君の顔が思い出せない

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酔っ払い

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馬車の中から見える景色は、のどかで今までいた場所からだいぶ田舎の方へやってきたのがわかる。牛や馬が、道を遮るように歩いていて、あまりの大きさに驚いたりしながら、人の行き来のない家畜の方が人より多い辺鄙な道をずっと進む。

目的地に到着して、降りてみると、絵に描いたような田舎の一軒家がある。

シャルとアーロン以外の人物をよく観察すると、皆嬉しそうな顔を浮かべてソワソワしている。

「待って待って。兄様は疲れてるんだから。お前達の紹介は後でちゃんと時間取るから。とりあえず荷物を運んで。」

シャルの言葉に不満を口にする男はちらほらいたが、こちらを見ては笑顔で口々に「おかえりなさいませ。」と口にする。アレックスに閉じ込められていた時には感じなかった暖かい気持ちが体を駆け巡る。

以前の自分はこの男達を信頼し、良い関係を築いていたことが容易に想像できる。

「ただいま。」

玄関で、少し大きめに声をかけると、アーロンが顔を顰めた。

シャルは、「おかえりなさい、兄様。」とニコニコして飛びついてくる。可愛らしい顔をしながらも、やはり男だからか、重い。

「兄様の部屋を案内しますね。」
シャルは、一軒家の中で一番広い部屋に案内して、ここを使うように言うと、準備ができたら呼ぶのでそれまでゆっくりするように言うと、こちらが口を開くより先に、部屋を出て行ってしまう。

エリーに会う算段を聞きたかったのだが、仕方ない。アレックスの屋敷に置いてきたこちらの味方だった二人に何も言わずにきてしまったことを悔やむも、突然の襲撃だったのだから、どうしようもなかったと理解する。

シャルは彼らのことを知っているだろうか。

今後アレックスが探しにくることも考えて、気分が落ち込むも、シャルや、アーロンはじめ階下の屈強な男達が、アレックス達より弱いはずもない、と思い直し、安堵する。

自分では疲れていないつもりだったが、うっかり眠ってしまったらしい。

目覚めた時には、既に窓の外が夕焼けに包まれていて、自分が寝過ごしたことを知る。階下に降りてみると、酒盛りは始まっていた。

既に出来上がっていた者もいることから、あれからあまり時間を置くことなく、酒は振る舞われていたようだ。

男達は、私の姿をみつけると、大型犬のように尻尾を振って、近づいてくる。あまりの体格差に威圧を感じて後ずさるが、彼らは嬉しそうで、こちらも自然と笑顔になった。

シャルは、いくつか食べ物を皿に盛り、持ってきてくれる。食べながら、この味だな、最高だと思った。

頬が勝手にどんどん緩んでいく。目覚めてから初めて感じる圧倒的ホーム感に、記憶はないままなのにもかかわらず幸せを感じる。

同時に、彼らのことを早く思い出したくなった。焦りは禁物だとわかってはいるが、早く思い出して、彼らと本当に笑い合いたい。

ふと、アーロンが離れて一人で酒を飲んでいるのが目に入る。

「アーロン」

声をかけてみると、アーロンの瞳から次々と涙が溢れ落ちる。

「エドワードさま。」

アーロンに抱きすくめられる。潰れそうだが、ガッチリ抱きつかれているので、抵抗しようにもできない。

苦しんでいると、いつのまにかシャルが、アーロンの拘束を解いてくれた。

シャルは体が大きいわけではないが、誰よりも強く感じる。逆らわない方が良いような、そんな感じ。

シャルは、酔っ払いのアーロンの対処をしながら、何かを囁いている。

「兄様に抱きつくのは僕の役目なんだから。取らないでよ。兄様に抱きついて許されるのはエリー姉様と僕だけなんだから。」

何か不穏な言葉が聞こえたけれど、まあ、いーや。

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