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番外編 クロエとウィルヘルム
似ている?二人
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「そんなので、よく真実の愛の相手と仲良くなれたよね。」
そう言うと、ウィルヘルムは顔を逸らして気まずそうにしている。
「あー、あれはまあ、何だ。会話しなくてよかったからな。あれは頭も良く無いし、会話してもつまらないからしなかった。」
じゃあ何をしていたの?と聞こうとして、やめた。ああ、そう言う……
「あんな綺麗な婚約者が居ながら、別の女に目移りするなんて、信じられない。」
王宮で見たジャンヌとルーカスの仲の良い様子を思い出す。二人はこうなって良かったみたいだけど。幸せそうだったし、あの様子では、愛が尽きることなんてなさそうだ。
「そうだな。周りが見えてなかったんだろうな。」
ウィルヘルムが、どんなことを思って、婚約者を蔑ろにしていたかはわからない。ハニートラップに、うっかり引っかかった理由も。以前の彼を知らないのだから、仕方ないが不思議な気がした。
「ジャンヌ様には、食指が動かなかったの?」
聞いてから何てことを聞いたんだと冷や汗が出た。ただ不思議だった。ルーカス王子が、どれだけジャンヌ様を愛していて好きで好きでたまらないって様子なのに、ウィルヘルムはそうではなかったなんて。好みの問題と言われてしまえば、そうなんだけど。それにしても、女の私から見ても魅力的なジャンヌ様を大切にできない男なんているの?
「ジャンヌは、真面目だからな。触れることすら出来なかった。……一緒にいると、俺が何も出来ないと、思い知らされる。現実を見る勇気がなくてな。だから、ルーカスがジャンヌのことを好きだと知って、意地になった。彼女を繋ぎ止めたくて。今思えば随分幼稚で独りよがりな方法だし、的外れだな。俺のことを彼女は好いてさえいなかったのに。」
「後悔してる?」
「いや、反省はするけど、後悔はしない。しても、意味がない。彼女が幸せならそれで良い。ルーカスなら、俺みたいな心配は要らないだろ。」
「そう。あの、相手の人に未練はないの?捨てられたのでしょう?」
「今では顔も思い出せないし、何が好きだったのかも、わからないんだよな。結局、何が真実の愛だったのか……俺は、馬鹿だ。」
悔しそうに顔を時折歪めて、一言一言ポツリポツリと話す顔は痛々しい。
ウィルヘルムの頭を撫でる。いい子いい子。自分を振り返って反省できるなら、きっと二度と同じ失敗はしないだろう。
驚いた顔のウィルヘルムがふと笑う。
「やっぱり。似てると思ったけど、意味がわかった。」
「何の話?」
頭を撫でていた手を取り、ウィルヘルムが手の甲に口をつける。
「大丈夫。今度は間違えないから。」
ウィルヘルムが不敵に笑う。その顔に不覚にも見惚れてしまった。
「真実の愛かどうかはわからないけれど、お前が好きだよ。」
「うん。」何となくそんな感じはしていた。けれど……
あれ?いつからこんな雰囲気に?
「えーっと?」
頭が追いつかない。何かタイミングがあったっけ?
私はウィルヘルムに追い詰められ、ソファの端まで来てしまった。細いけれど引き締まった大きな体に覆われている。逃げるべき?追いかけられたら?
私は逃げる代わりに彼の体を抱きしめた。
ハグだ。
「クロエ、好きだ。」
クロエは、何千回と聞いた「好きだ。」と言う言葉にこれほどの力があると思っていなかった。
「私も好き。」
泣きそうになりながら、口にすると、どうして真実の愛だと口にしてしまうかの謎が解けた気がした。
好きな人に好きだと言われるのは、思っていた以上に万能感を見出す。
「好き。」
何度も口に出すと、ふわふわした気持ちが落ち着くかと思ったが、全くの逆効果だった。抱きしめる力が強くなる。ふわふわ、ふわふわ。飛び立ってしまいそうになる。
泣きそうな顔をしたウィルヘルムは、可愛い。クロエから離れて座ると、そのあとは会話を楽しんだ。沈黙はもう怖くなかった。
そう言うと、ウィルヘルムは顔を逸らして気まずそうにしている。
「あー、あれはまあ、何だ。会話しなくてよかったからな。あれは頭も良く無いし、会話してもつまらないからしなかった。」
じゃあ何をしていたの?と聞こうとして、やめた。ああ、そう言う……
「あんな綺麗な婚約者が居ながら、別の女に目移りするなんて、信じられない。」
王宮で見たジャンヌとルーカスの仲の良い様子を思い出す。二人はこうなって良かったみたいだけど。幸せそうだったし、あの様子では、愛が尽きることなんてなさそうだ。
「そうだな。周りが見えてなかったんだろうな。」
ウィルヘルムが、どんなことを思って、婚約者を蔑ろにしていたかはわからない。ハニートラップに、うっかり引っかかった理由も。以前の彼を知らないのだから、仕方ないが不思議な気がした。
「ジャンヌ様には、食指が動かなかったの?」
聞いてから何てことを聞いたんだと冷や汗が出た。ただ不思議だった。ルーカス王子が、どれだけジャンヌ様を愛していて好きで好きでたまらないって様子なのに、ウィルヘルムはそうではなかったなんて。好みの問題と言われてしまえば、そうなんだけど。それにしても、女の私から見ても魅力的なジャンヌ様を大切にできない男なんているの?
「ジャンヌは、真面目だからな。触れることすら出来なかった。……一緒にいると、俺が何も出来ないと、思い知らされる。現実を見る勇気がなくてな。だから、ルーカスがジャンヌのことを好きだと知って、意地になった。彼女を繋ぎ止めたくて。今思えば随分幼稚で独りよがりな方法だし、的外れだな。俺のことを彼女は好いてさえいなかったのに。」
「後悔してる?」
「いや、反省はするけど、後悔はしない。しても、意味がない。彼女が幸せならそれで良い。ルーカスなら、俺みたいな心配は要らないだろ。」
「そう。あの、相手の人に未練はないの?捨てられたのでしょう?」
「今では顔も思い出せないし、何が好きだったのかも、わからないんだよな。結局、何が真実の愛だったのか……俺は、馬鹿だ。」
悔しそうに顔を時折歪めて、一言一言ポツリポツリと話す顔は痛々しい。
ウィルヘルムの頭を撫でる。いい子いい子。自分を振り返って反省できるなら、きっと二度と同じ失敗はしないだろう。
驚いた顔のウィルヘルムがふと笑う。
「やっぱり。似てると思ったけど、意味がわかった。」
「何の話?」
頭を撫でていた手を取り、ウィルヘルムが手の甲に口をつける。
「大丈夫。今度は間違えないから。」
ウィルヘルムが不敵に笑う。その顔に不覚にも見惚れてしまった。
「真実の愛かどうかはわからないけれど、お前が好きだよ。」
「うん。」何となくそんな感じはしていた。けれど……
あれ?いつからこんな雰囲気に?
「えーっと?」
頭が追いつかない。何かタイミングがあったっけ?
私はウィルヘルムに追い詰められ、ソファの端まで来てしまった。細いけれど引き締まった大きな体に覆われている。逃げるべき?追いかけられたら?
私は逃げる代わりに彼の体を抱きしめた。
ハグだ。
「クロエ、好きだ。」
クロエは、何千回と聞いた「好きだ。」と言う言葉にこれほどの力があると思っていなかった。
「私も好き。」
泣きそうになりながら、口にすると、どうして真実の愛だと口にしてしまうかの謎が解けた気がした。
好きな人に好きだと言われるのは、思っていた以上に万能感を見出す。
「好き。」
何度も口に出すと、ふわふわした気持ちが落ち着くかと思ったが、全くの逆効果だった。抱きしめる力が強くなる。ふわふわ、ふわふわ。飛び立ってしまいそうになる。
泣きそうな顔をしたウィルヘルムは、可愛い。クロエから離れて座ると、そのあとは会話を楽しんだ。沈黙はもう怖くなかった。
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