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立ち入り禁止
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立ち入り禁止の扉は、部屋というよりは外に繋がる扉のようで、開けた瞬間外の空気が入ってきた。
扉の先は温室に続いているようだが、こちらはきちんと管理されていないのか、四方八方に植物の蔓が伸びている。
本館に行ったことがないので、わからないが、庭師はいないのだろうか。温室は意外と広く、様々な種類の植物が育っている。
人が寄り付かないと言うのに、伸び伸びと育っているのを不思議に思い、辺りを見回していると、この扉からは、一番離れたところに、何かの影がちらつくのが見えた。
「何だあれは……?」
不意に立ち入り禁止に入り込んでいる罪悪感が襲い掛かってきて、その影に見つからないように姿勢を低くしてみる。
近づくと正体がわかった。人ではなく、植物だ。ほっと胸を撫で下ろす。執事と、侍女しか知らないことが、本館の妻や男達にバレたらどうなるか、見当もつかないが、何やら大変面倒なことになるだろう、と予想できた。
「あら、貴方……」
聞いたことのない女性の声に振り向くと、そこには派手な顔をした美女がハサミを手にこちらを見ていた。
「あ、あの、ここに入ったことは内密に……」
切羽詰まったせいで、挨拶も忘れて口封じを画策してしまう。
キョトンとしつつ、クスッと笑い、頷く。
彼女は使用人のような格好をしていたが、雰囲気と言うか何というか貴族と言われても、納得しそうな所作をしていた。エリーはああ見えて侯爵令嬢だったらしいが、教育を受けていたとは言い難く、市井の女みたいだった。
「貴女は、本館の使用人なの?」
彼女は、ニッコリ笑って、否定した。
「私はずっとこちらに閉じ込められているのです。」
「え、誰に?もしかして、……エリー?」
「貴方は、どこまでお忘れになってしまわれたのでしょう。」
私の顔を真正面からマジマジと見ながら、首を傾げ、続ける。
「貴方は、何もかも、忘れすぎですわ。貴方に良いことを教えて差し上げますわ。貴方についている侍女に目を光らせておいでなさい。ああ、あと、一度本館を覗いて見ることをお勧めしますわ。早く記憶を戻したいなら、絶対ですわよ。」
彼女は尚も続ける。
「次までに、その二つをしていただけたら、次のヒントをお教えいたします。頑張ってくださいね?」
「その時は貴女の名を聞いてもいいだろうか。」
「ええ、勿論ですわ。エドワード様。」
短い会話で半ば強制的に追い立てられて、元の扉に帰されたが、それがタイムリミットだった。妻が来たのかと思ったら、そこにいたのは見知らぬ人物だった。
「久しぶりだな。来るのが遅くなって申し訳なかった。」
ええと?
どなたでしたでしょうか?
話し方からして、身分が上の人なのだろう。とても偉そうだ。
「申し訳ありません。記憶がなくて、貴方がどなたかわからないのですが。」
「ああ、聞いているとも。」
用意させたお茶を飲んで、暫し沈黙した後、決意したように彼は話し始める。
「私はこの国の王子で、クラウスと言う。君とは、友人だ。勿論エリーもだが。」
チラチラとこちらを探るように見る王子に嫌な予感がよぎる。
「エリーとは別れる気はないのか?今は家庭内別居状態なのだろう?彼女をそろそろ自由にしてあげても、良いのではないか?」
クラウスよ、お前もか。
扉の先は温室に続いているようだが、こちらはきちんと管理されていないのか、四方八方に植物の蔓が伸びている。
本館に行ったことがないので、わからないが、庭師はいないのだろうか。温室は意外と広く、様々な種類の植物が育っている。
人が寄り付かないと言うのに、伸び伸びと育っているのを不思議に思い、辺りを見回していると、この扉からは、一番離れたところに、何かの影がちらつくのが見えた。
「何だあれは……?」
不意に立ち入り禁止に入り込んでいる罪悪感が襲い掛かってきて、その影に見つからないように姿勢を低くしてみる。
近づくと正体がわかった。人ではなく、植物だ。ほっと胸を撫で下ろす。執事と、侍女しか知らないことが、本館の妻や男達にバレたらどうなるか、見当もつかないが、何やら大変面倒なことになるだろう、と予想できた。
「あら、貴方……」
聞いたことのない女性の声に振り向くと、そこには派手な顔をした美女がハサミを手にこちらを見ていた。
「あ、あの、ここに入ったことは内密に……」
切羽詰まったせいで、挨拶も忘れて口封じを画策してしまう。
キョトンとしつつ、クスッと笑い、頷く。
彼女は使用人のような格好をしていたが、雰囲気と言うか何というか貴族と言われても、納得しそうな所作をしていた。エリーはああ見えて侯爵令嬢だったらしいが、教育を受けていたとは言い難く、市井の女みたいだった。
「貴女は、本館の使用人なの?」
彼女は、ニッコリ笑って、否定した。
「私はずっとこちらに閉じ込められているのです。」
「え、誰に?もしかして、……エリー?」
「貴方は、どこまでお忘れになってしまわれたのでしょう。」
私の顔を真正面からマジマジと見ながら、首を傾げ、続ける。
「貴方は、何もかも、忘れすぎですわ。貴方に良いことを教えて差し上げますわ。貴方についている侍女に目を光らせておいでなさい。ああ、あと、一度本館を覗いて見ることをお勧めしますわ。早く記憶を戻したいなら、絶対ですわよ。」
彼女は尚も続ける。
「次までに、その二つをしていただけたら、次のヒントをお教えいたします。頑張ってくださいね?」
「その時は貴女の名を聞いてもいいだろうか。」
「ええ、勿論ですわ。エドワード様。」
短い会話で半ば強制的に追い立てられて、元の扉に帰されたが、それがタイムリミットだった。妻が来たのかと思ったら、そこにいたのは見知らぬ人物だった。
「久しぶりだな。来るのが遅くなって申し訳なかった。」
ええと?
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「申し訳ありません。記憶がなくて、貴方がどなたかわからないのですが。」
「ああ、聞いているとも。」
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「私はこの国の王子で、クラウスと言う。君とは、友人だ。勿論エリーもだが。」
チラチラとこちらを探るように見る王子に嫌な予感がよぎる。
「エリーとは別れる気はないのか?今は家庭内別居状態なのだろう?彼女をそろそろ自由にしてあげても、良いのではないか?」
クラウスよ、お前もか。
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