【完結・全3話】不細工だと捨てられましたが、貴方の代わりに呪いを受けていました。もう代わりは辞めます。呪いの処理はご自身で!

酒本 アズサ

文字の大きさ
3 / 3

後編

しおりを挟む
「セザールめ! 何年もクラリスに呪いを押し付けておいてなんという事だ!!」


 お父様の書斎を訪ねると、ちょうど婚約破棄の書類を確認したようだった。


「お父様、ただいま戻りました。その……、セザール様からの婚約破棄の書類ですか?」


「ああ……、私の可愛いクラリス。こんな薄情な男に育つなんて、婚約などさせた私が愚かだったよ、すまない……! もうあの男の呪いなど……おや? よかった、ブレスレットはもう外したんだな。そういえば心なしかいつもより顔色がよくなっているようだ」


 お父様が私の左手首に触れてホッと安堵の息を吐いた。


「それが……、セザール様から婚約破棄の話を聞いた時、その場にパトリック様もいたんです。お茶会の会場から私を連れ出してくださって、その時にもう関係なくなるのだからと……外して壊してしまわれたの」


「ほぅ、パトリックが……。確か彼は学園でも成績優秀らしいな。そして……ふむ、クラリスの新しい婚約者候補だ」


 ニヤリと笑ってお父様が私に見せたのは、パトリック様の名前が書かれた婚約申込書だった。
 どうやらお父様の友人であるコマンジュ伯爵がセザール様の不誠実な態度に怒っていたところに、本人から婚約破棄したいという申し出があったらしい。


 そしてもう一枚の書類についていた手紙には、幼い頃から私をしたっていたパトリック様がセザール様の態度を見かねて婚約者の変更をコマンジュ伯爵に願い出たそうだ。


 コマンジュ伯爵はこの数年間呪いを引き受けてくれていたというのに申し訳ない事、不誠実な息子のためにはもう犠牲にならないでほしい事、そしてパトリック様と婚約が成立したあかつきにはセザール様を廃嫡して領地で過ごさせるとまで書いてあった。


「どうだ? 私としてもパトリックなら申し分ないと思う。しかもクラリスをないがしろにしたセザールが廃嫡されるというんだからな! はーっはっはっは」


 上機嫌に笑うお父様に私は頷き、その日の内に私の婚約者はセザール様でなく、パトリック様になる事が決定した。
 婚約が決まると、翌日にパトリック様は花束を持って訪ねて来てくれた。


「クラリス嬢……! いや、クラリス、婚約を受け入れてくれてありがとう!」


 玄関で出迎えたとたんに抱き締められ、使用人達から生温かい視線を送られている。


「あ、あの、パトリック様……」


「ああ、ごめんごめん。嬉しくて。よかった、昨日より顔色もよくなってるね、兄様と違って……ふふ」


「え?」


「なんでもないよ、これからクラリスはどんどん綺麗になっていくんだろうなって思っただけさ。悪い虫が寄ってこないように気を付けないと!」


「ふふっ、パトリック様ったら」


 こんな私に寄ってくる人なんているわけないのに。
 この時の私は本気でそう思っていました。


 その数か月後、再び王家主催のお茶会が開かれ、パトリック様と一緒に参加する事になった。
 その当日、鏡の前で侍女が私の仕上がりに満足そうにため息を吐いている。
 鏡の中の私は、艶やかなプラチナブロンドに陶器のような白い肌、赤く血色のいい唇にエメラルドのような緑の瞳。


「これが本来のお嬢様の姿だったんですね、あの男のせいでしなくていい苦労をなさって……うぅっ」


「もう、やめてちょうだい。もうすぐパトリック様がお迎えに来るのだから」


 迎えに来たパトリック様は思いつく限りの美辞麗句びじれいくを並べているのではと思うほど、馬車での道中ずっと褒めてくれた。
 遅く会場入りして目立ちたくなかったため、早めに到着した私達は会場の隅で会話して過ごしていると、徐々に人が集まり始める。


「あはは、いっそこのまま二人で抜け出したいくらいクラリスと話すのは楽しいよ。喉が渇いたでしょう? 飲み物を持ってくるよ」


「ありがとう」


 パトリック様が少し離れた隙を狙ったかのように近づいてきた人影。


「はじめまして美しいご令嬢、お名前をお聞きしても?」


 そう声をかけてきたのは、私の家に鏡がないと言ったセザール様の幼馴染の子爵令息。


「あら、前回のお茶会とは随分態度が違いますのね。私の事はご存じでしょう?」


「まさか! あなたのように美しい方を見忘れるはずはないでしょう! なぁ、みんな?」


 子爵令息が振り返ったのは、あの日私をあざ笑った令息達。
 今は子爵令息の言葉に同意して笑顔で頷いている。


「失礼、僕の婚約者になにか?」


 その時パトリック様が飲み物のグラスを二つ持って戻って来た。


「君は……セザールの弟のパトリック!? 君の婚約者という事はこのご令嬢は……」


「私はクラリス・ド・ボルジアですわ」


 呪いから解放されて以来、改めて習い直した優雅なカーテシーを披露する。
 その途端に周りから信じられない、や絶賛する声がいくつも聞こえた。


「そんな! まるで別人じゃないか!」


「クラリスは本来の姿に戻っただけだ。これまで兄様にかかっていた呪いを身代わりになってこの細い身体で受けていたから、これまではずっと弱っていたんだよ。ずっと世話になっていたというのに、クラリスを裏切った兄様にはもったいない素晴らしい女性なんだ」


「クラリス!!」


 真実を知ってざわめく会場に現れたのは、領地に行ったはずのセザール様だった。


「クラリス! 私が悪かった! もう一度……、もう一度私と婚約してほしい! そして……その……」


 フラフラと近付いて来るセザール様は、かつての私のように肌は荒れ、髪は艶を無くしてかつての見目麗しい令息の面影はない。
 周囲も変わり果てた姿に眉をひそめているが、セザール様の目には映っていないようだ。
 そんなセザール様から私を庇うように、パトリック様が私の前に立った。


「兄様、見苦しいですよ。自分から婚約破棄を望んでおいて今更。しかもまた代わりに呪われてほしいとでも言うつもりですか!? 元々クラリスが止めるのも聞かずに大岩に触れた兄様が悪いんでしょう! 二度と僕の婚約者・・・・・に近付かないでください! 行こう、クラリス」


 肩を抱いて引き寄せ、額にキスをされてしまった。
 きっとセザール様を諦めさせるためにした事だろうけど、私の頬は自然と熱を帯びてしまう。
 チラリと見上げると、パトリック様の耳が赤く染まっていた。


「待ってくれ! クラリス、私が好きなんだろう!? だから呪いも……クラリス!!」


 振り返るとセザール様は警備をしていた騎士達に取り押さえられていた。


「セザール様」


「クラリス!!」


 私が名前を呼ぶと、期待に満ちた目で私を見る。
 呪われてから久しくそんな目を向けられた事は無かったな、と思い出す。


「私はもうセザール様の婚約者ではありません。呼び捨てしないでいただけますか? 今はとても幸せなので邪魔しないでくださいね、こぼれた水は元には戻らないのですから」


 これまでで一番美しい微笑みを見せ、私はパトリック様と共にお茶会の続きを楽しんだ。


   ◇   ◇   ◇


最後までお読みいただきありがとうございます!
しおりを挟む
感想 1

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(1件)

南条和仁
2024.11.11 南条和仁

自分から呪われに行動した阿呆でしたか(笑)
救いようがねぇー(笑)

2024.11.11 酒本 アズサ

ヒロインが救われればいいのです
( ´∀`)オホホホホホ♡

解除

あなたにおすすめの小説

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

【完結】「義妹に譲れ」と言われたので、公爵家で幸せになります

恋せよ恋
恋愛
「しっかり者の姉なら、婚約者を妹に譲ってあげなさい」 「そうだよ、バネッサ。君なら、わかるだろう」 十五歳の冬。父と婚約者パトリックから放たれた無慈悲な言葉。 再婚相手の連れ子・ナタリアの図々しさに耐えてきたバネッサは、 その瞬間に決意した。 「ええ、喜んで差し上げますわ」 将来性のない男も、私を軽んじる家族も、もういらない。 跡継ぎの重責から解放されたバネッサは、その類まれなる知性を見込まれ、 王国の重鎮・ヴィンセント公爵家へ嫁ぐことに。 「私は、私を一番に愛してくれる場所で幸せになります!」 聡明すぎる令嬢による、自立と逆転のハッピーエンド。 🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。 🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。 🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。 🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。 🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!

白い結婚を捨てた王妃は、もう二度と振り向かない ――愛さぬと言った王子が全てを失うまで』

鍛高譚
恋愛
「私は王妃を愛さない。彼女とは白い結婚を誓う」 華やかな王宮の大聖堂で交わされたのは、愛の誓いではなく、冷たい拒絶の言葉だった。 王子アルフォンスの婚姻相手として選ばれたレイチェル・ウィンザー。しかし彼女は、王妃としての立場を与えられながらも、夫からも宮廷からも冷遇され、孤独な日々を強いられる。王の寵愛はすべて聖女ミレイユに注がれ、王宮の権力は彼女の手に落ちていった。侮蔑と屈辱に耐える中、レイチェルは誇りを失わず、密かに反撃の機会をうかがう。 そんな折、隣国の公爵アレクサンダーが彼女の前に現れる。「君の目はまだ死んでいないな」――その言葉に、彼女の中で何かが目覚める。彼はレイチェルに自由と新たな未来を提示し、密かに王宮からの脱出を計画する。 レイチェルが去ったことで、王宮は急速に崩壊していく。聖女ミレイユの策略が暴かれ、アルフォンスは自らの過ちに気づくも、時すでに遅し。彼が頼るべき王妃は、もはや遠く、隣国で新たな人生を歩んでいた。 「お願いだ……戻ってきてくれ……」 王国を失い、誇りを失い、全てを失った王子の懇願に、レイチェルはただ冷たく微笑む。 「もう遅いわ」 愛のない結婚を捨て、誇り高き未来へと進む王妃のざまぁ劇。 裏切りと策略が渦巻く宮廷で、彼女は己の運命を切り開く。 これは、偽りの婚姻から真の誓いへと至る、誇り高き王妃の物語。

私は婚約者を同級生に奪われました。彼女はセレブになれると思い込んでたみたいですけど。

十条沙良
恋愛
聖女のいなくなった国は滅亡すること知らないの?

【短編】婚約破棄?「喜んで!」食い気味に答えたら陛下に泣きつかれたけど、知らんがな

みねバイヤーン
恋愛
「タリーシャ・オーデリンド、そなたとの婚約を破棄す」「喜んで!」 タリーシャが食い気味で答えると、あと一歩で間に合わなかった陛下が、会場の入口で「ああー」と言いながら膝から崩れ落ちた。田舎領地で育ったタリーシャ子爵令嬢が、ヴィシャール第一王子殿下の婚約者に決まったとき、王国は揺れた。王子は荒ぶった。あんな少年のように色気のない体の女はいやだと。タリーシャは密かに陛下と約束を交わした。卒業式までに王子が婚約破棄を望めば、婚約は白紙に戻すと。田舎でのびのび暮らしたいタリーシャと、タリーシャをどうしても王妃にしたい陛下との熾烈を極めた攻防が始まる。

お姉様から婚約者を奪い取ってみたかったの♪そう言って妹は笑っているけれど笑っていられるのも今のうちです

山葵
恋愛
お父様から執務室に呼ばれた。 「ミシェル…ビルダー侯爵家からご子息の婚約者をミシェルからリシェルに換えたいと言ってきた」 「まぁそれは本当ですか?」 「すまないがミシェルではなくリシェルをビルダー侯爵家に嫁がせる」 「畏まりました」 部屋を出ると妹のリシェルが意地悪い笑顔をして待っていた。 「いつもチヤホヤされるお姉様から何かを奪ってみたかったの。だから婚約者のスタイン様を奪う事にしたのよ。スタイン様と結婚できなくて残念ね♪」 残念?いえいえスタイン様なんて熨斗付けてリシェルにあげるわ!

知りませんでした?私再婚して公爵夫人になりました。

京月
恋愛
学生時代、家の事情で士爵に嫁がされたコリン。 他国への訪問で伯爵を射止めた幼馴染のミーザが帰ってきた。 「コリン、士爵も大変よね。領地なんてもらえないし、貴族も名前だけ」 「あらミーザ、知りませんでした?私再婚して公爵夫人になったのよ」 「え?」

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。