公爵令嬢は被害者です

mios

文字の大きさ
1 / 73

一人目の証言 タリー伯爵令嬢

しおりを挟む
タリー伯爵家が娘、シリルでございます。私は先のお茶会で、被害者であるリリア・アーレン公爵令嬢のお側に座っておりました。

あの時、第一王子殿下と、あの破廉恥な女は、遅れて登場いたしました。主人公は遅れてくるものだ、とか何とか仰って、今までの穏やかな空気を一掃したのですわ。

リリア様は、毅然とされていました。最近の第一王子殿下は、目に余る行為が多く、リリア様はそのフォローに努めてらして、心労が多くおありでした。

あの平民の女、名前は何でしたかしら、あの方が、昼間だと言うのに、露出した、夜会でも自重するような格好で来られて目のやり場に困りましたが、それ以前に婚約者のいらっしゃる方にまあ、ベタベタと。

第一王子殿下は、リリア様に向かって、横柄な態度を取られていて、主催の王妃様は勿論皆一様に呼ばれていないお二方のご登場に眉を顰めておりました。

あの女の方の甘ったるい話し方は、不快でしたが、目に入らなければどうと言うこともありません。リリア様が興味を失くされたので、こちらはこちらで楽しもうとなったのです。リリア様とお二方の位置は離れておりましたので。

あら、婚約者同士で離れて座るのは珍しいですか?それなら婚約者がいながら、別の女性を侍らす男性というのも、珍しいのではなくって?

嫌な言い方になってしまいましたね、ごめんなさい。

リリア様に非がないことなのですから、腹が立ってしまったのですわ。大人げなく申し訳ありません。

それで、それぞれお茶を楽しんでおりました。私はリリア様と隣でしたので楽しかったですが、王子殿下の辺りに座られた方達は不幸でしたわね。気の毒になりましたわ。何故って、あの女の方、作法の一つもご存知ないのですよ。カチャカチャと音を立てて、傍若無人に振る舞って、挙げ句の果て、それを人の所為にするのですから。

甲高い声で叫び、お茶をこぼされた、と仰るのです。確かにドレスには紅茶の染みがついておりました。

お側に座っていらした方はまあ、おかわいそうに震えていらっしゃってそれはもう、無実を訴えていらっしゃいました。

それはそうですわ。だってご自分で、勝手に溢したに違いありませんもの。

溢したところ?見ておりませんが、わかるでしょう。あの方、ドレスでただ歩くのさえ、ろくにできないのですわ。しなだれかかるようにしか歩けない、破廉恥な女ですのよ。

平民にお茶会の作法なんて、わからないでしょう。かわいそう?ええ、かけられたことにされた女性はかわいそうでしたわ。

真っ青な顔で震えていらっしゃったのよ。

それで第一王子殿下は、お怒りになられて、その彼女を叱責されたの。周りの女性は、巻き込まれてはたまらないから、口を出さないけれど、リリア様は違いましたの。

まず、あの恥知らずな女に火傷はしなかったか確認して、冤罪で震えている彼女にも同じことを聞きました。

彼女が憔悴していましたので、彼女をその場から遠ざけて、リリア様が王子殿下と話をされたのです。あの女には、新しいドレスを、と話をされて着替えを促していましたので、女はその話し合いの場にはいませんでした。

リリア様と王子殿下は、正反対のご様子でした。王子殿下は怒りが収まらない様子で、リリア様を睨みつけていて、リリア様は無表情でしたわ。私なら呆れた顔を見せてしまうかもしれません。本当に情けなかったですわ。

王子殿下に対して、不敬だと仰りたいの?私の態度が、不敬、ねぇ。まあ、それはそうでしょうね。私はリリア様を尊敬していますから。リリア様に失礼な態度を取り続ける王子殿下には不敬かもしれませんわね。

それで捕らえられたところで、後悔は致しませんわ。捕らえます?

まあ、今となれば、あの方にそんな権限はありませんもの。そうですわよね。

だってあの方は、リリア様に暴力を振るったのですから。信じられませんわ。話し合いもろくにせず、すぐに腕力に訴えるなんて。

殴ったところを見たか、ですって。見ましたわ。王子殿下が手を振り下ろして、バシンと音がして、リリア様が倒れていらしたのよ。頬が赤くなって、痛々しく。リリア様の白いお肌に、あの男は……。

王子殿下だからって、不当な暴力を許していいのですか?

私は許せません。あんなに、素敵な女性を不当に扱うなんて、許せない。

ましてや、婚約破棄ですって。破棄されるのは王子殿下であるべきでしょう。どうして、不貞をおかして、暴力まで振るった側が破棄をできるのですか。

慰謝料だって、リリア様に支払われるべきですわ。女性を侮りすぎよ。許せない。

え?だから、見たと言っているでしょう。王子殿下が手を振り下ろして……どちらの手?王子殿下の振り下ろした手?……右手だったかしら。ええ、多分。それ、何の証言になるの?

リリア様の赤くなった頬は左側でしたわ。だから、対面で、王子殿下の振り下ろした手は、右手よ。そうだわ。

何がおかしいの?王子殿下は左利き?

利き手ではない方で、手が出ることだってあるわよ。

被害者がリリア様なのは変わらない事実なのよ。許してはならないの。暴力も、浮気も、絶対に!

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】どうやら私は婚約破棄されるそうです。その前に舞台から消えたいと思います

りまり
恋愛
 私の名前はアリスと言います。  伯爵家の娘ですが、今度妹ができるそうです。  母を亡くしてはや五年私も十歳になりましたし、いい加減お父様にもと思った時に後妻さんがいらっしゃったのです。  その方にも九歳になる娘がいるのですがとてもかわいいのです。  でもその方たちの名前を聞いた時ショックでした。  毎日見る夢に出てくる方だったのです。

優しく微笑んでくれる婚約者を手放した後悔

しゃーりん
恋愛
エルネストは12歳の時、2歳年下のオリビアと婚約した。 彼女は大人しく、エルネストの話をニコニコと聞いて相槌をうってくれる優しい子だった。 そんな彼女との穏やかな時間が好きだった。 なのに、学園に入ってからの俺は周りに影響されてしまったり、令嬢と親しくなってしまった。 その令嬢と結婚するためにオリビアとの婚約を解消してしまったことを後悔する男のお話です。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

【完結済】結婚式の夜、突然豹変した夫に白い結婚を言い渡されました

鳴宮野々花@書籍4作品発売中
恋愛
 オールディス侯爵家の娘ティファナは、王太子の婚約者となるべく厳しい教育を耐え抜いてきたが、残念ながら王太子は別の令嬢との婚約が決まってしまった。  その後ティファナは、ヘイワード公爵家のラウルと婚約する。  しかし幼い頃からの顔見知りであるにも関わらず、馬が合わずになかなか親しくなれない二人。いつまでもよそよそしいラウルではあったが、それでもティファナは努力し、どうにかラウルとの距離を縮めていった。  ようやく婚約者らしくなれたと思ったものの、結婚式当日のラウルの様子がおかしい。ティファナに対して突然冷たい態度をとるそっけない彼に疑問を抱きつつも、式は滞りなく終了。しかしその夜、初夜を迎えるはずの寝室で、ラウルはティファナを冷たい目で睨みつけ、こう言った。「この結婚は白い結婚だ。私が君と寝室を共にすることはない。互いの両親が他界するまでの辛抱だと思って、この表面上の結婚生活を乗り切るつもりでいる。時が来れば、離縁しよう」  一体なぜラウルが豹変してしまったのか分からず、悩み続けるティファナ。そんなティファナを心配するそぶりを見せる義妹のサリア。やがてティファナはサリアから衝撃的な事実を知らされることになる────── ※※腹立つ登場人物だらけになっております。溺愛ハッピーエンドを迎えますが、それまでがドロドロ愛憎劇風です。心に優しい物語では決してありませんので、苦手な方はご遠慮ください。 ※※不貞行為の描写があります※※ ※この作品はカクヨム、小説家になろうにも投稿しています。

番(つがい)はいりません

にいるず
恋愛
 私の世界には、番(つがい)という厄介なものがあります。私は番というものが大嫌いです。なぜなら私フェロメナ・パーソンズは、番が理由で婚約解消されたからです。私の母も私が幼い頃、番に父をとられ私たちは捨てられました。でもものすごく番を嫌っている私には、特殊な番の体質があったようです。もうかんべんしてください。静かに生きていきたいのですから。そう思っていたのに外見はキラキラの王子様、でも中身は口を開けば毒舌を吐くどうしようもない正真正銘の王太子様が私の周りをうろつき始めました。 本編、王太子視点、元婚約者視点と続きます。約3万字程度です。よろしくお願いします。  

婚約者が妹と結婚したいと言ってきたので、私は身を引こうと決めました

日下奈緒
恋愛
アーリンは皇太子・クリフと婚約をし幸せな生活をしていた。 だがある日、クリフが妹のセシリーと結婚したいと言ってきた。 もしかして、婚約破棄⁉

悪役令嬢は永眠しました

詩海猫(8/29書籍発売)
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」 長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。 だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。 ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」 *思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m

【完結】仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

処理中です...