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王女と公爵令嬢と

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クロエが倒れたと一報を聞いたところで、お見舞いに行くべきか迷う。そういえば、前はクロエはしょっちゅう倒れていた。あれは、勝手に注目を集めたかったからだと判断していたけれど、違うのだろうか。昔の話すぎてわからない。

そもそもダミアンとは政略で婚約者になったわけだし、クロエとダミアンと特別仲が良いわけでも思い入れがあるわけでも、興味があるわけでもない。

薄情かもしれないが、クロエに対する認識や感情は昔からそう変わらない。親同士の関係を差し引いても、あまり関わりたくない相手だ。



実母である王妃が社交界で居場所を失ったことを受けて、私自身が唯一の王女であっても全く後ろ盾はないに等しく、力を持っていないのは明白だ。

そう言う意味では、側妃の侯爵家は、私の監視でもするつもりで、ダミアンとの縁を繋いできた。ダミアンもクロエと同じく、いまいち意思の疎通がし難い相手であり、得意ではない。腹の探り合いが大変過ぎて、好きや嫌いの感情が浮かんでこない。

兄が大好きなクロエに嫉妬されるぐらいには、私のことを想ってくれてはいるようだが。私自身には、ダミアンに恋愛感情はない。

私自身、王位につきたいとは全く思えないにしろ、他の継承権持ちを見渡すと、危険人物ばかりという状態に笑ってしまう。

民のことを考えるなら、私が一番マシだろう。

そう漠然と考えていた時、私はソフィアに会った。ソフィアは昔から、第一王子の婚約者として、美しかった。隣国に嫁に行った、彼女の叔母に良く似ていて、そばにいると安心できる独特の力を持っていた。

ソフィアは、私といても、楽しいと言ってくれ、策略が張り巡らされた王宮内で逞しく生きていた。ソフィアと第一王子は政略結婚する筈で、ソフィアのおかげで、第一王子は、その身を盤石にでき、私を抑え継承権第一位へ躍り出たのに、第一王子がやらかした。

貴族の子女が通う学院で、可愛らしい平民の女に骨抜きにされてしまう。ソフィアの愛らしさに比べたら、違いすぎて比較にもならないのだが、何故だか王子はその女が良いらしい。私の大嫌いな言葉を振りかざし、ソフィアに言い放つ。

「私達は真実の愛を見つけた。」と。


後になって私は気づいた。あれは第一王子がついた嘘である、と。本来ならソフィアを誰の眼にも触れさせたくない程の執着をみせていた王子だ。平民の女は利用されたにすぎない。

ソフィアは美しく笑う。その笑みに惑わされたのは私だけではないらしい。半ば崇拝に近い様子の第一王子に、心底惚れられているのは、流石に気が付いている筈だ。

知っていて彼女は追放を受け入れた。ソフィアも同じように元婚約者のことを愛しているのだろうか。そうは見えない。それでいて、楽しそうに笑ってみせる彼女に、私はいつからか底知れぬ不安を抱えるようになった。


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