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第一章
20 ロイヤの街
しおりを挟む館から南に十キロ程行った所にロイヤという街がある。……らしい
今日は、初めてのお出掛けです。
館の者が馬車を用意してくれたのに、ガインはサミアンと俺を、自分の馬に乗せた……
ガインの馬は特別大きいけど、大きい鞍を着けても三人はキツイ!
「おかあたま! たのちいでちゅね?」
俺の前に乗ったサミアンが振り返り、見上げてくる。
人型になってから初めての馬上からの眺めは格別らしく、サミアンはずっと興奮気味だ。
俺はというと、背後から回された手綱を操るガインの腕を見ながら、ポーッとなっている。
(長いから細く見えるけど、凄い筋肉量だよな? 逞しくてカッコイイ! 手もすごく大きい! 張り手一発で人を殺せそうなのに、いつも俺とサミアンを優しく撫でてくれる……)
……なんて「ガインの腕」だけでメシが三杯食えそうな、36歳(男性)の乙女脳をどうにかして欲しい……
「クリス……どうかしたか?」
今、そんな美声で話し掛けないでくれ!!
「な、なんでもないよ!大丈夫!」
「そうか……疲れたなら言ってくれ」
ガインは後ろから俺の蟀谷にチュッっとキスをした。
(あまーい!!)
ハ○バーグ師匠の往年のギャグが、飛び出すような甘さに脳みそが溶けそうだ……
隣でミゲルの馬に同乗している、ノイの薄ら笑いが腹立たしい……
落ち着く為に、景色でも眺めようかと思って顔をあげると、上空には数匹のドラゴンが飛んでいた……
「あっ、ドラゴンだ! レパーダより随分小さいね!」
ミゲルによると、レパーダは黄金竜の恩恵を受けるルーシア国内でも最大のドラゴンで、伝説の黄金竜に次ぐ存在として神聖視されているらしい。
王室は所有を切望していたが、当のレパーダがそれをはね除け、ライヒアの所有を受け入れたと云う経緯がある。
「へぇー、レパーダって凄い子なんだね?」
「子……まぁそうだな、それにしても最近この辺はドラゴンが増えたようだ……」
ガインは何故か呆れ顔をした後、空を見上げて言った。
「そうですね……ドラゴンに愛される国は栄えると謂われてますし、吉兆ですかね?」
俺達はロイヤに到着するまで、楽しそうに空を飛び回るドラゴンを眺めていた。
「ガイン様だ!!ガイン様がいらしたぞっ!」
「噂の奥方もいらっしゃる!! おおぉ何と美しい……」
皆様のお声が、心苦しい……
ガインの伴侶だからみんな誉めてくれるけど、イケメンのガインと、天使のようなサミアンに挟まれて、地味顔の俺が美しいワケないじゃん?
「サミアン様とお揃いのレースのサッシュベルトが素敵だわ! あれが今、館で流行の着こなしなのね!!」
元モデルだから、着こなしアレンジは自信あるけど、その辺に有るもの身につけてるだけだから、そこまで誉められてもなぁ……
「おかあたま、おちょろいほめられまちた」
「ふふっ、誉められたねー。サミアンが可愛いからだよ!」
サミアンは、嬉しそうにヘニャっと笑った。
俺達が歩くと人が集まる。
公的に運命の番であることが発表になってから、狼族の人達は掌を返した様に友好的になった。俺としては少し複雑だ。でも身の危険が無くなったなら楽しまなきゃ損だよね!
「あっ!唐揚げだ!こっちの世界にもあるんだ!?」
唐揚げは、ヒロシの大好物だった。父子家庭で、小学生の頃から家事をしてくれたヒロシは、一週間に一度は唐揚げを揚げていた……
「食べてみるか?」
「いいの?」
唐揚げは、醤油に似た調味料が使われていて美味しかった。もっとアレンジすれば、ヒロシの唐揚げに近い味になるかもしれない!
俺は迷わず、調味料を買って帰った。
ついついはしゃいでしまったので、街の人も気さくに話し掛けてくれて、楽しい時間を過ごすことができた……
「ふふっ、サミアンぐっすりだね」
「ああ…… 一日中興奮していたから、疲れたのだろう」
寝台の真ん中に、抱っこで寝てしまったサミアンを横たえながら、ガインが言った。サミアンは余程楽しかったのか、顔がニヤけたままだ。
あ、サミアン寝ちゃうとガインと二人きりなんだ……
俺も、もう寝ちゃおうかな。でもその前に……
「今日は、街に連れて行ってくれてありがとう。すごく楽しかった!」
(……あ、ガインがキス待ちしてる!)
チュッと音を立ててガインの頬にキスをする。
(あれ? 今日はお返し無いのかな?)
ガインは暫し俺を見つめ、静かに口を開いた。
「……狼族は例え総長の運命の番であっても、気に入らない奴は受け入れないぞ……」
「えっ?」
あ、ガイン…… 俺の複雑な心境に気が付いていたんだ……
「今日一日で、街の者は皆お前を好きになった。噂は拡がり、他の狼族も、皆お前を好きになる……」
「…………」
「一人で異世界に放り込まれて辛いだろうに、お前はそれを表に出さない強い男だ。狼族は強い男は受け入れる。……もっと自信を持っていい」
俺の目から、ブワッと涙が溢れた。
狼族の人達に、総長の伴侶として望まれていない事が分かっても、悩んで暗くなるより、明るくしていようと思った…… 俺より辛いサミアンに悲しい顔を見せたくなかったから……
――でも辛くなかった訳じゃない!
俺の迷いを知った上で、今日は街に行ったのかな?
「番」って、こんなにも相手のこと理解できるものなの?
――それともガインは特別?
ガインの大きな手が、俺の頬を包み込み、親指で涙を拭われる……
そのまま美しい顔が近づいたと思ったら、唇を奪われていた……
「あ……ふっ」
何度も角度を変え、深く、深く口づけられる。
(どうしよう……こんなキス……初めてだ)
唇を解放し、もう一度俺の涙を拭ったガインは、美しいライトブルーの目を細めながら囁いた。
「……美しいな……お前は自慢の伴侶だ」
俺が「美しい」なんて信じられないけど、ガインがそう言うなら信じよう……
俺はこの瞬間、この世界でガインの伴侶として生きる覚悟を決めた……
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