58 / 67
【外伝】
ライガーと麗しの剣士 1
しおりを挟む「シン、それは何処の国の剣術だ?」
東宮の庭で剣を振っていたシンは、突然後ろから低い声を掛けられ、ビクッと肩を震わせた。
――なっ! いつの間に!?
振り向くと、ルーシアでの救出の際に見かけたネコ科の獣人が、腕組みしながらこちらを眺めていた。金色の瞳で、銀と黒の混じった不思議な髪色の派手な男は、一度見たら忘れない。
――ター○ネーターみたいなんだよな。今「ダダンダンダダン」って効果音聴こえた気がするし……
「グランドル……様」
「『グランドル』でいい。敬語を使われるのは苦手なんだ」
「はあ、じゃあ遠慮なく……」
――デカイ男だ……
転生前のシンは百九十センチの長身だったが、目の前の男は二メートルはあるだろう。
シンは元々タチのゲイだった。
恋人に騙され、職を追われた挙げ句多額の借金を背負う羽目になってからは、恋愛にのめり込む事もなく、一夜限りの割りきった付き合いのみをしてきた即物的な男だ。
シンは値踏みするようにグランドルを眺めると、興味なさげに背を向け、素振りを続けながら質問に答えた。
――顔立ちは悪くないが、自分よりデカイ男は範疇外だ……
「これは……転生前に居た国の……『剣道』と云うものだ。……競技では竹刀という刃の無い……刀を使うが、元は日本刀と云う……片刃の剣を使う為の剣術だ……!」
「ガレニアの剣も片刃だが、違うのか?」
「そうだな……これより少し反りがあって……細長い」
「ほう……ちょっと手合わせ願えるか?」
シンの返事を待たずに、グランドルが腰の剣を抜いてニヤリと笑うと、シンは振り上げていた剣をゆっくり下ろした。
――丁度いい、稽古相手が欲しかった所だ。
シンはグランドルに向き直り、中段に構えた。デカイだけかと思ったら全く隙が無く、不思議な動きをする。ネコ科の特性だろうか? 足音が殆ど聞こえない……
シンはグランドルのその巨体に見合わないしなやかさに驚いた。
クリスの転生に巻き込まれ、この獣人の住む世界にやって来たシンだが、転生前には剣道で日本一になった事もある。トラック運転手になる前は、自衛隊の中でも精鋭といわれるパラシュート部隊に所属していて身体能力の高さにも自信があった。
筋肉量が落ちているとはいえ、ここまで実力差を感じるのは初めてだ。おそらく元の身体でも敵わなかっただろう。
「その剣はお前に合っていないようだ」
「剣というより転生で身体が小さくなったから、うまく使いこなせない……」
「そうか、ならばまた手合わせしよう。徐々に勘を取り戻すだろう」
「ああ、喜んで」
それからシンとグランドルは、共に稽古に励むようになった。
* * *
シンはこの世界に自分が存在する意味を見出せないでいた。
ルーシアの後宮に囲われていたところをクリス達に助けられ、このガレニア共和国に移り住んだものの、未だに「好意に甘えてノコノコ付いてきてよかったのだろうか?」と思っている。
クリスはシンの不注意で引き起こした自動車事故を、自分の転生に巻き込んだ事でチャラにしようと言ったが、シンはクリスの車に突っ込んだ瞬間の光景を忘れられずにいた。
あっちの世界でもクリスに息子がいた事は知っている……
サミアンを育てる姿を見れば、息子を溺愛していたであろう事は容易に想像できた。
―――たとえクリスが赦しても、俺が息子から父親を奪った事実は変わらない。
シンは、異世界でも前向きに過ごすクリスの前では痛み分けに納得したフリをしている。だが、どうしても罪悪感を払拭する事が出来なかった。だからクリスと、クリスがこちらの世界で愛情を注いでいる息子のサミアンを生涯護ろうと心に決めた。
それがシンに出来る唯一の贖罪だと思ったからだ……
いつも通り一人で鍛練していると、太い枝を手にしたサミアンがトコトコやって来て、シンに向かって構えて見せた。
サミアンは白狼の獣人でクリスの番であるガインの養子だ。
まだ二歳だが、身体は人間の子供と比べるともっと大きいように見える。
フワッとしたボブカットの可愛らしい姿からは全く迫力を感じないが、本人は白い耳をピンと立て、鼻をフンフンいわせながら精一杯威嚇しているようだ。
「ちんたろたん、タミアンにもけんぢゅつおちえてくだたい」
「『シンタロウ』だ。……構えは悪くないぞ。俺のを見て覚えたのか?」
「はいっ!タミアンは、おとうたまみたいな強い狼になるんでちゅ!」
「ははっ、格好いいなサミアン」
「てへへ」
素直なサミアンは褒めると照れてフニャッとなる。ちなみに「サ行」がまだ発音できなくて全部「タ行」になるので、半分くらい何を言っているのか理解できない。
クリス曰く「照れる姿が可愛くて褒め千切っていたら、どんどんよい子になる。だからエンドレスで褒めてしまう」らしい……
嬉しそうに白い尻尾を振っている姿を見たら、クリスの気持ちも分かる気がした。
本人が「ガインのように」と望んでも、アルファでなければガインの様な強さは望めない。だが確実に美しく成長するであろう彼の周りは、さぞかし賑やかになるろう……
――護身術を教えておいた方がいいかもしれないな……
この日からサミアンのお世話係の他に、剣術の先生という仕事ができた。
クリスとサミアンの為にできる事が増えたのは、シンにとって喜ばしい出来事だった。
指導方法は勿論「褒めて伸ばす」だ。
* * *
ラピヤに来てから二年が経過し、シンにはノインという弟子が増えた。
一歳半のノインは、まだ言葉も覚束ないのに、ガイン譲りの大きな身体と身体能力でメキメキと上達している。
サミアンも筋はいい。大人になる頃にはガインやグランドルクラスは無理でも、普通のアルファくらいなら倒せるようになるだろう。
子供達に教えるのは楽しい。
吸収力が凄まじく驚かされてばかりで、成長を見守る喜びは大きい。
これが天職であるかのように、今まで就いたどの仕事よりも自分に向いているように思えた。
シンは、自分がこの世界に存在することに意味を与えてくれた子供たちに感謝していた。
いつものように稽古を終え、一人自室に向かっていたシンは、廊下でグランドルに呼び止められた。
「おーいシン、母上が久し振りにお前と稽古したいと言っていたぞ」
「ラミール様が?」
「なんだ? 急に目を輝かせやがって!」
グランドルの母ラミールはオメガにしては背が高く、細いなりにも綺麗に筋肉のついた美人で、白虎の獣人だ。
オメガであるのに剣術の腕前もアルファ並みで、グランドルもラミールから剣を学んだという……
ラミールは、全てにおいてシンの憧れの存在だった。
「ったく、母上は見た目は若いが五十過ぎだぞ、オメガがオメガに懸想するなど不毛だと思わんか?大人しく俺のハーレムに入ればいいものを……」
「体はオメガ、頭脳は只の男だ」
シンは少し癖のあるフワフワした金茶の髪を指に巻き付けながら、すげなくグランドルに言い放った。
ハーレムへの勧誘は挨拶の様なもので、人妻のクリスでさえ顔を合わせれば誘われている。ちょっと面倒くさいが、ラテン系の友人だと思って聞き流せばなんてことはない。
「お前ヒートはどうしているんだ?決まった相手はいるのか?」
「相手?どういう意味だ?」
「オメガは皆、相性のいいアルファを探すものだろう? 一夫一妻の狼ですら、番契約までは数人を渡り歩くと聞くぞ? でなければヒートが辛いだろ?」
「ルーシアに転生後から、ずっと抑制剤を飲んでいて、ヒートになった事が無い」
「何だって!?あり得るのかそんな事が?お前本当にオメガなのか?」
「俺もよく分からんが、転生する際にオメガとして召喚されたらしいぞ? 実際身体も小さくなったしな」
「そうか……」
グランドルは何か考え込んでいるようだったが、シンは次の休みにラミールに会いに行く旨を伝え、その場を後にした。
「お久しぶりです。ラミール様」
「シン、よく来たな。新しい剣の使い心地はどうだ?」
「お陰様で、今までで一番日本刀に近い振り心地で、俺には合っているようです」
少し前に武具屋巡りをしていたシンは、グランドルからラミールのコレクションであるルーシアの剣を貰い受けた。
鍛え上げた鋼の長剣は日本刀に近く、基本が剣道のシンには使い易いものだった。ルーシアには、かつて転生した日本人が居たのかもしれない。
「シンお前背が伸びたんじゃないか?」
「そうですか? おそらく私が人間だからでしょう。転生して二十歳前後の体になりましたが、転生前の体も二十歳を過ぎても少しずつ伸びておりましたから……」
「そうか……それならよいが、グランドルがお前の薬の使用を心配していた。抑制剤の過剰摂取は副作用が大きい。俺の背が普通のオメガより大きいのもそのせいだ」
「処方された容量は守ってますので大丈夫だと思いますが……」
「それもいずれ効かなくなる。何かあったらすぐに医者か俺に相談しろ」
「はい。ありがとうございます」
元々タチのシンにとってオメガ性は煩わしいだけだった。シンは生涯クリスとサミアンを護っていければそれでいいのだ。
だからこの時、シンはラミールの忠告をそれほど重く受け止めなかった………
91
あなたにおすすめの小説
愛を知らない少年たちの番物語。
あゆみん
BL
親から愛されることなく育った不憫な三兄弟が異世界で番に待ち焦がれた獣たちから愛を注がれ、一途な愛に戸惑いながらも幸せになる物語。
*触れ合いシーンは★マークをつけます。
公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜
上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。
体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。
せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
【本編完結】最強S級冒険者が俺にだけ過保護すぎる!
天宮叶
BL
前世の世界で亡くなった主人公は、突然知らない世界で知らない人物、クリスの身体へと転生してしまう。クリスが眠っていた屋敷の主であるダリウスに、思い切って事情を説明した主人公。しかし事情を聞いたダリウスは突然「結婚しようか」と主人公に求婚してくる。
なんとかその求婚を断り、ダリウスと共に屋敷の外へと出た主人公は、自分が転生した世界が魔法やモンスターの存在するファンタジー世界だと気がつき冒険者を目指すことにするが____
過保護すぎる大型犬系最強S級冒険者攻めに振り回されていると思いきや、自由奔放で強気な性格を発揮して無自覚に振り回し返す元気な受けのドタバタオメガバースラブコメディの予定
要所要所シリアスが入ります。
悪役神官の俺が騎士団長に囚われるまで
二三@冷酷公爵発売中
BL
国教会の主教であるイヴォンは、ここが前世のBLゲームの世界だと気づいた。ゲームの内容は、浄化の力を持つ主人公が騎士団と共に国を旅し、魔物討伐をしながら攻略対象者と愛を深めていくというもの。自分は悪役神官であり、主人公が誰とも結ばれないノーマルルートを辿る場合に限り、破滅の道を逃れられる。そのためイヴォンは旅に同行し、主人公の恋路の邪魔を画策をする。以前からイヴォンを嫌っている団長も攻略対象者であり、気が進まないものの団長とも関わっていくうちに…。
【本編完結】転生したら、チートな僕が世界の男たちに溺愛される件
表示されませんでした
BL
ごく普通のサラリーマンだった織田悠真は、不慮の事故で命を落とし、ファンタジー世界の男爵家の三男ユウマとして生まれ変わる。
病弱だった前世のユウマとは違い、転生した彼は「創造魔法」というチート能力を手にしていた。
この魔法は、ありとあらゆるものを生み出す究極の力。
しかし、その力を使うたび、ユウマの体からは、男たちを狂おしいほどに惹きつける特殊なフェロモンが放出されるようになる。
ユウマの前に現れるのは、冷酷な魔王、忠実な騎士団長、天才魔法使い、ミステリアスな獣人族の王子、そして実の兄と弟。
強大な力と魅惑のフェロモンに翻弄されるユウマは、彼らの熱い視線と独占欲に囲まれ、愛と欲望が渦巻くハーレムの中心に立つことになる。
これは、転生した少年が、最強のチート能力と最強の愛を手に入れるまでの物語。
甘く、激しく、そして少しだけ危険な、ユウマのハーレム生活が今、始まる――。
本編完結しました。
続いて閑話などを書いているので良かったら引き続きお読みください
虚ろな檻と翡翠の魔石
篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」
不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。
待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。
しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。
「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」
記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。
-----------------------------------------
0時,6時,12時,18時に2話ずつ更新
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる