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第二章『冒険者新人研修会』
三十五話「遺物のお店」②
しおりを挟む「とりあえず、次を見せてもらってもいい?」
「はい、かしこまりました。次も防御系の遺物ですよ。常時発動で、皮膚が硬くなります」
「ほー。なんか面白い効果だね」
「硬度としてはサイの二分の一程度です」
「サイの、二分の一ね……」
想像しにくいな。サイって、あの角がある動物だよね?あれって皮膚どれくらい硬いの?
流石に撃たれたりしたら貫通するよね?
「難点としましては、常時発動による魔力消費量の多さや、皮膚硬化による動きづらさ、発動時の皮膚が灰色になること、慣れない間は肌にかゆみが出る、等がありますねェ」
「モリモリじゃないの、デメリットが」
「あと、装備しにくいという点もなかなか不便でして」
「この見た目と大きさがねぇ」
だって、デカい角がついたゴツくてデカくてひっかけたら痛そうな指輪なんだもの。邪魔すぎる。あと重い。
「ただ、その分お値段はお手頃ですよ。これほどで販売することも可能です」
「おお、こんなに?」
「どうです?性能としては珍しいですし、魔道士程度の魔力量があれば魔力消費も気にならない程度の量ですよ?」
うーん……確かに、皮膚が硬くなる遺物なんて聞いたこともない。
珍しいというだけでも購入の価値はあるけど……使いたくはないよなぁ……
皮膚が灰色になってかゆくて動きづらいって、普通に嫌だ。
「……あ、ミーニャどうよ?」
「はい?」
「防御系の遺物としては破格の値段だよ?デメリットにさえ目を瞑れば、価格も性能もミーニャにとってぴったりじゃない?」
そう、こういったお店の最大の利点は、このような掘り出し物の遺物が見つかるというところだ。
一風変わった性能の遺物や使い方に癖がある遺物は即売会やオークションなんかではあまり流通しない。
そのような一般的には売れにくい遺物は店舗の方へと流れつき、コアな遺物コレクターや価格を抑えて遺物を入手したい客に売られるのだ。
遺物は結局使いようによる。一般的には使いづらいものでも、ある人にとってはそのデメリットも気にならないなら問題ない。
「着脱すればデメリットもあんまり気にならないんじゃない?魔道士は戦闘中さほど動かないし、ミーニャの服なら肌が灰色でもそう分からないって」
「えっ……い、いや、皮膚が灰色とか普通に嫌です!!」
えー、お買い得なのに。
▷▷▷
「……ところで、ちょっと雑談なんだけど、金色のナイフ型の遺物って心当たりない?」
「ふむ……金色の遺物も、ナイフ型の遺物も多いですけど、双方の特徴に合う遺物と言われるとパッとは思いつきませんねェ。探しておきましょうか」
「うーん、とりあえず情報だけ欲しいんだよね」
結局、今回は私が紹介してもらった遺物の購入には至らず、その代わりと言ってはなんだがミーニャやシュウくん、〈春風〉達が、テトさんに持ってきてもらった格安遺物を吟味中だ。
私はその隣で、あの占いの特徴に一致する遺物がないかとテトさんに相談している。
「スピカの占いのぉ?あれぇ、遺物なの?」
「いや、分かんない。ただこの前、規制遺物っぽいのを持った人を見かけたからその可能性もあるかなと思って」
「規制対象の遺物ですか……」
「なんかこう、精神系のやつとか……ないかな?」
ふぅむ、と唸るテトさん。
精神系の能力を持つ規制遺物もかなりの数がある。いくら遺物の売買を生業として、正規ルートで出回る遺物から裏ルートで密かに取引される遺物まで広い知識があるテトさんでも、知らない遺物はあるだろう。
「クリアちゃんはぁ、メルが守るから大丈夫だよぉ?」
「うん、それは頼りにしてるね」
メルやパーティメンバー達、そしてギルドのメンバーも、万が一の時には私を守り、助けてくれるだろう。
けど、四六時中守れるのかといえばそれは無理だ。
スピカの占いは絶対に当たるものじゃない。が、無視できないのも事実。
……あぁ、嫌だなぁ。
別にトラブルに巻き込まれるのも、攫われるのも、襲われるのも慣れてるけど、嫌なものは嫌だ。
こうやって何か起こるかもしれないと心配しているのも気疲れするし。
やっぱり、さっきの防御系の遺物全部買っておこうかな。
「うん、よし、これ購入します!!これもきっと運命でしょう!!」
隣で叫んだミーニャが持っていたのは、銀色の太いバングルだ。確か、魔力回復速度をほんの少し上げる代わりに、装備中はハッカ味の飴が無性に舐めたくなる遺物だったっけ。
「ふ、ふふ、金額は安いとはいえ余にとってはかなりの痛手ですが、ハッカ味の飴はスースーして苦手な方ですが、やっぱり自分の遺物が欲しかったのです……」
ハッカ味って、好き嫌いが分かれるよね……
乾いた笑いで若干目がキマってるミーニャが購入契約書を記入し、私達はお店を出た。
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