黄金と新星〜一般人系ギルドマスターのなるべく働きたくない日々〜

暮々多小鳥

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第二章『冒険者新人研修会』

三十三話「帝都の案内」①

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「それじゃあお待ちかね!〈春風〉による!シュウのための!帝都丸わかりお散歩ツアーに出発でーす!」

「いえーい!!」

「帝都観光かぁ。いいね。私もついて行っていい?」

「クリアが?……なんで?」

「え、いいんですか!?もちろん大歓迎です!!」

 わーい、と意気投合しギルドハウスからツアーに出発したのは〈春風〉、シュウくん、私、そしてメルとミーニャである。まずは冒険者協会に向かうらしい。

 元々鑑定が終わったら帝都案内をする、と〈春風〉とシュウくんが約束していたんだそうだ。
 ちなみに、シーラは用事があるからと疲れた表情で去っていき、ギルはどこに行ったか分からないため放置してきた。

「ん?」

 くいくい、と袖を引かれて振り向けば、落ち込んだ様子のミーニャが……じゃなくて、その隣にいたメルが私の袖を掴んでいた。

「マイマスター……余はやはり、説明が下手なのでしょうか」

 あの後、長々と魔眼や魔法について語り尽くしたミーニャだったが、苦笑いのシーラにやんわりと説明を中断させられ、質問を投げかけた〈春風〉の子は「十分の一くらい分かりました!」と清々しい笑顔で言い放った。

「まぁほら、専門性の高い内容だし分かりやすくってなると難しいよね」

「さっきはお話脱線してたからぁ、そのせいじゃない?」

「ううぅ……口が滑りました……」

 確かに、途中から何言ってるんだろうとは思ってたけど。

「でも、そんな魔法の理論とかも理解してて説明できるのってすごいと思うよ。アンナとか絶対無理だもん。魔法の原理とか分かってないだろうし」

 と、純粋にすごいと思ったため出てきた言葉だったのだが、ピク、とミーニャは肩を揺らした。

 ゆらりと振り向いた顔は……なんか怖い顔してる?

「……あのですね、これは覚えておいていただきたいのですが、魔法は原理や理論を理解して魔法式を組み立てなければ発動しません。絶対に。魔法は学ばなければ使えないんです。それを感覚だけでぽんぽんと使う【流星群】は異常です。あり得ません。ましてや、自分で組み立てた魔法の魔法式が分からないなんて論外です。毎回毎回、彼女の超感覚的な説明を受けて四苦八苦しながら式を導き出している魔法研究所の方々の心労は想像を絶するものですよ」

 ……なるほど、だからアンナはしょっちゅう研究所に引っ張られていくのね……今度改めて研究所にはお礼とご挨拶に行こうかな、菓子折りでも持って。
 にしても、そんな人外みたいな扱いされてるのね、アンナちゃん。

「魔道は地道な努力と積み重ねがものを言うのです。影なる努力があってこそ、美しい魔法が誕生するというもので…………」

「うん、うん……」

 空は曇天。お散歩日和ではないが、ここ最近はずっと雨が降っていたから曇りでも少し気分が良い。道ゆく人々は畳んだ傘を片手に空を見上げることもなく歩きすれ違っていく。

 ミーニャの話を聞き流しつつ、空くもってるなぁと思いながら歩いていると、前方で何やらわちゃわちゃと話していたシュウくんと〈春風〉達が足を止めてこちらを振り向いた。
 なんなら小走りで戻ってきた。元気だねぇ君達。

「あの!そういえばなんですけど、私達まだギルドマスターにちゃんと挨拶できてなかったと思うんです!〈春のそよ風〉、ランク星二で半年前にギルドに入りました。よろしくお願いします!」

「あぁ、よろしくね」

 晴れやかな笑顔でそう挨拶してくれたのはやはりポニテっ子だった。この子がリーダーなのかもしれない。

 元気で礼儀正しくていい子だなぁ、なんて思っていたところ、他の子達も口火を切ったように喋り始めた。

「仮面してないところ初めて見た!」

「俺、最初男の人だと思ってたんだー」

「そこ、失礼。まずは挨拶」

「そうよ!あ、私はパーティリーダーで剣士のアスカです!」

「魔道士のエリー、です」

「えと、オレはシーフのレオンです!【月詠花】さんとリオさんにめっちゃ憧れてます!」

「俺、重戦士のボルグです。マスターってすごい若く見えるんですけどおいくつなんですか?」

「ちょっと、ボルグ!」

「女性に年齢聞くとか、最低」

「えっ」

「オレはぜひ、アドバイスをもらいたいんですけど!どうやったらそんなに強くなれるんですか!?」

「えっとー、あはは、年齢は多分みんなより五歳くらい上じゃないかな……アドバイスは、後でね」

「【月詠花】さんも!すごい強くて、戦い方もなんかスマートで尊敬してます!アドバイスお願いします!」

「えぇ……まぁ、ちょこっとならいいよぉ」

 元気で若々しい、活気に満ちた子達だねぇ。うちのパーティとはまた違った騒がしさというか、何というか。

 ……あれ、今名前聞いたのに、もう分かんないや…………

「……ケーネスさん、あなたはこの方達と共に鍛錬するのでしたっけ」

「あ、はい」

「指導員がシーラ達なら、大丈夫でしょうが……もし何か相談事でもあったら、余もいつでも話を聞きますよ。ケーネスさんからはなんとなく、余と同じ静寂の孤独を尊び、闇へ共鳴する精神を感じるので」

「はぁ……ありがとうございます?」

「我々は時に世間から離れてしまうこともありますが、人が嫌いな訳ではないんですよね。むしろ愛しているからこそ、己を大切にしつつ人を愛する術を探っている訳であって…………」
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