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第一章

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今日は高等部の入学式。

創星とはもう一緒にはいない。
だって、来年から編入する筈の彼女がいて、創星の瞳が彼女だけを映してるのを見てしまったから。

私と一緒にそれを見てしまったおじい様は怒り狂い、その場で蓮水家に婚約破棄を言い渡したの。
それでも創星はこっちを見ることはない。

絆を深めるどころか壊してしまったわね。
しかも、大勢のいる場所で・・・。

私は入学式に出る事なく屋敷に帰り、パパに連絡したの。

『パパ?』

『どうした。今の時間は学園じゃないのか?』

この3年でパパは話す事に慣れて、かなり饒舌になったのよ。私がしつこく話しかけるからだっていわれるけど。

『あのね、向こうに帰る方法はあるかしら?』

『帰る?お前の居場所はここだろう。大体、婚約者はどうするんだ。あの家の男は』

『婚約破棄したの』

『なんだと?』

『創星が他の女の子に心を移してしまって、おじい様が怒ってそのまま破棄したの』

『蓮水家の者がそんな事をできる筈がないだろう』

『疑うならその目でご覧になってください。きっと今も見つめあっていますよ』

『分かった、行ってくる』

『その代わり、約束通りですよ?私の言う通りなら向こうに帰してください』

『・・・ああ』

あれを見たパパはどうするのかしら。
なるべく穏便に済ませたいけど、少し難しそうね。

私は立ち上がってバルコニーへと出て、学園の様子を視たの。
本当は見たくないけど、約束を守ってもらわないときけないもの。


創星はまだ彼女を見つめていたけど、先に動いたのは彼女。

「あの、私に何か用ですか?」

「え?」

「ずっと私を見ているから気になって・・・(知っていたけどね。ヒロインの魅了の力を舐めないで)」

「ああ、不躾で申し訳ない。あまりに可愛らしくて見とれてしまったんだ」

やっぱり転生者ね。
私は溜息をついて視るのも聞くのもやめたわ。

『パパ、見えたでしょ?声も聞こえたわよね?約束を守ってちょうだい』

『待て、あれは危険だ。それでもお前は向こうへ行くのか?』

『どうしようもないでしょ?早く帰して』

『ここに未練はないというのか』

『どちらにも未練はあるわ。今の私には必要なのが向こうにというだけ』

『半年だ』

『え?』

『半年なら向こうに行かせてやる。お前の力は既に神と同類。願えばどこへでも行ける。だが、1日に一度は必ずこっちを視ろ。それが条件だ』

『裏切ったのは創星なのに、どうして私が条件をつけられないといけないの?私は私の好きにするわ。じゃあね、パパ』


身の回りの物を鞄にいれて、私は日本へと帰ったの。
やっと、お母さんのお墓参りに行けるわ。
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