黄金と新星〜一般人系ギルドマスターのなるべく働きたくない日々〜

暮々多小鳥

文字の大きさ
61 / 64
第二章『冒険者新人研修会』

三十六話「書類に署名」②

しおりを挟む




「うーん」

 お散歩から帰ってきて、私は今執務室の机の上に置かれた小さな粒を前に唸っていた。
 傍にはレイリィから受け取った手紙と開封された小包が。

「……小石……いや、種とか?木の実という可能性も…………」

 そう、おそらく私がお土産をねだったから送ってくれたのであろうこの物体が、何なのか全くわからないのである。

 なにこれ?

 お手紙の方に何か書いてあるかな、と思い手紙を読んでみたのだが、お手紙は社交辞令から始まり旅の様子、現在の進捗と続き、こちらの様子を尋ねる内容に移り、またご連絡いたしますと締められていた。
 お土産については「貴女のお望み通りのものだと良いのですが」としか書いてない。

 お望みも何も、これが何か分からなければ判断のしようがないんですけど。

「それなぁに、クリアちゃん」

「レイリィから届いたものなんだけど……なんだと思う?」

「えぇ、「眠る爆林」のでしょぉ?どうせ爆発でもするんじゃなぁい?」

 ですよね。

 爆発物だなんて、なんて危険なものを送りつけてくるんだ。
 私が欲しいのは現地のお菓子とか面白いおもちゃとかなんだけど、毎回こういうのお土産でくれるんだよなぁ。こっちが要求した手前いらないとは言えないんだけど、次からはどんなのが欲しいってはっきり言っておこうかな。

「ねぇ、リオはこれ何か分かる?」

「んー?……ヒミツ」

 なんで?

「そういえばマスター、ギルベルトさんはどこに?」

「あぁ、どっか行っちゃって」

「えっ……何か問題でも起こしていないと良いのですが……」

「どうせ訓練場とかにいるでしょ」

 爆発物らしき小粒を包み直しつつ、シーファにそう返事をする。

 これどうしようかな。どのタイミングでどう爆発するか分からないし、しまっておこうかな。
 いや、護身用に持っててもいいかもしれない。

 書類の整理をしていたシーファはその中の数枚を手に取ると、気を切り替えるように頭を振り、私の方へと近づいてきた。

「マスター、こちらご確認お願いします。私も一緒に、確認しますから」

「あー、ありがと。メルちゃん、ちょっと向こう行って」

「えぇー」

 メルを引き剥がし、書類を受け取る。
 パラパラとめくってみた。

 …………うん、分からん。

「まず、こちらは今月の出入費に関する報告書ですね。達成した案件と担当者、報酬と諸経費について、こちらは維持費と仲介料、人件費、備品や情報の購入費などについてです。一通り確認しましたが大丈夫そうでしたので、マスターも一応お目通しの上確認をお願いします」

「あー……なるほどね」

 まぁ数字なんて見ても何も分からないんだけど、ギルドマスターとしてお金の流れをある程度認識しておくことは大事だよね。
 はいはい…………こんな感じね、うん。

「こう見ると、みんなよく働いてるのね。達成件数とか」

「そうですね。ランクの低い若手冒険者ほど精力的に活動し、依頼達成件数も多い傾向にありますが、その分報酬は低めです。ただ《新星》は若手でもランクの高い実力者が多いので、星二から四程度の若手冒険者が収入の大部分を占めています」

「そうなのねぇ」

 書類下部にちょちょっと署名すると、さっとシーファが書類を回収する。

「こちらは先日の討伐作戦に関する契約書です。最終的な報酬額、参加人数、個人に対する追加報酬や貢献度、あとは作戦の概要や伝達事項ですね。こちらも、私が確認済みですが……何か質問があれば私に、なければ署名をお願いします」

「はいはい」

 特に気になるところは……ないね。
 半分くらいは、分かってるようでいて分かってない部分もあると思うけど。

「あれ?私にも報酬出るの?」

「扱いとしては不参加ですが、流石に無視できないほどの貢献度だったので特別手当という形で報酬が支払われるようです。依頼達成数には換算されませんが」

「あらそうなの……」

 さらさらっと署名すれば、シーファがパッと回収してくれる。

「これは……あぁ、これはギルベルトさんに関するギルドメンバーからの報告書と嘆願書です」

「嘆願書?」

「どうやら、先日ギルベルトさんが訓練場にてその場にいたギルドメンバーを巻き込んで強制的に訓練をさせたそうで……度を越した訓練によりその後数日間の冒険者活動に支障が出たとのことです。そのため、ギルドマスターおよびギルド幹部、または〈黄金の隕石〉に、ギルベルトさんの監視・管理を徹底するようにとの嘆願書ですね」

「あー……」

 そういえばこの前、ギルドメンバーとたくさん競争した!とか言ってご機嫌だった時あったなぁ。

「……ちょっと待って、ギルに対する不満を私に伝えられてもって感じなんだけど」

「ですが、ギルベルトさんを制御できるのは確かにマスターや幹部、〈隕石〉の方々だけですからね」

「問題児なのに強いって余計迷惑だね……」

 まぁでも、確かにギルの保護者代理として(?)彼の監督責任は私達にある。
 そこは私達がなんとかしよう。

 ……とりあえずユーリスに相談しとけばいいかな?

「分かった、まぁ、前向きに検討するってことで」

「はい。それから、こちらは…………」




 ▷▷▷




「……結局、シーファが確認済みの書類にちょっと署名するだけだったような……」

「これが普通だとは思わないで下さい。いつもこの署名さえ面倒がるので、必要最低限の書類をお渡ししただけですよ。やる気を出していただけたなら、これまで事務方で代行していた仕事もお任せしますが」

「それはあの、ちょっとずつでお願いします」

 このギルドが経営破綻しちゃうので。

「それにしても、どうして急に意欲的になられて何かあったんですか?」

「まぁ……やっぱりいつも、シーファやユーリスに頼りすぎだったなと思って。あと、ある程度独り立ちできるようにならないと弟の人生をダメにするな、と……」

「はあ、すでに手遅れ……いえなんでもないです」

 やっぱり、今日の書類の内容もほぼ理解できてなかったし、ちゃんと仕事ができるようになるまでの道のりは長いな……

 ギルドマスターの仕事覚えるよりも、私でもできるような仕事を探した方が早いのでは?

「シーファは、私が冒険者辞めるって言ったらどうする?」

「え!?今マスターが引退してしまえば、このギルドは衰退しますよ?マスターの穴を埋められるだけの能力は、今のメンバーや事務員にはありません!」

 いやそれはないでしょ。私いつも何もしてないし。
 シーファには「どうぞご勝手に」的な反応をされるかとも思ってたから、ちょっと驚いた。

「メルちゃんは?」

「え?……クリアちゃんはぁ、メルとずぅっと一緒でしょぉ?」

「……そうだね。うん、もちろん」

 つまり、どういうことなんですかね。

「そもそも、セブンさんが反対するでしょうに。マスターが冒険者を辞めるなんて全く想像できませんし、周囲の反対もかなりあるのでは?」

「でも、ユーリスはそうなったら自分も辞めるって言ってたよ」

「え……!?セブンさんまで引退したら、ギルドは再起不能になりますが!?」

「……まぁ、あくまで仮定の話だから」

 確かにユーリスが辞めるのはまずいなぁ……
 引退は当分無理か。

「……本当に仮定の話ですよね?マスターは時折そんなお話をされますが、冗談なんですよね?せめて、引退するにしても引き継ぎを全て完了してからにしてくださいね??」

「うん、そうだね。もちろんだよ、うん……」


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした

月神世一
ファンタジー
​「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」 ​ ​ブラック企業で過労死した日本人、カイト。 彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。 ​女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。 ​孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった! ​しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。 ​ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!? ​ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!? ​世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる! ​「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。 これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

処理中です...