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第二章『冒険者新人研修会』
三十七話「騎士団本部」①
しおりを挟む「案の定だね」
「流石にそんなことないだろうと思ったのに……」
翌日。
私達はどこへ向かっているのかといえば、中央区にある騎士団本部である。
「最近はマシになってきたと思ってたのに……」
「ギルも今回は、何か理由があるのかもしれないよ」
「あるかねぇ……」
はい、ギルさんがやらかしましたよ、またしても。
今朝、騎士団本部から「ギルベルト・ゼンを預かっているから引き取りに来い」と連絡があったのだ。
最早いつものパターンである。どうせギルが誰か襲ったか喧嘩でもしたんだろう。本人は競争だとか決闘だとか言ってるけど。
それで行ったら私達がお叱りを受けるんだから。
あーあ、昨日中央区に来たばっかりなのに。
騎士団本部は石造りの少し古風な建物だ。この石は全て硬度が高く魔法抵抗も強い「魔鉱石」を加工したものらしい。
とはいえ、中は至って普通のお役所といった感じだ。もちろんいるのは剣を持っていたり鎧を着ていたりする騎士の方々がほとんどだが、物々しい雰囲気とかはない。普段は。
受付にいる、多分騎士ではないと思われるお姉さんに用事を告げ、奥の部屋へと案内される。
この辺はなんだか冒険者協会に似ているが、騎士は冒険者と一緒にされるとすごく怒るので黙っておく。
「あぁ、マギナさん。わざわざご足労いただきましてありがとうございます」
「いえ……もういつものことですから……」
通されたのは小さな応接室だ。取り調べ室ではなさそうでよかった。
何度かこうしてお世話になっている騎士のお兄さんに促され、お兄さんと机を挟んで向かい合うようにユーリスと共に並んで座った。
こほん、とお兄さんが一つ咳払いをする。
「先に申し上げておきますと、ゼンさんは現在地下の待機室にいます。今回は厳重注意だけですし、本人も落ち着いているようでしたので。今、部下が迎えに行ってます」
「あぁ、それは良かったです……」
じゃあこの建物にいるのか。あんまり暴れた時なんかは外区にある拘置所に放り込まれてたこともあるから、今回はそこまでじゃなかったってことかな。
厳重注意なら罰金もなさそう。
「それで、早速本題に入るんですけれども。今回ゼンさんが拘束されたのはですね、公共物に対する器物損壊のためです」
「……というと?」
「騎士団本部を出てすぐあたりに新しくできた石像、分かります?あのタカの。あれを壊しました」
「え!?」
なんか布掛けてあるなと思ったらギルが壊したからだったの!?
すごい重要そうなやつじゃん、もしかして賠償金とか払わないといけないやつじゃない?
ユーリスが眉を顰めつつお兄さんに質問した。
「それは、どういった経緯で壊れたんですか?ギルが誰かと揉めて、それに巻き込まれて壊れたとかはありませんか?」
「いえ、ゼンさんが突然ぶん殴って破壊したと目撃証言があります」
「なぜ!?」
何、気に入らないことでもあったの!?
タカ嫌いだったとか?いや、むしろカッコいいって興奮してた気がするな……
人に襲いかかることはごく稀にあっても、物を破壊することはないと思ってたんだけど…………
「え、賠償金とか、なりますかね。私が言うのもなんですけど、そんなことして厳重注意だけでいいんですか」
「本来なら余裕でアウトなんですけど。今回は賠償金も請求しません。というのも、ゼンさんが像をぶん殴ったことの正当性が認められまして」
石像を殴っていい正当な理由なんてあるんですか。
突然ぶん殴って破壊したのに?
「壊れた石像を調べたところ、側面に最近書き込まれたらしき魔法式があったんです。ゼンさんは一応、その魔法式が使用されて何かしらの事件が起こることを未然に防いだということで」
「魔法式?」
「ええ。ゼンさん本人も、「なんか嫌な感じがして壊していいと思った」と供述していました」
あの子の野生の勘はすごいからねぇ……
魔法式というと、微弱な魔力を込めて書かれた文字列や陣のことで、魔法の発動を補助するような役割ができるんだったっけ?
落書きでほいほい書けるほど、魔法式は簡単に書けるものじゃない。
「どんな魔法式だったのですか?」
「対魔法班に解析してもらったところ、転移魔法の補助式だったようです。式を書き込んだ場所の近くに転移してくる際に、魔法の発動や場所の指定をしやすくするものだとか。とはいえ、転移魔法は魔力消費がえげつない上に、あの魔法式だと精々一人か二人程度しか転移できないようなものだったらしいですけどね」
「転移魔法……」
ユーリスが何やら考え込んでいる。
転移魔法かぁ。アンナなら使えるんだけど、あの子方向音痴すぎて行きたい場所と全く違うところに飛ぶから使用禁止にしてるんだよね。
こんな感じの魔法式を使おうにも、理論が分からないから式書けないし。……あんなにすごい魔法バンバン使えるのに魔法式一つも書けないって、確かにアンナって変わってるわね。
「騎士団は、その魔法式についてどのような見解をお持ちで?ギルが発見しなくとも、いづれ誰かが気づいていたのでは?」
「それは、そうでしょうね。ただ事件の火種はなるべく早く察知し消し去ることが重要ですから、騎士団としても今回に関してはゼンさんに感謝しています。また、我々の見解については現状不明点が多すぎてなんとも、といった感じですね。式を書き込んだのが誰なのか、いつ書かれたのか、何の目的で……そのあたりも未だ調査中です」
まあ昨日判明したんだからそりゃ分かんないよね。転移魔法ってところも不思議だし。
とにかく、最初はギルが破壊行為をしたって聞いてびっくりしたけど、そこまでギルが悪い訳じゃなさそうかな。
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