獣人の子育ては経験がありません

三国華子

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【外伝】

ライガーと麗しの剣士 2

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子供達に剣術を教えるようになってからは充実した日々を送っていたシンだが、世界情勢は悪化の一途を辿っていた。
そして遂にはガインとクリスが元凶となっている黒竜を討伐する為、ルーシアに赴く事になった。
サミアンとノインはそれが如何に危険な事なのかを感じ取ったようで、二人を行かせまいと部屋に籠り、生意気にもストライキを始めた。

子供達の気持ちも分かるが、このまま放置してはガレニアにも危険が及ぶ。
黒竜に対抗できるとしたら、他国でも最強のアルファと名高いガインと、大型竜レパーダを有するクリスをおいて他にいないのだ……
二人は籠城する子供達に後ろ髪を引かれながらも、レパーダに乗り、ルーシアに向けて飛び立った。

小さくなる白い影を祈るように眺めていると、隣で一緒に見送っていたグランドルが呟いた。

「ガキどもはどうした?」

「どうしたもこうしたもハンスト続行中だ。まあ、クリス達が旅立ってしまえば諦めて出てくるだろう……」

「甘いなシン。サミアンは兎も角、ノインがそう簡単に引き下がると思うか? 小さくてもアイツは侮れんぞ。よし、俺が引きずり出してやる!」

クリスを護ると誓ったシンにとって、命懸けで黒竜と対峙する筈のクリスに付いて行けなかったのは不本意だった。だがクリスにとって自分の命より大切なのは子供達だ。
シンは自分に託されたサミアンとノインを命に代えても護り抜く覚悟だった。

子供達の部屋に着くと、グランドルは乱暴にドアを叩いた。
「おいっ、ガキども! ガイン達は行っちまったぞ。いつまでそうしているつもりだ。シンが心配してガリガリになってるぞ!」

――なってねぇし。

隣でニヤニヤするグランドルに呆れつつも、中からなんの返事も無いことが気になった。暫くシンをからかうように戯れ言を言っていたグランドルだが、部屋の中に異変を感じて、力ずくでドアを抉じ開けた。

「おい、悪ふざけもいい加減にしないと、本気で怒るぞ!」

部屋は静まりかえり、子供たちの姿は無かった。何処かに隠れているのかと思いグランドルが声をかけ続けるが、返答が無いどころか気配すら感じない。
シンは慌ててベッドの下やクローゼット、バスルームまで汲まなく探すが、二人を見つけることは出来なかった。
「そんな……鍵は閉まっていたのに」

「窓から外に出たのか? ここは三階だぞ、無茶しやがる……」

窓の下を覗くグランドルだが、少なくとも落ちて怪我をしているわけではなさそうだ。

「何か部屋に異変はないか?」

「あっ、クローゼットのトランクが失くなってる!」

「なんだと? レパーダにトランクを二つ積んだが、まさか……」

「トランクは一つだ! 昨日クリスの荷造り手伝ったから間違いない!」

二人は無言で見つめ合い、シンはそのまま顔を青くした。

「俺、子供たちをクリスに任されたのに……」
「シン、お前のせいじゃない。あんなチビッ子が三階の窓から脱出してトランクに隠れてるなんて、誰も想像できんだろう。確認せずレパーダにトランクを積んだのは俺だ」

「ああ、どうしよう。これじゃクリスも子供たちも護れない」

「……シン、前から言おうと思っていたんだが、あいつらにはガインが付いている。お前がそこまで責任を負う必要はない」

「そういう問題じゃない!俺はクリスの命を一度奪っているんだぞ、俺の命はクリスと子供達に捧げると誓ったんだ! それが俺がこの世界で生きる理由だ!」

「自分の生きる理由を他人任せにするなっ! お前がこの世界で生きる意味なんて他に幾らでも見つけられる。お前があいつらの為に自分を犠牲にしたところで、あいつらが喜ぶと思うのか!?」

「……お前に……何が分かる?勝手な事ばかり言うなっ!!」

シンは部屋を飛び出して、子供達がどこかに隠れていないかと城中を探した。そして、広い城内をくまなく探し終わる頃には夜が明けていた……

翌日からは城外まで足を伸ばした。たとえ1%でも子供達がガレニアにいる可能性があるかぎり、シンは探さずにはいられなかった。

――「自分が生きる理由を他人任せにするな」か…… 耳が痛い。クリスがそれを望んでいないことも分かっている……

グランドルの言葉が胸に突き刺さる。
だが、シンは自己満足の為だけに彼らを護りたい訳ではなかった。子供達に剣を教え、世話を焼く中で芽生えたサミアンとノインへの愛情は、罪悪感からもたらされたものではないのだ。純粋に子供達の身を案じている。

三日目の捜索を終え、なんの情報も得られず重い足取りで城に戻ると、馬屋でグランドルに会った。偶然ではなく待ちぶせされていたのかもしれない。

「こんな時間までご苦労なことだ。お前がしているのは無駄な事だと分かっているんだろ?」

「余計なお世話だ。誰にも迷惑はかけていない」

「ノイが心配している」

それを言われると心が痛む。共に世話係としてクリスと子供達を見守ってきた者同士だ。只でさえクリスと子供達の心配をしているところに、自分まで気を揉ませるのは申し訳なく思った。

「……それに、俺も心配している。飯は食ってるのか?冗談じゃなくあいつらが帰るまでにガリガリになっちまうぞ」

「…………」

グランドルの案じる通り、食事は殆ど摂っていなかった。食事をする時間があるなら少しでも捜索に時間を費やしたい。

「あいつらは間違いなくトランクの中に居た。重さも獣型の子供二人分くらいだった。今頃はクリスとガインと一緒にいるさ。それに……」

何かを言いかけたグランドルは、シンの異変に気づき眉間に皺を寄せた。

「ちょっと待て、お前どこかおかしくないか?」

そういえば少し身体が熱い。暫く寝てないせいで体温が上がりっぱなしになっているのだろうか?
そう自覚した途端、緊張の糸が切れたのか急に意識が朦朧となった。

「シン!!」

フラフラするシンの身体をグランドルが支える。
「大丈夫か?……お前……まさか?」
グランドルはそのままシンを肩に担ぐと、凄いスピードでどこかに運んだ。

「ここは……?」

「東宮のお前の部屋だ」

「そうか、ありがとう……もう大丈夫……」

「何が大丈夫だ!お前ヒートを起こしているのが分からないのか?」

「ヒート?そんな訳ない。薬だけはちゃんと飲んでる」

「最近身体が大きくなったと思っていたが、抑制剤に耐性ができているんだ。お前、過剰摂取していたなっ!?」

そういえば最近、身体が火照る感覚があり薬の量を増やした。身体が大きくなるだけなら、剣を使うにはかえって都合がいいと思って副作用の事は気にも止めなかったが、まさかこんなに早く耐性ができるとは……

頭が朦朧として、思考力が低下する。この熱をどうしたらいいのか考えることすら儘ならない。

――この香りのせいかな?

ふと気がつくと、部屋には香を炊いたかのように、甘い香りが充満していた。吸い込むと、本能の赴くままに自分を解放したくて堪らなくなった。

「……いい匂いがする」
「どうやら俺とお前は相性がいいらしいな…… 凄まじく……」

――相性ってなんだ? なんかエロい気分になるこの匂いのことか?

「ふふっ、いい匂い……」
「ポヤポヤしてると喰っちまうぞ!」
「ダメだ、俺は挿れる専門なんだ」
トロンとした目でクスクス笑うシンを前に、グランドルは困惑した表情を見せた。
「はっ!そんな可愛い顔して何を言っている? 俺を組伏せられると思っているのか?」

「やってみようか? 俺はあっちの世界では結構モテたんだぞ。三十五年も生きたし、お前みたいな若造とは経験が違うんだ」

「おいおい、只でさえ相性が良すぎて理性が限界なんだ。挑発して泣くのはお前の方だぞ」

「なんだと、俺を泣かせるだと? 本気で言っているのか? よし、いいだろう、俺がお前を泣かせてやる……」

シンはグランドルの大きな身体を寝台に押し倒し、両腕をシーツに縫い付けると、そのふてぶてしい唇を塞いだ。

「ふっ……」

チュッチュッと軽く口づけると、性急に口づけを深めた。甘い舌をグランドルの口腔に差し込んで、熱い舌を絡めとる……

「ふふっ、どうだ?気持ち良くなっちゃうだろ?」

口づけをほどいたシンは、二人分の唾液に濡れる唇をペロッと舐めて、グランドルを挑発するように眺めた。

「ああ、上手いもんだ。だがあまり煽ると辛いのはお前だぞ」

「まだ言うか? 俺はっ……」

グランドルはシンの体重が掛かった腕をいとも簡単に持ち上げると、片腕をシンの背中に回し、クルッと身体を反転させた。

「『俺は』何だ? お前はオメガで俺はアルファだ。俺を挑発した事を後悔しても、もう遅い!」

「うぅ……ふっ」

唇を塞がれ、反論も許されない。
先程の仕返しの様に、グランドルの熱い舌がシンの口腔を蹂躙する……

――キス……久し振りだ……
でもキスってこんなに気持ち良かったっけ?

漂う甘い香りに頭がボンヤリして、快感を素直に受け止めてしまう。
いつの間にか服も剥ぎ取られ、触れられた肌がどんどん熱を増してゆく……

「想像以上の美しさだ。ただでさえお前の髪や瞳の色は美しい雌獅子と同じ色だ。だが剣で鍛え上げた身体は、お前だけが持つ極上の美だ」

グランドルの金色の瞳に炎が宿る。
シンのアンバランスでありながらも絶妙に調和の取れた妖しい美しさに、グランドルの理性は焼ききれる寸前だった。

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