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第一章
26 姉から貰ったもの
しおりを挟む――俺がルーシアに行けば『人間狩り』は終わるのかな?
「おかあたま?」
サミアンの声にハッとなる……
今……俺は何を考えていたっ?
俺には、守るべき家族がある。
両親を失った哀しみから立ち直ったばかりのサミアンを悲しませる訳にはいかない……
~~~~~~~~~~
サミアンを寝かしつけてリビングスペースに戻ると、ガインが読んでいた本をパタンと閉じ、話し掛けてきた。
「グランドルと話したんだろう?」
「うん……昼間、庭にいる時に」
「他国で連れ去られた人間を調べると言っていたが?」
(怒ってるかな?ちょっとやらかした気がするし……)
「ごめん……俺、グランドルに疑われる様な事、口走った……」
ガインは苦笑いしながら手を差し出した。傍まで行くと、カウチに座ったガインの左膝に横抱きに座らされる。ガインは長い腕を俺の腰に回し、しっかり支えると、ライトブルーの綺麗な瞳で俺を見つめた……
「グランドルなら大丈夫だ。口外するような男ではない。単独で動く事も出来るのに、俺に断りを入れて来るくらいだ。……何を心配している?」
「ルーシアの隣国で行方不明者が続出してるって言ってた…… もし俺があいつらの探している神子なら、俺が見つかるまで、他の誰かが連れ去られるのかな?」
ガインの腕に力がこもる……
「お前は、……何故そこまで他人の心配をする? サミアンの時もそうだった。赤の他人の子供に、同情ではなく愛情を示した。だからサミアンは最初から心を開いたんだ……」
「なぜ」と言われても分からない、俺には当たり前のことだから……
「俺ね……六歳の時に母親が出て行っちゃって、十歳上の姉に育てられたんだ……」
フランス人の父と別れた母は、子供二人を連れて帰国したが、当てにしていた両親からは勘当された。
生活力のない母は、行政の保護を受けながら細々と暮らすことしか出来なかった。
子供を二人産んでも美しかった母は、夜の街で仕事を見つけてきたが、美しいだけで、話術も教養も持たない女が大金を稼げる程、甘い世界ではなかったようだ。
いつもギリギリの生活は、贅沢に慣れた母の心を蝕み、次第に子供達から距離を置くようになった。
時々やって来て僅かな金を置いて行く母が姿を見せなくなったのは、姉が16で、俺が6歳の時だった……
そこからは中卒の姉が、仕事を掛け持ちしながら、生活費を稼いでくれた。
だが、俺がモデルで稼げるようになるまで自分の幸せはそっちのけで尽くしてくれた姉は、やっと手にした幸せを享受することなく、逝ってしまった……
二歳のヒロシを残して……
「俺は姉から受けた愛情をヒロシに返そうと思ったけど、全然返しきれなくて…… だから、他人にも優しく接することで『少しでも姉に伝わればいいなー』って思ってる…… がっかりした? ただの自己満足みたいな理由で…… でもサミアンは特別だよ! ヒロシと同じように愛してるよ!」
「がっかりなどしない。同じ環境下であっても、お前と同じように感謝できる者ばかりではない…… 現にルーシアの人間は、あれ程までに黄金竜の恩恵を受けながら、我欲に走っているではないか……? お前だから、皆、心を開くのだ。サミアンも、街の狼族も、グランドルも……」
ガインは右手で、俺の前髪を掻き上げながら、囁いた。
「案ずるな……お前が心を痛めるのなら、巻き込まれた人間も助け出せるよう手配しよう…… 俺の伴侶が人間だと云うことは、いずれルーシアに知れる…… 向こうが、手荒なことをしてくる前に、こちらから接触することも考えている…… 今はサミアンの為にも無謀な事は考えるな」
「うん……わかった……ガインを信じるよ」
ガインは、俺を理解してくれている……
一人で抱え込まなくても、俺より先を考えてくれている……
「ところで、特別に愛しているのはサミアンだけか?」
俺は、頬が熱くなるのを感じた。
「……ガインもだよ」
「そうか…… 俺もお前を特別に愛している」
ちゅっとキスをされた所で、寝台で泣くサミアンの声が聞こえてきた。
「ふぇぇぇ、おかあたまー、おとうたまー」
目を開けて一人だったので不安になったようだ……
ガインと目を合わせクスクス笑う。
今はこの幸せを、素直に喜ぼうと思った……
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