公爵令嬢は被害者です

mios

文字の大きさ
8 / 73

冴えない男

しおりを挟む
王妃の住んでいる王妃宮には当然だが、陛下以外の若い男性は来ない。王妃は今となっては、不貞で子を授かる可能性は低いが、古くからのしきたりで、入れないようになっている。

とは言え、例外はつきものだ。王妃はもとより国王陛下のような男性はタイプではない。あのように、身分の低い女性に簡単に手を出す八方美人なタイプより、屈強な男の中の男みたいな男性が好みだった。そう言った意味では、騎士団に属する若い男に、暇を見つけては用事を言いつけたりして、何とか懐柔しようとしていた。

アーレン公爵家に飼われているダグラスという男も、騎士団に入れてゆくゆくは自分のお手付きにしたかったが、仕方ない。代わりに、ダグラスの後釜のような男性を手に入れることができたので、よしとした。彼は伯爵位を持つ騎士で、ダグラスに比べると少し線が細い。だが、融通の効かない真っ直ぐなところや、若い女性に簡単に靡かないところが、気に入っていた。若ければ何でも良いと言う陛下とは真逆だ。

彼といると、自分がまだまっさらな乙女だったころの感覚を取り戻すことができる。彼は王妃である自分の身を守る為だけに側にいてくれるのだが、その中に、王妃に対する媚びも弱味を握ってやる、と言った策略も存在しない。いつものように、彼が御用伺いに来た際、伴っていたのは、第一王子クレイグの調査を頼んでいる文官であった。

王妃はこの男のことをあまり知らない。伯爵位を持つと言う点では、お気に入りの騎士と同じだが、何か得体の知れない雰囲気があり、正直苦手だ。だが、仕事はできる。

「調査はどうだ?順調か?」

「はい。おかげさまで。王妃様にお願いがあるのですが、あの日、あの女性と話をしたという侍女がいたようで、話を聞いてみたいのですが、宜しいでしょうか?あと、その日の殿下の護衛についていた者にも話を伺いたいのですが。」

「それなら、そこのジャンに聞けば良い。あの、平民女に、リリアのドレスをあてがった侍女なら、すぐに呼ぼう。好きに聞けば良いが、彼女は入ったばかりの新人だ。お手柔らかに頼む。」

「はい。畏まりました。ご協力感謝いたします。」

「ジャン。彼の話が終わったら、報告に来い。頼みたいこともある。時間は急がない。」

「はっ!畏まりました。」

王妃はジャンの背中だけを見ていたが、王妃宮の侍女達にはあまり人気がないらしい。寧ろもう一人の冴えない文官に取り入ろうとしている。

「あやつのような冴えない男が好きなのか。変わった趣味だな。」

「王妃様はご存知ないのですか?あの方はああ見えて若い女性の扱いをご存知ですわ。あの騎士とは大違いです。こちらにお立ち寄りの際には珍しいお菓子をお持ちになったりされているのですよ。」

「そうか。棲み分けというやつだな。」

「はい?何か仰いました?」

「いや、彼のためにアリスを呼んでくれ。」

「畏まりました。」

王妃は、いつも通り、指示だけを出して、ゆっくりと寝そべる。ジャンが戻って来るまでは特にすることはない。寛容さを見せて、時間など気にしない、と言った手前、早く会いたいなど態度に出しては、沽券にかかわる。

冴えない、と評したものの、意外にも侍女には人気らしい。所謂陛下と同じタイプの人間。苦手なタイプだ。あの男も女は若ければ良いと思っているのだろうか。

二人の後ろ姿を、記憶から引っ張り出すと、意外にも、あの屈強なジャンと、似たような逞しい姿だった気がする。

伯爵家出身の文官が、鍛錬をしたところで、タカが知れている。

けれど、クレイグの調査を引き受けてくれたことに感謝して、調査が終わった暁には何か褒美をやるのも良いかもしれない。

文官でありながら、国外に度々旅行に行き、珍しいお土産を持ってくる。最近では帝国で取れた珍しいフルーツを、クレイグに贈呈し、気に入ったクレイグが、我が国でも栽培できるように指示して、一大事業となったことがあった。その際、雇用問題も解決に導いたと、クレイグは、目に見える功績をあげたのだった。

あの時、人知れず手伝ってくれたのも、あの男だった。

王妃は、腹を痛めて産んだ我が子の腐り具合を知っていた。大方、最初から最後まで、彼が全て行い、成果だけを王子が手にしたのだろう。身分以外全く誇れるところのない王子だ。






我が息子は、王子の癖に、馬鹿がつくほどの正直者だ。陛下と同じ、若い女が好きで、下位貴族にもバンバン手を出す。

いつもなら、一人の人間に固執したりしないのだが、どう言った手を使ったのか、メラニーとかいう平民女に骨抜きになってしまった。

王妃は、第三者に調査を依頼したが、それが完了しなくとも、ほとぼりが冷めれば、反省したとして、出してやるつもりだった。

アーレン公爵家の娘と言えど、一度頬を叩いただけで、牢にずっと閉じ込めておくなんてことはない。寧ろ分を弁えなかったのだから、リリア嬢を牢に入れるべきだったのでは?

ただそれを公にするには、時期が悪い。未だに暴力王子の謹慎は解けていないし、リリア嬢を被害者とする勢力が力を振るっているからだ。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】どうやら私は婚約破棄されるそうです。その前に舞台から消えたいと思います

りまり
恋愛
 私の名前はアリスと言います。  伯爵家の娘ですが、今度妹ができるそうです。  母を亡くしてはや五年私も十歳になりましたし、いい加減お父様にもと思った時に後妻さんがいらっしゃったのです。  その方にも九歳になる娘がいるのですがとてもかわいいのです。  でもその方たちの名前を聞いた時ショックでした。  毎日見る夢に出てくる方だったのです。

優しく微笑んでくれる婚約者を手放した後悔

しゃーりん
恋愛
エルネストは12歳の時、2歳年下のオリビアと婚約した。 彼女は大人しく、エルネストの話をニコニコと聞いて相槌をうってくれる優しい子だった。 そんな彼女との穏やかな時間が好きだった。 なのに、学園に入ってからの俺は周りに影響されてしまったり、令嬢と親しくなってしまった。 その令嬢と結婚するためにオリビアとの婚約を解消してしまったことを後悔する男のお話です。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

我が家の乗っ取りを企む婚約者とその幼馴染みに鉄槌を下します!

真理亜
恋愛
とある侯爵家で催された夜会、伯爵令嬢である私ことアンリエットは、婚約者である侯爵令息のギルバートと逸れてしまい、彼の姿を探して庭園の方に足を運んでいた。 そこで目撃してしまったのだ。 婚約者が幼馴染みの男爵令嬢キャロラインと愛し合っている場面を。しかもギルバートは私の家の乗っ取りを企んでいるらしい。 よろしい! おバカな二人に鉄槌を下しましょう!  長くなって来たので長編に変更しました。

【完結】王子は聖女と結婚するらしい。私が聖女であることは一生知らないままで

雪野原よる
恋愛
「聖女と結婚するんだ」──私の婚約者だった王子は、そう言って私を追い払った。でも、その「聖女」、私のことなのだけど。  ※王国は滅びます。

私を裁いたその口で、今さら赦しを乞うのですか?

榛乃
恋愛
「貴様には、王都からの追放を命ずる」 “偽物の聖女”と断じられ、神の声を騙った“魔女”として断罪されたリディア。 地位も居場所も、婚約者さえも奪われ、更には信じていた神にすら見放された彼女に、人々は罵声と憎悪を浴びせる。 終わりのない逃避の果て、彼女は廃墟同然と化した礼拝堂へ辿り着く。 そこにいたのは、嘗て病から自分を救ってくれた、主神・ルシエルだった。 けれど再会した彼は、リディアを冷たく突き放す。 「“本物の聖女”なら、神に無条件で溺愛されるとでも思っていたのか」 全てを失った聖女と、過去に傷を抱えた神。 すれ違い、衝突しながらも、やがて少しずつ心を通わせていく―― これは、哀しみの果てに辿り着いたふたりが、やさしい愛に救われるまでの物語。

平民とでも結婚すれば?と言われたので、隣国の王と結婚しました

ゆっこ
恋愛
「リリアーナ・ベルフォード、これまでの婚約は白紙に戻す」  その言葉を聞いた瞬間、私はようやく――心のどこかで予感していた結末に、静かに息を吐いた。  王太子アルベルト殿下。金糸の髪に、これ見よがしな笑み。彼の隣には、私が知っている顔がある。  ――侯爵令嬢、ミレーユ・カスタニア。  学園で何かと殿下に寄り添い、私を「高慢な婚約者」と陰で嘲っていた令嬢だ。 「殿下、どういうことでしょう?」  私の声は驚くほど落ち着いていた。 「わたくしは、あなたの婚約者としてこれまで――」

有能婚約者を捨てた王子は、幼馴染との真実の愛に目覚めたらしい

マルローネ
恋愛
サンマルト王国の王子殿下のフリックは公爵令嬢のエリザに婚約破棄を言い渡した。 理由は幼馴染との「真実の愛」に目覚めたからだ。 エリザの言い分は一切聞いてもらえず、彼に誠心誠意尽くしてきた彼女は悲しんでしまう。 フリックは幼馴染のシャーリーと婚約をすることになるが、彼は今まで、どれだけエリザにサポートしてもらっていたのかを思い知ることになってしまう。一人でなんでもこなせる自信を持っていたが、地の底に落ちてしまうのだった。 一方、エリザはフリックを完璧にサポートし、その態度に感銘を受けていた第一王子殿下に求婚されることになり……。

処理中です...