君の顔が思い出せない

mios

文字の大きさ
5 / 21

本館の主

しおりを挟む
謎の女性に言われた言葉を思い返してみると、まずは部屋にいる侍女に目を光らせる。そして、本館の様子を覗き見る。今の自分が自由に行動するには、部屋の侍女に見つからないようにしなければならないので、彼女にはまたすぐに会いに行けるだろう、そう思っていたのに、侍女が最近中々出ていかない。

私がストレスを感じているのを、肌で感じたのか、こちらを見る目つきが鋭いような気がする。

そして、以前美女と会ってから二週間ほど無為に過ごしてから漸く、侍女が本館に行くタイミングに立ち会うことができた。

とは言っても、決して気づかれてはいけない。こそこそと、一定の距離を保ちながらついて行く。

侍女が本館に入っていくと、どこからか男が現れた。侍女と親密な様子だ。男の服装から、使用人ではないとわかる。我が物顔で屋敷を歩く男の顔をよく見ようと顔を出した瞬間、驚いた顔の妻と目が合う。

たまたま妻のいた部屋から、離れの通用口は丸見えだった。

やってしまった。背中に汗が滝のように流れる。冷や汗が凄いのだが。一番見つかったらいけない人に見つかってしまった。

妻はすぐさまこちらにきたが、口を押さえられて、キョロキョロと辺りを見渡した。

「何をしてるんですか?こんなところ、誰かに見られたら…」

「誰かに、とは?誰のこと?」

「明日朝お時間とっていただいていいですか?できたら侍女のいない時間がいいのですが。」

うん?また侍女か……。

「朝食後はいなくなる時間がある。」

「では、その時に。」

妻は、あの臭い香水をつけていなかった。記憶を失ってからと言うもの、妻にはいい印象が全く持てなかったのだが、今日に限っては違う。

私を上目遣いに見ることも、媚びを売ることもなく、普通に話せる。

妻に言われて離れに帰った時、一瞬だけ見えた侍女と仲良さそうにしていた男をどこかで見た気がする。

私が会った男達は、執事以外は全て妻の友人だ。私の妻だけでは飽き足らず、侍女にも手をだすなんて、最低だ。確かアレックスと言っていた。

あいつは人の家で何をやっているのか。

そもそも私が離れから出られないのは、アレックスが我が物顔で本館にいるからなのか?
執事に確認しなくてはならない。

けれど執事を盲目的に信じるのも恐ろしい。
どうしたらいいんだ。

頭を抱えて悩んでいても答えは出てこない。

あの執事ではない、信頼できる若い執事が欲しい。その願いは、早速叶えられるが、今度は別の問題が生じてしまうことを理解していなかった。

私は意図せずに肉食獣の檻の中に片足を突っ込んでいた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

忘れるにも程がある

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたしが目覚めると何も覚えていなかった。 本格的な記憶喪失で、言葉が喋れる以外はすべてわからない。 ちょっとだけ菓子パンやスマホのことがよぎるくらい。 そんなわたしの以前の姿は、完璧な公爵令嬢で第二王子の婚約者だという。 えっ? 噓でしょ? とても信じられない……。 でもどうやら第二王子はとっても嫌なやつなのです。 小説家になろう様、カクヨム様にも重複投稿しています。 筆者は体調不良のため、返事をするのが難しくコメント欄などを閉じさせていただいております。 どうぞよろしくお願いいたします。

『まて』をやめました【完結】

かみい
恋愛
私、クラウディアという名前らしい。 朧気にある記憶は、ニホンジンという意識だけ。でも名前もな~んにも憶えていない。でもここはニホンじゃないよね。記憶がない私に周りは優しく、なくなった記憶なら新しく作ればいい。なんてポジティブな家族。そ~ねそ~よねと過ごしているうちに見たクラウディアが以前に付けていた日記。 時代錯誤な傲慢な婚約者に我慢ばかりを強いられていた生活。え~っ、そんな最低男のどこがよかったの?顔?顔なの? 超絶美形婚約者からの『まて』はもう嫌! 恋心も忘れてしまった私は、新しい人生を歩みます。 貴方以上の美人と出会って、私の今、充実、幸せです。 だから、もう縋って来ないでね。 本編、番外編含め完結しました。ありがとうございます ※小説になろうさんにも、別名で載せています

捨てられた者同士でくっ付いたら最高のパートナーになりました。捨てた奴らは今更よりを戻そうなんて言ってきますが絶対にごめんです。

亜綺羅もも
恋愛
アニエル・コールドマン様にはニコライド・ドルトムルという婚約者がいた。 だがある日のこと、ニコライドはレイチェル・ヴァーマイズという女性を連れて、アニエルに婚約破棄を言いわたす。 婚約破棄をされたアニエル。 だが婚約破棄をされたのはアニエルだけではなかった。 ニコライドが連れて来たレイチェルもまた、婚約破棄をしていたのだ。 その相手とはレオニードヴァイオルード。 好青年で素敵な男性だ。 婚約破棄された同士のアニエルとレオニードは仲を深めていき、そしてお互いが最高のパートナーだということに気づいていく。 一方、ニコライドとレイチェルはお互いに気が強く、衝突ばかりする毎日。 元の婚約者の方が自分たちに合っていると思い、よりを戻そうと考えるが……

白い結婚は無理でした(涙)

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。 明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。 白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。 現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。 どうぞよろしくお願いいたします。

悪役令嬢、記憶をなくして辺境でカフェを開きます〜お忍びで通ってくる元婚約者の王子様、私はあなたのことなど知りません〜

咲月ねむと
恋愛
王子の婚約者だった公爵令嬢セレスティーナは、断罪イベントの最中、興奮のあまり階段から転げ落ち、頭を打ってしまう。目覚めた彼女は、なんと「悪役令嬢として生きてきた数年間」の記憶をすっぽりと失い、動物を愛する心優しくおっとりした本来の性格に戻っていた。 もはや王宮に居場所はないと、自ら婚約破棄を申し出て辺境の領地へ。そこで動物たちに異常に好かれる体質を活かし、もふもふの聖獣たちが集まるカフェを開店し、穏やかな日々を送り始める。 一方、セレスティーナの豹変ぶりが気になって仕方ない元婚約者の王子・アルフレッドは、身分を隠してお忍びでカフェを訪れる。別人になったかのような彼女に戸惑いながらも、次第に本当の彼女に惹かれていくが、セレスティーナは彼のことを全く覚えておらず…? ※これはかなり人を選ぶ作品です。 感想欄にもある通り、私自身も再度読み返してみて、皆様のおっしゃる通りもう少しプロットをしっかりしてればと。 それでも大丈夫って方は、ぜひ。

基本一話完結集

らがまふぃん
恋愛
基本2~3000文字程度の一話完結の色々なお話を置いていきます。基本恋愛です。何も考えずに読んでいただく作品集となりますので、気まぐれにお話が増えていきます。どんな内容かは、タイトルで判断出来るかもしれないようにします(?)サブタイトルがタグだと思ってください。連載中表記ですが、基本一話完結ですので、お気軽にお立ち寄りください。

記憶喪失のフリをしたら婚約者の素顔が見えちゃった

ミカン♬
恋愛
 ビビアンには双子の弟の方、エリオットという最愛の婚約者がいる。  勉強なんて大っ嫌いなビビアンだったけど、エリオットが王立学園に入ってしまった。 1年頑張ってエリオットを追いかけてビビアンも入学できたんだけど──  **歩いていた、双子兄のブラッドさまをエリオットだと間違えて、後ろから「わっ」なんて声をかけてしまった。  肩をつかんだその瞬間、彼はふりかえりざまに、肘をわたしの顔にぶつけた。**  倒れたビビアンを心配する婚約者エリオットに記憶喪失のフリをした。  すると「僕は君の婚約者ブラッドの弟だよ」なんて言い出した。どういうこと?  **嘘ついてるのバレて、エリオットを怒らせちゃった?   これは記憶喪失って事にしないとマズイかも……**  ちょっと抜けてるビビアンの、可愛いくてあまーい恋の話。サクッとハッピーエンドです。  他サイトにも投稿。

入れ替わり令嬢奮闘記録

蒼黒せい
恋愛
公爵令嬢エリーゼは混乱の極地にあった。ある日、目覚めたらまったく別の令嬢シャルロットになっていたのだ。元に戻る術は無く、自身がエリーゼであることを信じてもらえる見込みも無く、すっぱり諦めたエリーゼはシャルロットとして生きていく。さしあたっては、この贅肉だらけの身体を元の身体に戻すために運動を始めるのであった… ※同名アカウントでなろう・カクヨムにも投稿しています *予約時間を間違えてしまい7話の公開がおくれてしまいました、すみません*

処理中です...