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第二章
55 六年の歳月
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バンッ!!
勢いよく扉を開ける音が響き、同時にノインの驚きをはらんだ声がこだました。
「お父様、サミアンが一人で館に戻ると云うのは本当ですか!?」
珍しく仕事を早く終えたガインと、明るいうちからイチャイチャしていた俺は、突然のノインの襲来に声を荒らげた。
「ノイン! 部屋に入る時はノックしろ!」
「……はい、失礼しました。それよりサミアンは……」
(くっ、聞き流しやがった)
「館ではない。ロイヤにある寄宿制の高等教育学院に行くんだ。このラピヤにも種族を問わず通える学校は整備中だが、サミアンの入学に間に合わん。お前もいい加減サミアンから卒業しろ」
「だからって! あのぼんやりしたサミアンを狼の群れに放り込むなんてあり得ない! 俺も付いて行く!」
(お前も狼だろっ!)
ガインと俺は「やれやれ」といった面持ちで、目を合わせた。
十歳になるサミアンは、高等教育を受ける為、この秋から狼族の領地にある寄宿制の学校に入学することになった。十五歳で成人するまで、そこで学ぶことになる……
ノインが騒ぎ出す事は分かっていたから秘密裏に事を進めていたけど、どうせノイあたりがポロッと言っちゃったんだろう。
七歳になっても兄離れできないくせに体の成長は早いノインは、人間の十二、三歳児くらいの身長で、狼族にしてはノンビリ成長しているサミアンと、そう変わらなくなってしまった。
(中身はまだまだ子供だけどな!)
黒竜との対決から六年が経過してもガインの記憶は戻っていない。
今では新しい家族の絆も出来たと思うけど、やっぱり出逢ってからの三年間を覚えていないのは少し寂しい……
この六年は、この世界にとって激動の時代だった。
世界一の大国だったルーシアは、自力で反乱軍を完全に制圧することができず、ガレニアが仲裁に入り、王を国の象徴とする民主国家に生まれ変わった。
新憲法制定の際、ガレニアからライヒアとカートを派遣し平民の権利を重視したことで、貧富の差は埋まりつつあるようだ。
世界中の戦乱も、友好国への人道支援としてドラゴン部隊を派遣したことで、平和的な解決を模索する動きが強まり、少しずつ下火になっていった。そして内部崩壊した国家の支援を行っているうち、ガレニアは戦わずして領土を広げ、今ではルーシアに次ぐ大国になった。
レパーダとセレスティオは特別なドラゴンとして神格化されている。
信仰は自由だから止めないけど、ガレニアでは敢えて神殿の建設などは行っていない。元々多種族国家というのもあるけど、ドラゴンは友人として共に生きる存在だと周知して行きたいからだ。
ドラゴンは平和を愛する生き物で、人道支援にも喜んで参加してくれる。でもその大きな力に期待しすぎたら、ルーシアの二の舞になるのだろう。
ガインはドラゴンに頼らなくても平和が続く世の中になるよう、人々に指導している。
もしセレスティオが黒竜のままだったら、世界は破滅への道を歩んでいただろう……
結果的にサミアンの持っていた卵のおかげだけど、ガインが命懸けで魔術師に立ち向かっていなかったら、成し得なかった。
記憶を失ってしまったけど、その代償はあまりにも大きかった。
俺達はガインのおかげで、今日も平和に暮らしている……
「でもサミアン、本当に大丈夫かな?」
俺はノインが怒って出ていった部屋で、ガインに向けて問いかけた。
相変わらず天使のように可愛いサミアンは、狼族のみならず、城を訪れるアルファ達に大人気なのだ。
神子だからと近づくクソみたいな奴も稀にいるけど、ほとんどは、サミアンが発情期を迎えてオメガとして覚醒するのを純粋に願っているサミアン信者だ。
恐ろしい事にノインもこれにあたる……
兄弟とはいえ、血縁上は従兄弟なので、番契約も認められているのだ。困った事に……
「ガインは11歳でアルファ覚醒したんだろ? サミアンだってもうすぐじゃないの?」
「オメガの覚醒は13歳頃だ。暫くは大丈夫だろう。それに寄宿舎もアルファとは別になっている。小さいうちは、ベータと一緒になることもあるが、アルファは成長が早くて入学時に確実に判別できるから、覚醒前から隔離されるんだ」
「それでもやっぱり心配だよ。ノインの気持ちも分かる! せめてシンがボディガードに付いて行ければいいんだけど……」
「無理を言うな、シンは子を宿しているんだぞ」
それなっ!
シンが突然休業申請してきたとおもったら、未婚の母になるとか言い出したのだ。
「くっそっ!グランドルめー」
シンは相手の名を伏せたかったみたいだけど、ノインを見てたら、獣人と人間のミックスがどんな感じで生まれてくるか分かるから、隠しても無駄だと思ったようだ。
「お前もそろそろサミアン離れしないとな……」
入学が決まってショックなのはノインばかりではない。
俺も可愛いサミアンと離ればなれになるのは寂しいけど、子供はいずれ巣立って行くものだ……
それは経験上知っている。ヒロシだって、俺より大事な人を見つけた。でもそのおかげであっちの世界で俺が死んでも、一人ぼっちにしないで済んだわけだし、サミアンにも、同世代の子供と触れ合う機会は必要だ。
「ガイン……ノインのフォロー頼める? ここはアルファ同士の方がいいよね?」
「ああ、分かった。お前はサミアンを頼む」
「うん」
勢いよく扉を開ける音が響き、同時にノインの驚きをはらんだ声がこだました。
「お父様、サミアンが一人で館に戻ると云うのは本当ですか!?」
珍しく仕事を早く終えたガインと、明るいうちからイチャイチャしていた俺は、突然のノインの襲来に声を荒らげた。
「ノイン! 部屋に入る時はノックしろ!」
「……はい、失礼しました。それよりサミアンは……」
(くっ、聞き流しやがった)
「館ではない。ロイヤにある寄宿制の高等教育学院に行くんだ。このラピヤにも種族を問わず通える学校は整備中だが、サミアンの入学に間に合わん。お前もいい加減サミアンから卒業しろ」
「だからって! あのぼんやりしたサミアンを狼の群れに放り込むなんてあり得ない! 俺も付いて行く!」
(お前も狼だろっ!)
ガインと俺は「やれやれ」といった面持ちで、目を合わせた。
十歳になるサミアンは、高等教育を受ける為、この秋から狼族の領地にある寄宿制の学校に入学することになった。十五歳で成人するまで、そこで学ぶことになる……
ノインが騒ぎ出す事は分かっていたから秘密裏に事を進めていたけど、どうせノイあたりがポロッと言っちゃったんだろう。
七歳になっても兄離れできないくせに体の成長は早いノインは、人間の十二、三歳児くらいの身長で、狼族にしてはノンビリ成長しているサミアンと、そう変わらなくなってしまった。
(中身はまだまだ子供だけどな!)
黒竜との対決から六年が経過してもガインの記憶は戻っていない。
今では新しい家族の絆も出来たと思うけど、やっぱり出逢ってからの三年間を覚えていないのは少し寂しい……
この六年は、この世界にとって激動の時代だった。
世界一の大国だったルーシアは、自力で反乱軍を完全に制圧することができず、ガレニアが仲裁に入り、王を国の象徴とする民主国家に生まれ変わった。
新憲法制定の際、ガレニアからライヒアとカートを派遣し平民の権利を重視したことで、貧富の差は埋まりつつあるようだ。
世界中の戦乱も、友好国への人道支援としてドラゴン部隊を派遣したことで、平和的な解決を模索する動きが強まり、少しずつ下火になっていった。そして内部崩壊した国家の支援を行っているうち、ガレニアは戦わずして領土を広げ、今ではルーシアに次ぐ大国になった。
レパーダとセレスティオは特別なドラゴンとして神格化されている。
信仰は自由だから止めないけど、ガレニアでは敢えて神殿の建設などは行っていない。元々多種族国家というのもあるけど、ドラゴンは友人として共に生きる存在だと周知して行きたいからだ。
ドラゴンは平和を愛する生き物で、人道支援にも喜んで参加してくれる。でもその大きな力に期待しすぎたら、ルーシアの二の舞になるのだろう。
ガインはドラゴンに頼らなくても平和が続く世の中になるよう、人々に指導している。
もしセレスティオが黒竜のままだったら、世界は破滅への道を歩んでいただろう……
結果的にサミアンの持っていた卵のおかげだけど、ガインが命懸けで魔術師に立ち向かっていなかったら、成し得なかった。
記憶を失ってしまったけど、その代償はあまりにも大きかった。
俺達はガインのおかげで、今日も平和に暮らしている……
「でもサミアン、本当に大丈夫かな?」
俺はノインが怒って出ていった部屋で、ガインに向けて問いかけた。
相変わらず天使のように可愛いサミアンは、狼族のみならず、城を訪れるアルファ達に大人気なのだ。
神子だからと近づくクソみたいな奴も稀にいるけど、ほとんどは、サミアンが発情期を迎えてオメガとして覚醒するのを純粋に願っているサミアン信者だ。
恐ろしい事にノインもこれにあたる……
兄弟とはいえ、血縁上は従兄弟なので、番契約も認められているのだ。困った事に……
「ガインは11歳でアルファ覚醒したんだろ? サミアンだってもうすぐじゃないの?」
「オメガの覚醒は13歳頃だ。暫くは大丈夫だろう。それに寄宿舎もアルファとは別になっている。小さいうちは、ベータと一緒になることもあるが、アルファは成長が早くて入学時に確実に判別できるから、覚醒前から隔離されるんだ」
「それでもやっぱり心配だよ。ノインの気持ちも分かる! せめてシンがボディガードに付いて行ければいいんだけど……」
「無理を言うな、シンは子を宿しているんだぞ」
それなっ!
シンが突然休業申請してきたとおもったら、未婚の母になるとか言い出したのだ。
「くっそっ!グランドルめー」
シンは相手の名を伏せたかったみたいだけど、ノインを見てたら、獣人と人間のミックスがどんな感じで生まれてくるか分かるから、隠しても無駄だと思ったようだ。
「お前もそろそろサミアン離れしないとな……」
入学が決まってショックなのはノインばかりではない。
俺も可愛いサミアンと離ればなれになるのは寂しいけど、子供はいずれ巣立って行くものだ……
それは経験上知っている。ヒロシだって、俺より大事な人を見つけた。でもそのおかげであっちの世界で俺が死んでも、一人ぼっちにしないで済んだわけだし、サミアンにも、同世代の子供と触れ合う機会は必要だ。
「ガイン……ノインのフォロー頼める? ここはアルファ同士の方がいいよね?」
「ああ、分かった。お前はサミアンを頼む」
「うん」
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