黄金と新星〜一般人系ギルドマスターのなるべく働きたくない日々〜

暮々多小鳥

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第二章『冒険者新人研修会』

三十五話「遺物のお店」①

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「ここが私の行きつけ、遺物売買をしている「マジックハンド」だよ。……とりあえず中入ろうか」

 小道をさらに脇に入った場所に、隠れるようにある小さなお店が目的のお店だ。
 入り口の横にちょこんと看板が置かれているだけだが、ちゃんと「開店中」と書いてある。

 扉を開けると、薄暗い店内には棚にいくつかの物が申し訳程度に陳列されているだけだ。奥にある小さなカウンターの中でのそりと人影が動いた。

「んー……おや、お嬢。いらっしゃいませ」

 ニィと細まった目、きゅっと引き上がった口角。緩慢な様子でお辞儀をした彼こそ、この店の店主であるテトさんだ。

「こんにちはー。今日はちょっと、後輩を案内がてら商品を見ようかと思って」

「そうですか。ごゆっくりどうぞ。お嬢におすすめの商品も持ってきますねェ」

 そう言うと、彼はふらりと店の奥へと姿を消した。
 〈春風〉やミーニャはきょろきょろと店内を物色しており、リーダーちゃんが棚に置いてある招き猫を指差した。

「これは、遺物なんですか?」

「いや、ただの置物らしいよ。遺物は触るだけでも危ない物もあるから、他の遺物のお店とかでも店頭に遺物を置かないことはよくあるんだ」

 じゃあどのように買い物をするのかと言えば、自分のほしい遺物や近しい性能を持つ遺物をお店にあるか尋ねたり、常連になってくればお店からおすすめの遺物を見せてもらえたり、仕入れをお願いしたりで遺物を購入する。
 とはいえ、大抵のお店は遺物を買い取るのがメインで、もし欲しい遺物があるのであればオークションや《遺物ハンター組合》主催の即売会で手に入れるのが一般的だ。

 私はいつ何時でも自衛のための新たな遺物を探してるからちょくちょくお店に行っておすすめを見せてもらってるけど、ミーニャや〈春風〉だと私ほど用はない場所だったかもしれない。

「もし、何か探したい遺物がある時とか……あとは正規のルートだと手に入らないやつがほしい時とか、とりあえず相談してみるといい場所だよ。シュウくんは、その遺物見せたら鑑定もしてくれるよ。売る時の値段とかも教えてくれるし」

「でも、販売されている遺物は高額のものが多いのではないですか?遺物という時点で値が張るものですし……余も魔力を活用するために遺物が欲しいとは思っていますが、なかなか手が出ず……」

「ふふふ……そんな人にこそ、遺物売買の個人店舗はおすすめだよ」

「お嬢ー」

 お、ちょうど良いから、実物の遺物を見てもらって説明しよう。

 テトさんがカウンターの上に並べた遺物は大小様々なものが四つ。彼は白い手袋を嵌めると、そのうちの一つ、小さなロケットがついたペンダントを私達の前に置いた。

「これは、防御系の遺物ですねェ。任意発動で、自身の一定距離まで近づいた魔法や飛び道具などの飛来物の軌道を逸らすことができます。方向の指示は無理ですがね」

「あー、周囲のどっかに飛んでいっちゃう感じ?周りに人がいると危ないかぁ。」

「そうですね。ただ、その点と任意発動という点を除けば、どんな物体も魔法も、大きさ質量関係なく発動し、魔力消費効率も悪くない優秀な遺物ですよ。雨避けなんかにどうですか?」

「あー確かに」

 もうそろそろ雨が多くなる時期だから、こういうのがあると便利かもしれない。
 傘を差すのって面倒だよね。

「遺物を、傘代わりに使うのですか!?」

 ギョッとした顔をするミーニャ。
 ……流石に傘代わりとして使うには値段が高いか。

「お値段は?」

「ざっとこれほど。特別価格ですよ」

「「高!?」」

「うーん、まあ、こんなもんか……」

 防御系の遺物は冒険者や戦闘を行う職業の人以外にも、貴族や偉い人にも人気が高い。そのため、総じて価格が高額になりやすいのだ。
 特にこれは魔力消費効率も悪くないと言うから、魔道士のような魔力が多い人以外にも使いやすいということ。周りが危ないというデメリットは大きいが、それだって自分以外に被害が及ぶというだけだから使いようによってはどうにかなる部分でもある。

 うーん、別に払えない金額ではないけど、一旦保留だな。
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