。貴方様が生まれたその日で·····王都からここまで転移させて穢してからトドメを刺されたそうです」
「誰がそんな事を·····」
「命じたのは国王、実行したのは宰相と騎士団長です。それと、貴方様にあの王の血は一滴も流れてはいません·····ユリア様の護衛として庭師に偽装していた我が国最強の吸血鬼が貴方様の本当の父親です」
目の前が真っ赤になり、俺の体からどす黒い力が放出されて行くと、敵も味方もその場に崩れ落ちて行く。
狼の顔を持つ男も苦しげな顔をしながら、尚も俺に言い募った。
「この国は滅ぼすべきなのです!我が国の子供を秘密裏に攫い、おもちゃのように扱う者達など滅ぼさねばならないのです!」
「·····そんな生ぬるい事でどうする」
「は?」
狼の顔を持つ男が首を傾げて俺を見たが、戸惑いの目はすぐに歓喜に変わった。
「人間は元々我らの食料だっただろう。何代か前の日よった魔王が人間に自由を与えたのがそもそもの間違い。間違いは正すべき、そうだろう?」
「はい!始祖様の言う通りにございます!」
他の者達も喜びに震え、全身を震わせながら天を仰いで咆哮した。
そして俺達はその足で王宮に向かい、王には母と同じ苦しみを与え、俺を殺そうと刺客を差し向け続けた王妃は餌となった。
奴らは簡単には死なせない·····これは復讐でもあるから。
そして次に向かったのはフローリスの通う学園だ。
部下に偵察させた所、フローリスの言っていた断罪の真っ最中という事で最高のタイミングで中に入る事ができたのは僥倖だったな。
だが、あれ以来フローリスは笑わない。
俺の祖父と名乗る爺がフローリスの事を認めず、正妃として蛇族の女を送って来たせいだろうが、この女は厄介であの王妃のように刺客をフローリスに差し向け、その度に死にかけた彼女からは表情も感情も消えてしまった。
もちろん刺客はすぐに殺してはいるが、名ばかりとはいえ正妃を殺すのは新たな火種を生む事になるから避けたい所ではある。
人間は牧場に連れて行かれて家畜として飼育しているが、フローリスの為にコックを1人だけ王宮に置いて彼女の飯を作らせてはいるが、それを口にする事は殆どない。
まだ気付いてはいないようだが、フローリスの腹には既に俺の子が宿っているからしっかりと栄養を採ってもらわないと困る。
魔王の番でありその子供を宿した女は魔王と同じ寿命を得るが、このままでは自分から命を捨ててしまいそうで恐ろしい。
「フローリス、何を考えてるんだ?」
「いいえ、何も」
バルコニーからぼぅっと外を見るフローリスの目には光がなく、それを悲しく思いながら腰を引き寄せて首筋に牙を突き立てる。
血を啜るのではなく、腹の子に俺の生気を送る為に。
子供ができたと分かれば、お前はまた俺を見てくれるのだろうか。
以前のように泣き、笑い、俺に甘える姿を見せてくれる日は来るのだろうか。
既に魔族と変化していくフローリスには、人の頃にあった真実を見る瞳とやらはなくなっているが、彼女はそれに気付いているのだろうか。
時間はうんざりする程にあるのだから、ゆっくりと自覚してくれればいいだろう。
俺はそれを待つだけだ────。
物心ついた頃にはこの広い王宮で1人だった。
離宮に閉じ込められて外に出る事もままならず、顔を見るのは俺の身の回りの世話をする使用人と王妃の送り込んで来た刺客だけの日々は、確実に俺の心を蝕んでいったよ。
そして、人が見る自分の姿と使用人達が見る姿が違うという事を、それが母が自らの命を使ってした事だと気付いた頃にフローリスに出会ったんだ。
4つ下のこの少女は誰も来ない筈の枯れ果てた庭園に来て、キョロキョロと周囲を見回して誰もいない事を確認してならポロポロと涙を零し始め、涙など見た事のなかった俺はその姿を美しいと思い、部屋を出てフラフラとフローリスに近付いた。
俺の姿を見たフローリスは驚き、それでも逃げずにポツポツと自分の状況を話し始めたが、それまで良い子だった娘が我儘になったからと言ってすぐに見限るものか?と疑問に思ったが、それを口に出す事はできなかった。
この美しい少女が心の中に悲しみを飼い続ける限りは俺の所へ来て、俺に抱き着いてその美しい涙を見せてくれると知っていたから。
あの男に呼ばれたのは16歳になった頃。
母親似の俺を気に入ったあいつは、俺を側に置いて父親として有るまじき事を散々とやらかしたよ。
苦悶の表情を浮かべる俺を見て悦に入るあの男は、見た目は人間でも心は悪魔だったからな。
その歪な関係は始まるのも突然なら終わるのも突然で、刺客との戦いで頬に傷を負った俺を見て「その醜い傷を見せるな」とだけ言ってあの男の部屋から追い出され、その翌日には騎士団に放り込まれて鍛錬という名の拷問を騎士団長から受け続ける事になった。
騎士団長には加虐趣味があり、俺に傷が増える程に興奮してその後は必ず俺を自分の仮眠室へと連れ込んでもっと酷い目に合わせたよ。
その頃にはフローリスと合う事もままならなくなっていたが、自室に戻ると必ず花と「あなたに会いたい」というメッセージが残されていて、それが俺の心を癒してくれたが、俺の彼女に会いたいと思う気持ちは彼女以上に強かったせいなのか背中に黒い蝙蝠のよつさうな翼が生えた。
「なんだこれは」
そう言いかけるのと同時に翼は俺の意思とは関係なく羽ばたき、ある場所へと連れて行った。
「·····クラウス様?」
その屋敷のバルコニーにいたのはフローリスで、この突然生えた翼は俺をフローリスの元へと連れて来る為に現れたのだとその時になってやっと理解した。
「フローリス、お前に会いたくてこんなものが生えて来たぞ」
「まぁ、それならいつでもお会いできるという事でしょうか?」
こんな姿にも臆する事なく微笑むフローリスが愛おしく、その日から毎晩のように逢瀬を重ねて愛を確かめあったが───フローリスは正妃の子というだけで愛され王太子にもなった義弟の婚約者で、俺は母の姿すら知らぬ打ち捨てられた名ばかりの王子。
フローリスの身も心も全て手に入れる為にすべき事は何かと考えていた頃に、魔の国の侵略に将として出ろという命令が下った。
魔族を実際に見た事はないが、人間とはかなり異なった姿をしている上に身体能力が高く、特殊な能力も持っているという事は聞いていたから、これは俺を殺す為の戦争だとすぐに気付いたが拒否権などなく、フローリスに会いに行く事すらできないままで国境へと向かったのだが、そこで戦う筈の敵の全てが私に膝を折った。
「ユリア様の面影を色濃く残す貴方様は、我が国の正統な王位継承者でございます」
狼の顔を持つ屈強な男がそう言うと俺の体が青白く発光し、その後すぐに弾けて人間達を襲い命を奪うだけでなく、その魂の全てが俺に吸収されて行く。
「なんだこれは·····この力は!」
急激に増して行く魔力に吐き気を覚えながら叫ぶと、狼の顔を持つ男がニタリと笑った。
「ユリア様によって隠されていた貴方様の能力が覚醒したのです·····クラウス皇太子殿下」
「俺はユリアなどという女は知らん!」
「·····長きに渡り国交を断絶していた我が国が、この国の挑発に乗って戦争を始めたのは何故だと思いますか?」
「知る筈がないだろう!」
「この森で穢されて殺された、当時の姿のままのユリア様が見つかったからです」
「どういう意味だ!」
「戦争を始めたのは5年前ですが、ユリア様が殺されたのは魔術師の過去視によると22年前の春。貴方様が生まれたその日で·····王都からここまで転移させて穢してからトドメを刺されたそうです」
「誰がそんな事を·····」
「命じたのは国王、実行したのは宰相と騎士団長です。それと、貴方様にあの王の血は一滴も流れてはいません·····ユリア様の護衛として庭師に偽装していた我が国最強の吸血鬼が貴方様の本当の父親です」
目の前が真っ赤になり、俺の体からどす黒い力が放出されて行くと、敵も味方もその場に崩れ落ちて行く。
狼の顔を持つ男も苦しげな顔をしながら、尚も俺に言い募った。
「この国は滅ぼすべきなのです!我が国の子供を秘密裏に攫い、おもちゃのように扱う者達など滅ぼさねばならないのです!」
「·····そんな生ぬるい事でどうする」
「は?」
狼の顔を持つ男が首を傾げて俺を見たが、戸惑いの目はすぐに歓喜に変わった。
「人間は元々我らの食料だっただろう。何代か前の日よった魔王が人間に自由を与えたのがそもそもの間違い。間違いは正すべき、そうだろう?」
「はい!始祖様の言う通りにございます!」
他の者達も喜びに震え、全身を震わせながら天を仰いで咆哮した。
そして俺達はその足で王宮に向かい、王には母と同じ苦しみを与え、俺を殺そうと刺客を差し向け続けた王妃は餌となった。
奴らは簡単には死なせない·····これは復讐でもあるから。
そして次に向かったのはフローリスの通う学園だ。
部下に偵察させた所、フローリスの言っていた断罪の真っ最中という事で最高のタイミングで中に入る事ができたのは僥倖だったな。
だが、あれ以来フローリスは笑わない。
俺の祖父と名乗る爺がフローリスの事を認めず、正妃として蛇族の女を送って来たせいだろうが、この女は厄介であの王妃のように刺客をフローリスに差し向け、その度に死にかけた彼女からは表情も感情も消えてしまった。
もちろん刺客はすぐに殺してはいるが、名ばかりとはいえ正妃を殺すのは新たな火種を生む事になるから避けたい所ではある。
人間は牧場に連れて行かれて家畜として飼育しているが、フローリスの為にコックを1人だけ王宮に置いて彼女の飯を作らせてはいるが、それを口にする事は殆どない。
まだ気付いてはいないようだが、フローリスの腹には既に俺の子が宿っているからしっかりと栄養を採ってもらわないと困る。
魔王の番でありその子供を宿した女は魔王と同じ寿命を得るが、このままでは自分から命を捨ててしまいそうで恐ろしい。
「フローリス、何を考えてるんだ?」
「いいえ、何も」
バルコニーからぼぅっと外を見るフローリスの目には光がなく、それを悲しく思いながら腰を引き寄せて首筋に牙を突き立てる。
血を啜るのではなく、腹の子に俺の生気を送る為に。
子供ができたと分かれば、お前はまた俺を見てくれるのだろうか。
以前のように泣き、笑い、俺に甘える姿を見せてくれる日は来るのだろうか。
既に魔族と変化していくフローリスには、人の頃にあった真実を見る瞳とやらはなくなっているが、彼女はそれに気付いているのだろうか。
時間はうんざりする程にあるのだから、ゆっくりと自覚してくれればいいだろう。
俺はそれを待つだけだ────。
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