君の顔が思い出せない

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使用人の態度

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記憶が戻らないとは言っても、ずっとベッドの住人である必要はない。

「私の仕事なんてものはあるのか。」
本館にいる執事が今は代わりに仕事をしているらしく、問いかけると、執事がこちらまで来ると言う。

どうやら、こちらは離れの建物で、本館にいつも妻はいるらしい。

やって来た執事の態度にまた違和感が甦る。一体どうしたと言うのか。わからない。

執事が持って来た仕事は大量だが、どれもそれほど難しいものではない。

「今度から私ができるものはしたいのだが。」

執事は、少し顔を顰めたものの、無理をしないと約束をした後、承知してくれた。

「立ち入り禁止の場所に入られましたか?」

執事の問いかけに素直に答える。
「いや、開けようとして気づいたが、鍵がかかっているようだった。」

「そうですか。あちらには危険な物があるようですので、立ち入らないよう、お願い致します。」

執事はそう言いながら、懐から一つの鍵を取り出して、私に手渡した。驚いて、目で問いかけると、一礼をして退出してしまう。

残された書類の一番下に、紙の切れ端が挟まっていた。

「お使いください」と書いてある。

先ほど感じた違和感の正体がわかった気がする。

この部屋には、恐らく監視か、盗聴か、もしくは両方が仕掛けられている。

執事は少なくとも、仕掛けた側ではないらしい。立ち入り禁止の場所には、仕掛けた側にとって、都合の悪い物でもあるのだろう。

何となくだが、それは妻やあの男達の仕業のように思える。

人の事を悪く言うのは、ましてや記憶のない状況で、下手なことは言えないが、当たっているように思う。

記憶が戻っても不味い。立ち入り禁止に入っても不味い。なのに、私を本館に入れさせないには何があるのだろう。更に不味いことがあるに違いない。

それを知りたい気もするが、まずは執事に感謝して、立ち入り禁止の扉を開けさせてもらうことにしよう。

執事が来る際に、あちら側の情報を仕入れて気がつかないうちに、入らなければ、証拠隠滅されてしまう。自分が何を見つけたら良いのかは全くわからないけれど、とりあえず今の自分の立ち位置は恐ろしく悪いのが、わかった。

一体彼らは私をどうしたいのだろう。その答えがわかる頃には、あの妻と結婚することになった経緯が分かるだろうか。

何度考えてみても、昔の私が彼女を好きになったことはないと思うのだが。では、政略結婚かと言われると、それも違う気がする。



急に話さなくなるのも、あからさまなので、監視なり盗聴なりをされていたとしても、関係ない話はしなければ。

侍女に用事を言付けたり、世間話をしたりして、誤魔化しておく。

そう言えば、今のエリーを調べるように私が侍女に指示したのは、聞かれているから、そのことから妻を少なからず怪しんでいるのは気づかれている筈だ。

今頃何らかの対策を取られているかもしれない。

妻とあの男達は、純粋な好意なのか、それとも利害の一致した関係なのか、そこら辺も詳しく調べてみる必要がある。

あと、あの香水の成分も調べたいが、誰かやってくれないかな。

執事に聞いてみよう。

私の中で勝手に執事は仲間のような感覚になっていたが、よく考えるとすぐに信じてしまうのは危ない考え方だ。

危機感を持とう、と今更ながら思った。
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