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序章

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「天司桜純です。よろしくお願いします」

ぺこりとお辞儀をする桜純を見て、誰もがポカンと口を開けて固まった。

この学園に来ると言う事は、半神であるかその血を濃く引くという事だけど、その全てが男だったんだ。
しかも、彼女の髪は桃色に銀が重なって輝き、その瞳は1日を表す5色に銀の星が瞬いている。

天司の聖女が薄紅様の子を宿した事、攫おうとする者が後を絶たず、薄紅様が聖女を隠した事も知っていたし、産まれた子供が異世界から戻ったという話も有名だったけど、女の子が産まれていた事は誰も知らなかった。

少し頬を赤らめて挨拶をしてから僕の隣の席に座る時に僕を見て笑った顔の可愛らしさ、机をくっつけて教科書を見せた時の真剣な表情。

きっと誰もが桜純を欲しいと思った。

でも、僕が「見つけた」と言っただけで全員が諦めたよ。
蓮水家の男は、伴侶を「見つける」からね。
その愛は、例え伴侶が先に死んでも消える事はなく、僕がの息が止まる瞬間まで愛し続けるんだ。

帰宅後、すぐに父にそれを伝えた。
大喜びした父は、数時間後には婚約の申し込みをしたけど天司家の答えはNO。

「蓮水家の事情は知っている筈だ」

怒り狂う父を宥め、僕は根気よく行く事にした。
もちろん、定期的に申し込みはしたけどね。
桜純と一番に挨拶をする為に、1時間も早く登校するボクを見た友人達も協力してくれるようになったよ。

桜純はその複雑な生い立ちから、人を簡単に信用する事ができないようだった。
暴力を振るわれていたと知った時は、その相手を殺したくなったし、薄紅様が神界の入り口に招いたと聞いた時は、なぜもっと早く連れて来なかったんだと憤った。

色々あったけど、婚約してからは伴侶として大切にしてきたんだ。

それなのに、僕は夢を見る。

桜純と同じ日から見る悪夢の僕は、桜純を放って別の女性と行動を共にして、愛しそうに女性を見つめるんだ。桜純を見ると時と同じように。


その日、僕は桜純から夢の話を聞いた。
嬉しそうでもあり、悲しそうでもある表情で話す桜純を見て、僕はそんなに向こうが恋しいなら帰ればいいと思ってしまったんだ。

僕は伴侶を捨てようというのか?
それができる僕は、本当に蓮水家の男なのか?
婚約式で行った蓮水家だけの契約はどうなる?

何度、自問自答しても答えは見つからない。

夢に出てくる女性に実際に出会ってしまったら、僕はどうなってしまうんだろう。

こんなに桜純が愛おしいのに、狂ってしまいそうな位に愛しているのに、それなのに僕は今日も夢を見る。

見たくないのに、見てしまうあの悪夢を。

あの女性を得る為に、無駄だと分かっているのにこの手で桜純を殺してしまうあの夢を。
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