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第一章『大規模盗賊団討伐作戦』
九話「異常と逃走」①
しおりを挟む突入の指示に、冒険者達が一斉に動き出す。カーラのいる一番隊は《新星》の者が多いため、慣れた様子で各自役割通りに動いている。
まず素早く動けて隠密行動も得意なパーティやシーフジョブの者達が駆け出し、先陣を切る。それに続いて機動力のある者や接近戦闘に優れた者達、魔法使い、サポートと、ある程度の陣形や順番を保ちつつ拠点へと乗り込んでいく。カーラは剣士達の後ろの方、魔法使い達の前あたりにおり、キースは戦況把握のために最後列にいた。
拠点は数件の小屋があるだけの小さな廃集落とそのすぐ後ろにある丘の内部にできた洞窟である。もともと協会や帝国騎士団も警戒し見回りをしていた場所ではあったが、今回は周到に警備の穴を突かれたようだった。
「各自パーティごとに小屋へ突入!残党がいないかキースさんの連絡には注意を払って!」
一番隊は集落側を半円に囲むようにして突入し、二番隊は丘から洞窟へと突入する手はずになっている。
一番隊はそこからさらに分かれて各小屋へと突入、制圧した後洞窟へと向かう。キースは魔力探知の魔道具を使って敵の場所を確認し、指示出す役割だ。
カーラがパーティメンバー達と共に飛び込んだ小屋には、三人の盗賊が武器を持ち座っていた。
「ハハ、待ちくたびれたぜ」
盗賊が立ち上がりざまにふるった剣を弾き、横からパーティの剣士であるベイルが斬りかかる。
「バインド!」
一足遅れて小屋へと入ってきた魔法使いのシーナが他二人の盗賊を拘束し、カーラがすぐさま武器を取り上げる。小屋の外から見張っていた神官のアルマが拘束具を取り付け、三人の盗賊はあっけなく捕らえられた。
「〈深紅の焔〉三人の盗賊を拘束、小屋の制圧完了。キースさん、何か様子がおかしいわ」
カーラが小屋を出てキースへの報告を行う最中にも、他の小屋からは肩透かしを食らったような顔の冒険者達が出てきていた。
事前の報告では盗賊の数は討伐に参加する冒険者と同数かそれ以上程度、個々の強さにしても平均で星二、最悪星三か星四程度の強さの者もいるだろうと言われていた。しかし、カーラ達が相手にした盗賊達ははっきり言って星一の実力もないほどだった。どうやらそもそも小屋の中に誰もいなかったところもあるようだ。
『うん……と、とりあえず、盗賊達は外にまとめて、見張りを……〈深紅の焔〉とバルダンさんと……〈虫の息〉にも、お願いします……。他は、作戦通り洞窟に、向かってください』
廃集落の中心付近で魔道具とにらめっこをしていたキースはそう言うとカーラ達の元へと近づいてきた。
「そ、外は……ま、まかせます、ね。えっと……何か、あれば、すぐ連絡を……僕も……気を、配っては、おくので……」
「ええ。外は任せて。キースさんも何か指示があればすぐに連絡を」
ひかえめにコクリと頷くとキースは冒険者達の後を追い洞窟へと走っていった。
捕らえられた盗賊は二十人弱といったところだ。いくら洞窟内が拠点の中心とはいえ、報告を受けていた規模からすればあまりにも人数が少ない。
「これも想定内なの?マスター……」
カーラは盗賊達を睨みつつ、周囲の警戒を強めた。
+++
「くちゅんっ」
あれ、まーた誰かが私のこと話してるよ全く……
いや、昨日髪を乾かさずに本読んで寝落ちしたから風邪引いたのか……?
「でも大丈夫!!このプリンは栄養素満点なコカトリスの卵を100%使用しております!!」
「え、どうなさったんですかマスター」
「あ、なんでもないよ」
美味しいのに健康にも良いって最高だよね。
ちょっと討伐の様子を聴いてるだけなのが退屈になってきて気が逸れたが、それだけ討伐作戦も危ない場面なく進んでいるということで。
「案外順調そうだね」
「そうですね。一番隊が洞窟の方へ加勢に向かいましたが、三番隊隊長のリッヒさんによれば盗賊の数や戦力は集落の方と同じく偵察時よりも少なく、現時点でほとんど捕らえられているようなので、あまり心配しすぎなくても良いかもしれませんね」
「でもさ、事前の調査よりも少ないってことは今回だけで終わらないってことだよね」
そう、作戦が順調なのは非常に良いことなのだが、盗賊が少ないということは今回で捕らえなった残党を探し、再び討伐をしに行かなければならないのだ。面倒極まりない。
「もう一回ってなっても……うちは参加しなきゃだめかね……」
「駄目でしょうね……」
そうかぁ……やだなぁ……
いや私は絶対に行かないけどね。心配はするから。
「今回冒険者協会は大変でしょうね。それなりの人数を動員したので費用がだいぶかかっていますし、また調べ直しとなると時間もかかりますから」
「うわぁ。なんか、またガルスさんに理不尽にキレられる気がする」
「彼が怒るときはいつもマスターに非があると思いますけど……」
「そんなわけ……ないよ、多分」
私は常に誠実に生きている善良な市民なんでね。そんな、冒険者協会の偉い人に怒られるようなことなんて、そんなそんな……少なくとも身に覚えはないです。
『ク、クリア!クリア!』
わっ、びっくりした。何??
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