私が殺した筈の女

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婚約者

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目が覚めれば、そこはベッドの上。後味の悪い夢だと思った矢先に目に入ったのは、ローガンの心配そうな顔。

「良かった、気がついたんだね。急に倒れたと聞いたものだから。」

彼に会えたことは嬉しいけれど、この状況はあまり良くない。だって彼女の生存は、夢だった訳ではない、と言うことだから。

「あの、彼女、新しい侍女の彼女は、どちらに……?」

もしかすると、彼がカリーナであると認識できずにいる場合も考えて、敢えて彼女の名は伏せたのだが。

「侍女?ああ、プリシラが倒れた時に側に居た?彼女なら今お遣いを頼んでいるよ。すぐ戻ると思うけど?」

「いえ、ならいいの。」

「何か不手際があったとかそう言う……?」

ローガンの表情からは彼女がカリーナであることは気がついていないような、彼女からも何も聞かされていないような印象を受ける。


「違うのよ。急に倒れて申し訳なかったと謝りたくて。」

ローガンはプリシラの髪を撫でながら、そんなことは気にしなくて良いという。

さっきまで恐怖に支配され心臓が早鐘を打っていたのに、今はローガンに急接近されて心臓が口から出そうになっている。

「プリシラはいつも頑張りすぎているからね。時には休息も必要だよ。」

ローガンの高過ぎず低過ぎずの丁度良い声がすぐ近くで聞こえる状況は、プリシラから考える力を奪っていく。




ローガンとプリシラの婚約は、十年以上前のこと。なのに、今のようなゼロ距離でくっついて過ごすことは、ダンスの時ぐらいしか記憶にない。

プリシラは一人心臓の音がうるさい、とかこの状況にパニックになっているのに、ローガンは平気そうで、それが何だか悔しい。

「凄い、心臓の音。……俺も早いの、わかる?」

プリシラが耳を澄ませてみれば確かに、ローガンも鼓動が随分と早い。

「意外。貴方もドキドキするのね。私だけだと思ってた。」

「好きな子とこんなに近くにいて平静を保つなんて無理だよ。……残念だけど、今日はこれまで、かな。」

ローガンが名残惜しそうにくっつけていた体を剥がす。丁度すぐ後にマクウェル家の迎えが来たと、知らされた。





ローガンはプリシラを見送りながら、情報を整理する。

プリシラの周りで、彼女と同じく侍女の存在に反応を見せたのが、二人。彼女に付いている護衛と影だ。

ローガンは非常に独占欲が強い。プリシラの周りで、自分よりも興味の引くものはあってはならない。

侍女のことも含め、ローガンは考える。プリシラを誰よりも幸せにするには、何が必要なのかを。


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