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第4章 その後
(20・最終話)愛の喜び
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「ヘルムート殿の治める領地が傾くようなことがあれば、代官なりが派遣されて支援はされるようだよ」
それを聞いて安心した。領民は領地を支える土台であり、財産だ。同時に各領地の領民は国民であり国家を支えるもの。
国家や領主は国民や領民がより良く生活できるように治める。それには、貴族や平民関係なく広く意見を取り入れなければならない。
ヘルムート殿下にはその点が不足していた。
「パトリツィアを安心させられて良かった」
ディーデリヒ様の笑顔に頬が熱を持った。
ディーデリヒ様はわたしがルセアノ皇国へ入る以前、わたしに話しかけるときは「貴女」、誰かにわたしの話をするときは「パトリツィア嬢」だった。
それが最近は必ずパトリツィアと名前で呼んでくれる。
甘く優しく響く自分の名前が嬉しくて、わたしもディーデリヒ様と呼ぶ頻度が増えた。呼べばディーデリヒ様も嬉しそうに笑ってくれる。
「あのヘルムート殿がどこぞを治めるとなったらパトリツィアが心配するんじゃないかと思っていたんだ」
「ディーデリヒ様はわたしのことをよくお分かりですのね」
ありがとうございます、と付け足せばディーデリヒ様は当然だという顔をした。
「僕はパトリツィアのことが好きだからね」
周囲にいるのは侍従と侍女、そして使用人だけ。とはいえ、そう臆面もなく言われてしまうと顔が熱くなる。
ディーデリヒ様から視線を逸らせば、微笑んでいる侍女が目に入った。
彼女はわたしが十歳頃から仕えてくれている。そんな彼女が微笑ましそうにこちらを見ているのは、やはり照れるものだ。
ふたたびディーデリヒ様に視線を戻せば彼もまた微笑んでいて、その優しげな蓮の花のような薄赤の瞳をみると好きだと思ってしまう。
「あの、こんなことを言うのは、はしたないと思われるかもしれませんが……わたしも、ディーデリヒ様のことが……」
一番大切な部分がなかなか出てこない。自分の気持ちをそのまま言葉にして表すのはこんなにも難しい。
ディーデリヒ様の目が好きなのに、その目を見ていられない。思わずディーデリヒ様の胸元へ視線を下げた。
紺色のジャケットの胸ポケットには、さっき庭園で切ってもらった黄色いスターチスが差されている。
ディーデリヒ様の今日のお召し物に映えそうだと言ったら侍女が庭師を呼んで切ってくれたものだ。
ふぅ、とゆっくり息をつく。
「……好きです」
何度も深呼吸してようやく出てきたのはあまりにも小さな声だった。わたしの声は届いただろうかと心配でちらりとディーデリヒ様の顔を見れば、蕩けるような嬉しそうな顔をされていて。
「はやく結婚したいなぁ」
誰にともなく呟くようにおっしゃったディーデリヒ様にわたしはもう、なにも言えずにただそのあとの二人の時間を過ごしたのだった。
それを聞いて安心した。領民は領地を支える土台であり、財産だ。同時に各領地の領民は国民であり国家を支えるもの。
国家や領主は国民や領民がより良く生活できるように治める。それには、貴族や平民関係なく広く意見を取り入れなければならない。
ヘルムート殿下にはその点が不足していた。
「パトリツィアを安心させられて良かった」
ディーデリヒ様の笑顔に頬が熱を持った。
ディーデリヒ様はわたしがルセアノ皇国へ入る以前、わたしに話しかけるときは「貴女」、誰かにわたしの話をするときは「パトリツィア嬢」だった。
それが最近は必ずパトリツィアと名前で呼んでくれる。
甘く優しく響く自分の名前が嬉しくて、わたしもディーデリヒ様と呼ぶ頻度が増えた。呼べばディーデリヒ様も嬉しそうに笑ってくれる。
「あのヘルムート殿がどこぞを治めるとなったらパトリツィアが心配するんじゃないかと思っていたんだ」
「ディーデリヒ様はわたしのことをよくお分かりですのね」
ありがとうございます、と付け足せばディーデリヒ様は当然だという顔をした。
「僕はパトリツィアのことが好きだからね」
周囲にいるのは侍従と侍女、そして使用人だけ。とはいえ、そう臆面もなく言われてしまうと顔が熱くなる。
ディーデリヒ様から視線を逸らせば、微笑んでいる侍女が目に入った。
彼女はわたしが十歳頃から仕えてくれている。そんな彼女が微笑ましそうにこちらを見ているのは、やはり照れるものだ。
ふたたびディーデリヒ様に視線を戻せば彼もまた微笑んでいて、その優しげな蓮の花のような薄赤の瞳をみると好きだと思ってしまう。
「あの、こんなことを言うのは、はしたないと思われるかもしれませんが……わたしも、ディーデリヒ様のことが……」
一番大切な部分がなかなか出てこない。自分の気持ちをそのまま言葉にして表すのはこんなにも難しい。
ディーデリヒ様の目が好きなのに、その目を見ていられない。思わずディーデリヒ様の胸元へ視線を下げた。
紺色のジャケットの胸ポケットには、さっき庭園で切ってもらった黄色いスターチスが差されている。
ディーデリヒ様の今日のお召し物に映えそうだと言ったら侍女が庭師を呼んで切ってくれたものだ。
ふぅ、とゆっくり息をつく。
「……好きです」
何度も深呼吸してようやく出てきたのはあまりにも小さな声だった。わたしの声は届いただろうかと心配でちらりとディーデリヒ様の顔を見れば、蕩けるような嬉しそうな顔をされていて。
「はやく結婚したいなぁ」
誰にともなく呟くようにおっしゃったディーデリヒ様にわたしはもう、なにも言えずにただそのあとの二人の時間を過ごしたのだった。
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