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本編
叔母が自惚れた後
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隣国の第三王子マルスは、この国に来るのは随分と久しぶりだと感慨深い気持ちになった。
前に来た時は悪友仲間の当時の王太子がいた。第一王子だから、何のひねりもなく王太子になった男。素行の悪さは自分も負けず劣らずであるが、女で身を滅ぼすなど、愚か以外の何物でもない。
悪友が失脚した後、新たに王太子となった男は食えない男だった。清廉潔白を絵に描いたよう。だけど、王族が清廉な訳もない。大方、バレないように暗躍する肝の小さい男なのだろう。
一応は友好国である手前、嫁探しということで人を集めてもらう。大っぴらに、人探しという訳にもいかず、せめてもの言い訳として、再婚という形にした。
若いご令嬢だと、本当に結婚せざるを得なくなる。それは自由を愛する身としては困ることになる。
「折角逃げおおせたのだから、自由を満喫しないとな。」自分は結婚に向く人間ではない。それは兄達を見てそう思ったこと。
集められた中でその女は随分浮いていた。どこかで見たことがある、と思い出したのは、学生時分王太子が、珍しい珍獣がいると笑っていたその女がいた。
ギラギラした目を見れば、あの後どんな生活を過ごしてきたかわかる気がする。
マルスは、つい魔が差して彼女に大いなる勘違いを起こさせようとした。つまりはそんな気もないのに、わざわざ構いに行ったのだが、マルスのその行いは正しかった。そのおかげで探していた人物の目撃情報が入ったからだ。
マルスは自分の悪事は許されるものだと思っている。自分という存在がいなくなることは大きな損失であるし、その他の価値のない人間達は自分に傅くことで価値ができるのだから感謝してほしいぐらいだと。
第三王子がマリアの元へやって来てすぐにエスコートを申し出たことで、マリアは自惚れた。
王子に選ばれるのは二度目である。嫌味には対処ができても、自分に過分な自信のある彼女では、選ばれた意味を察することはできなかった。
マリアのニヤニヤした姿を見ていたご婦人方は何だか懐かしい気持ちになっていた。第三王子とマリアが退出した後には、何人かのグループで近くの店に入り懐かしい思い出を語り合うぐらいには。まるで同窓会かのような一時を過ごした彼女達は何の不満も持たずに元いた場所に帰って行った。
「それにしても、彼の方、本当に何もお変わりにならないなんて素晴らしいことですわね。」
「ええ、あの此方を蔑んだあのニタニタした笑顔も久しぶりに見ましたわ。歳を重ねたのにあれだけは若い頃と同じで、見ていてゾッとしましたもの。」
彼女達は若い頃、マリアと王太子殿下のロマンスを外側からただ眺めていただけだった。
伯爵令嬢だったマリアとは、大して交流はなかったものの、なるべくなら近づきたくないと一線を引いていた。
当時の王太子殿下は女好きだと有名で、下位貴族の令嬢達は大きく二分された。王太子殿下に阿る者と遠巻きにするもの。二人は後者を選び、彼らのロマンスを観客側で楽しむことを選んだ。
王太子ではなくなって、処分を待つだけの第一王子と、嫁の貰い手のなくなった伯爵令嬢。
先程の場で笑ってしまいそうになったのは此方とて同じ。マリアはそんなことも知らずに得意になっているのだと思うとご婦人方も笑いが込み上げて来て、つい話が長くなるのだった。
第三王子はマリアについてあまり多くのことは知らない。結婚生活は短く、相手に白い結婚を提案されたことに激昂し離婚したことや、学園時代に王太子殿下の恋人となってやりたい放題だったことぐらいしか。
連れてきてみても、教養もなく粗野な女が分不相応な夢を見たとしか思うことはない。
話を聞いてみても大した面白話はないだろうと思えば、とても興味深いことがわかった。
もしかするともしかするか。
第三王子は笑い出したい気持ちを抑える。探していた兄の妻子が見つかったかもしれない。
殺した兄の白骨遺体が見つかった時、第三王子は舌打ちした。第一王子が見つけたのかと思えば土砂災害があって、偶々見つかった謂わば不慮の事故だったからだ。馬車の事故だと判断されてはいても、見る人が見れば一発でわかる。
兄の妻は身重だった。もしあの後すぐに生まれていたらもうすぐ十二歳ぐらいか。願わくば兄によく似た風貌で生まれてきてくれていれば、父にすぐ合わせてやるぞ、と第三王子はほくそ笑んだ。
前に来た時は悪友仲間の当時の王太子がいた。第一王子だから、何のひねりもなく王太子になった男。素行の悪さは自分も負けず劣らずであるが、女で身を滅ぼすなど、愚か以外の何物でもない。
悪友が失脚した後、新たに王太子となった男は食えない男だった。清廉潔白を絵に描いたよう。だけど、王族が清廉な訳もない。大方、バレないように暗躍する肝の小さい男なのだろう。
一応は友好国である手前、嫁探しということで人を集めてもらう。大っぴらに、人探しという訳にもいかず、せめてもの言い訳として、再婚という形にした。
若いご令嬢だと、本当に結婚せざるを得なくなる。それは自由を愛する身としては困ることになる。
「折角逃げおおせたのだから、自由を満喫しないとな。」自分は結婚に向く人間ではない。それは兄達を見てそう思ったこと。
集められた中でその女は随分浮いていた。どこかで見たことがある、と思い出したのは、学生時分王太子が、珍しい珍獣がいると笑っていたその女がいた。
ギラギラした目を見れば、あの後どんな生活を過ごしてきたかわかる気がする。
マルスは、つい魔が差して彼女に大いなる勘違いを起こさせようとした。つまりはそんな気もないのに、わざわざ構いに行ったのだが、マルスのその行いは正しかった。そのおかげで探していた人物の目撃情報が入ったからだ。
マルスは自分の悪事は許されるものだと思っている。自分という存在がいなくなることは大きな損失であるし、その他の価値のない人間達は自分に傅くことで価値ができるのだから感謝してほしいぐらいだと。
第三王子がマリアの元へやって来てすぐにエスコートを申し出たことで、マリアは自惚れた。
王子に選ばれるのは二度目である。嫌味には対処ができても、自分に過分な自信のある彼女では、選ばれた意味を察することはできなかった。
マリアのニヤニヤした姿を見ていたご婦人方は何だか懐かしい気持ちになっていた。第三王子とマリアが退出した後には、何人かのグループで近くの店に入り懐かしい思い出を語り合うぐらいには。まるで同窓会かのような一時を過ごした彼女達は何の不満も持たずに元いた場所に帰って行った。
「それにしても、彼の方、本当に何もお変わりにならないなんて素晴らしいことですわね。」
「ええ、あの此方を蔑んだあのニタニタした笑顔も久しぶりに見ましたわ。歳を重ねたのにあれだけは若い頃と同じで、見ていてゾッとしましたもの。」
彼女達は若い頃、マリアと王太子殿下のロマンスを外側からただ眺めていただけだった。
伯爵令嬢だったマリアとは、大して交流はなかったものの、なるべくなら近づきたくないと一線を引いていた。
当時の王太子殿下は女好きだと有名で、下位貴族の令嬢達は大きく二分された。王太子殿下に阿る者と遠巻きにするもの。二人は後者を選び、彼らのロマンスを観客側で楽しむことを選んだ。
王太子ではなくなって、処分を待つだけの第一王子と、嫁の貰い手のなくなった伯爵令嬢。
先程の場で笑ってしまいそうになったのは此方とて同じ。マリアはそんなことも知らずに得意になっているのだと思うとご婦人方も笑いが込み上げて来て、つい話が長くなるのだった。
第三王子はマリアについてあまり多くのことは知らない。結婚生活は短く、相手に白い結婚を提案されたことに激昂し離婚したことや、学園時代に王太子殿下の恋人となってやりたい放題だったことぐらいしか。
連れてきてみても、教養もなく粗野な女が分不相応な夢を見たとしか思うことはない。
話を聞いてみても大した面白話はないだろうと思えば、とても興味深いことがわかった。
もしかするともしかするか。
第三王子は笑い出したい気持ちを抑える。探していた兄の妻子が見つかったかもしれない。
殺した兄の白骨遺体が見つかった時、第三王子は舌打ちした。第一王子が見つけたのかと思えば土砂災害があって、偶々見つかった謂わば不慮の事故だったからだ。馬車の事故だと判断されてはいても、見る人が見れば一発でわかる。
兄の妻は身重だった。もしあの後すぐに生まれていたらもうすぐ十二歳ぐらいか。願わくば兄によく似た風貌で生まれてきてくれていれば、父にすぐ合わせてやるぞ、と第三王子はほくそ笑んだ。
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