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第一章

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「主さん、おっさんがええでーやって!って何怒っとん。俺そんな遅かったか?」

よほど怖い顔をしていたのか、帰ってきた白銀が私を見て後ずさった。ちょっと失礼じゃないかしら?

「なんでもないわ。それよりそのおっさんって誰なの?」

「深夜12時におっさんのとこ行くから、その時までは内緒や。 羨ましいて邪魔する神がおるかもしれんのやって」

「何が羨ましいの。私って人に知られない存在でしょ?」

「せやな。主さんは俺らとしかおらんかったもんな」

「でしょ?」

───コンコン

「サーヤ、今ちょっといい?」

「どうぞ」

入ってきたのは茉莉姉さん。
私の顔を見てホッしたように笑ってベッドの端に座り、私の額に手を当てた。

「うん、熱は下がったわね。使用人が誰もサーヤの様子を見てないって言うからキレてきたのよ。お母さん達はまだ説教中だけどね。お昼ももらってないんでしょ?何か食べる?」

「ううん、まだ食欲はないから大丈夫よ」

「使用人達がごめんね。サーヤに対して嫉妬心みたいなのがあるみたいでさ」

「いきなり見ず知らずの子供が来たらそうなるわ。私は気にしていないから大丈夫」

茉莉姉さんは申し訳なさそうに俯き、鼻をすすりながら立ち上がるとそ「じゃ、また後で来るから」とこちらを見ずに部屋を出て行ってしまった。

『主さんはこの家を出て行くんか?』

白銀の言葉にピクリと肩が上がる。
再会して、養女にしてもらって、ほんの少しだけど家族として過ごして幸せだったけど、この家にいるわけにはいかないから。

『この家の違和感の正体が何かは分かってるわよね?』

『そらなぁ、上はようこんみたいやけど下は凄いでな』

『この家の人達にはよくしていただいたから、苦しい思いはさせたくないの。だからおっさんという方にお願いしたい事があるのよ』

『大体分かっとったから先に言うといたで。多分そうやろてな。俺らでは全部は祓えんし、主さんも最初に家に入る前にやらなしんどいやろ』

『そうね。後で張った結界では中にいるものは残るし、浄化はなるばくしたくないの』

『主さんは優しすぎるんや。あんなもんパパッとやってまえるくせにな』

その言葉に答えず、私は部屋に付いているシャワーを浴びに向かった。
消すのが嫌なのではなく怖いのよ。
それが妖怪や幽霊と呼ばれる者達でも、私は命を奪うのが怖い。
覚悟を決めないといけない日が来るとしても、彼らが納得して逝くまでは、次の生に希望を抱けない限りは何もしたくない。
消えるとはどういう事かを、私は知っているから。
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