君の顔が思い出せない

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妻の交友関係は、とんでもなく狭いことがわかった。自分が目覚めた時に一緒にいた男が3人と、あと1人しかいないらしい。

話しやすくて明るくて男性のように生まれ育ったのなら女性より男性の友人が多いことも理解できるが、妻は多分、その真逆をいくタイプだ。覚えていないとは言え、自分の妻が男を侍らせるタイプだと思いたくはない。


自分との結婚はどうして行われたのか甚だ疑問だ。彼らの中から選ばれた感覚はない。寧ろ記憶を失った夫など、気にも留めないだろう。

二度目に会ったのは、妻がこちらの様子を見に来た時で、強すぎる香水からすぐに分かった。彼女が座るのと同時に窓を開けて換気をする。彼女は、無性に何を覚えているのか、知りたがったが、妻として当然なその態度には何故か違和感を抱いた。心配そうにした態度に媚びと探るような意思を感じた。

彼女が気にしているのは、何だろう?

「今日は、彼らはいないのかい?」

友人達は、きっと彼女が断ったとしても、一緒に来るタイプの人間だ。益々わからない。夫である私が、妻の友人に妻との仲を匂わせられる、というのは、おかしくないか?

それに対して声を上げようものなら、記憶喪失のために、錯乱していると、言われそうだしこちらのせいになりかねない。

「今日は忙しいのですって。彼らも毎日くるわけではないわ。」

私が問いかけた理由を自分なりに曲がって解釈したようで、上目遣いで甘えて来たが、妻だというのに、嫌悪感がこみ上げてくる。


記憶をなくす前の私は本当に彼女を愛していたのだろうか。

妻との対面は妻の友人が来たことによって切り上げられ、強い香水の甘ったるい残り香と不快感とともに、私は放置された。

「臭いな。妻にはしばらくの間、お越しにならないように願いたい。」

独り言を呟いた私に部屋の隅から、唐突な咳払いが聞こえた。

今誰か笑ったような。

振り向けば、侍女が、笑いを堪えていて、目が合うと気まずそうな顔をした。

「申し訳ございません。」

プルプルと震えながらの謝罪は意味がないと思う。

「これは、内密に。」

そう言うと、侍女は真面目な顔をして頷いた。

話のわかる人で助かった。


それからも、妻は短い時間、友人が来るまでの間、急にやって来ては、私の記憶がどこまで戻ったかを確認して来た。

初めこそ早く思い出してもらいたいのかな、と期待していたが、どうにもそんな雰囲気ではない。寧ろどちらかと言えば、思い出して欲しくないことがあるかのような、何かを、怯えているようなそんな印象さえ抱く。

ふと、今までの不可解な彼女の行動を思い出し、ある疑惑にたどり着く。

もしかして、以前の自分は、彼女に暴力を奮っていたのではないか。

そう思ったきっかけは、友人の男達だ。どう考えても、頻繁に来すぎだ。彼らが妻に寄せる想いが、恋愛感情であったとして曲がりなりにも夫のいる女性にそんなに毎日会いに来る必要はないだろう。

ただ、それは夫婦関係が上手くいっている場合に限る。もし以前の自分が妻に対して暴力を振るっていたのなら、心配で毎日のように来たり、夫に対して牽制してきたりする行動も当然のことだと理解できる。

逆に言えば、それだけのことがない限り、やはり今の状況は異常だ。

目覚めてからずっと面倒を見てくれている侍女に尋ねると、驚いた後、全力で否定され、安心した。

「エドワード様は、エリー様をそれはそれは大事に想っておいででした。エリー様だってそれは同じことです。」

侍女は元々エリーの専属だったらしく、発言の信憑性は高い。これで、自分のクズ夫疑惑は一旦解除された。

彼らの異常行動を、理解するための思考の整理が追いつかない。

やはりわからない。そもそもわかる、わからないの話なんだろうか。

以前の私がエリーを大切に思っていたのは何故なのか、さっぱりわからないと言うのに。



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