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第二章『冒険者新人研修会』
三十二話「魔眼と魔法」①
しおりを挟む「クリアちゃんの目はぁ~きれいな金色~♪メルの髪と同じ色~おそろいだねぇ~♪」
「…………」
この歌が不穏に感じるのは、占いのせいなのだろうか。機嫌が良いようなのは結構なんだけど。
……待って、金色とナイフ?金髪で剣士のメルにぴったり当てはまるのでは?
まさか、あの占いはメルちゃんに気をつけろってことだったの……?
「メルとクリアちゃん仲良し~ずぅっと一緒~♪ずっとぉ~……ずぅっと~……」
……ま、考えすぎだよね。
確かにメルが原因で危ない目にあったことだってあるけど、なんとかなってるから今ここにいる訳だし。
何より、メル本人は率先して私や仲間のことを守ってくれるタイプだしね。感情の波は大きくても、兄の方とは違って働き者で、やることはちゃんとやれる子だから。
気分屋であることは、否定できないけど……そんな、危険人物じゃあるまいし……ちょっと、怖い時あるけど…………
すっと一歩ギルに近寄り、メルから距離をとってみる。
瞬間、がしっと腕を掴まれて引き戻された。
「…………」
メルはとってもかわいい笑顔を浮かべている。がっしりとワンピースの袖の上から掴まれた腕は解放される気配がない。
にこ、と笑い返してみる。
腕はさらに強くがっちりと掴まれた。
「なー、シュウって誰だ?強いのか?」
「え?えーっと。この間ギルドに入った星一冒険者だよ。火が出る遺物を使ってるの」
「いいな!火!」
ギルの方へ振り返るついでにさりげなく手を引いてみたが、締め付けが強くなるだけだった。
うーん、非力な私じゃ振り解くのは絶対に無理。
「でもな、俺には火、効かないんだぞクリア!俺は強いからだ!!」
「うん、そうだね、ギルは強いね。メルちゃんの腕の力もちょっと強いね。緩めようか」
「……強いのはぁ、メルよりギル兄かもしれないけどぉ、クリアちゃんが大好きなのはメルだよね?」
「え?」
何の話?
あと、腕、そろそろ赤くなっちゃいそうなんだけど。鬱血とかしてない?
「でも、俺はクリアと生まれる時から一緒だったぞ?」
きょとんとした顔でそんなことを言うギル。
ギルは家がお隣さんだったから、赤ちゃんの時からの付き合いだ。
でもさすがに誕生日は違うから生まれる時は一緒じゃないよ?
「え?期間なんて関係ないよねぇ?クリアちゃんはいつも、メルのことかわいいって言ってくれるもんねぇ?」
「俺には強いとかカッコイイとか言ってくれるぞ!」
「かっこいいなんて言ってるところ見たことなぁい」
「……さっきから何を競ってるの?」
と、そんな感じで三人わやわやと話しながらロビーへ向かう。
朝だからかそこそこの人の多さだが、これくらいならすぐにシュウくん達も見つかるだろう。
どこかなー。たぶんミーニャはすぐ分かる……あぁ、いた。
壁際のテーブルに集まっていた一向の中に、漆黒という言葉が適切なほど真っ黒なローブを羽織った小柄な人物を見つけ出す。
近づいてみれば、その隣にはシュウくんの灰色の髪の頭が見え、二人の他にも数人が一緒にいるようだった。
すぐ近くまで来たが、全員、私達には気づいていない。
「…………えい」
「ぎゃーーー!!!?」
ちょん、と後ろからミーニャの背を突いてみると、ミーニャはつんざくような悲鳴をあげて飛び上がった。その声に隣のシュウくんが肩をびくりと震わせた。
「はっ!?マ、マイマスターではないですか!これ、何度やれば気が済むのですか!?」
「いやーごめん、ついやっちゃうんだよね」
冒険者は五感や気配を感じとるといったところも人間離れしているため、雑魚い私が気付かれずに近づくなんて不可能だ。だけどミーニャだけは、毎回こうして引っかかってくれる上にリアクションが大きいから、驚かせ甲斐があって楽しいのだ。
やられて気持ちの良いことじゃないし程々にしようとは思うんだけど、後ろ姿見かけるとやりたくなっちゃうんだよね。
心臓のあたりを抑えて口をわなわなと震わせている眼帯黒装束少女、彼女がミーニャ・エスタである。
ついでに耳を抑えて私に責めるような視線を送っているのが、炎が揺れているような瞳を持つシュウ・ケーネスくんである。ごめんって。
あとは、どうやら〈幸運を呼ぶ星〉のシーラと……他の子達はたしか、〈春のそよ風〉だったかな?それぞれの名前は知らないんだけど、お揃いでつけているピンクのスカーフには見覚えがある。
彼らは目をぱちくりさせながら私達三人を凝視している。
「こほん。で、マスターは何故こちらに?……その状況はいかに?」
「これは気にしないで。えーっとね、シーファに今からシュウくんの目の鑑定するって聞いたから、見学しようかと思って」
両腕を両方からがっちり掴まれて、逃亡を阻止されている人質みたいになってるのは気にしないでもらって。
彼女、ミーニャ・エスタは《新星》所属の星五冒険者であり、魔導士である。特に魔眼に関する知識が豊富で、彼女自身も両目に魔眼を有している。
魔眼は保有者自身でもその能力が分からないことが多く、能力の種類も千差万別。それを鑑定できるミーニャは貴重な人物なのである。
そもそも魔眼自体珍しいものだから、鑑定に立ち会える機会なんて滅多にない。
「余は構いませんが。赤き炎の剣を持つ者……ケーネスさんは?」
「俺は……あっ……あの、俺は何でも、大丈夫です」
シュウくんは再び肩を震わせてこちらを見ると、しどろもどろにそんなことを言った。
視線の先にはメルが。やっぱり、有名人には緊張しちゃうタイプなのかな。
ミーニャはふん、と鼻を鳴らした。
「そうですか。あまりこう、大所帯で行う儀式でもないのですがね。まあ、良いでしょう……ケーネスさん、顔をこちらに。鑑定の儀を始めます」
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