公爵令嬢は被害者です

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十人目の証言 フリード

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ライモンドと間違えられて、狙われるのは慣れている。毒に慣れているとはいえ、媚薬を飲んで、女性に襲われると言う体験は不思議なものだった。相手が鍛えているわけでもない普通の女の子だったので、簡単にねじ伏せることができた。


エリオットに言われたのは、そこまで体を張らなくても良いのではないか、と言うこと。要は、媚薬を飲む必要はない、と言いたいらしい。これぐらいの濃度なら大したことはない。

何よりメラニーと言う少女が、この薬をどこから入手したか、知りたかった。だが、本人の記憶には手を加えられた痕があり、内容も要領を得なかったため、副作用にて廃人となっている可能性と、薬のせいとは言え、事態が事態なので、処刑は回避出来なかった。

例え生きていたとして、彼女に聞いても何も分からなかっただろう。この手の薬を扱う業者は、巧妙に自分達の身分を隠す。

こういった、毒に似た薬は扱いが難しい。

そう、正規のルートでは。

では、非正規のルートならどうなるかと言うと、やり方はいくらでもある。

粗悪品だと知りながら、使わなくてはいけない人達も中にはいる。彼女のように使われていることを知らされずに、使わせられた者もいる。

本来人を助けるはずの薬が、誰かにとっては毒になる。



久しぶりに見た弟は、案外元気そうだった。


「姉上、ご苦労様でした。」
「ライ。お疲れ様。やっぱり彼女の言う通りだった。記憶の混濁と、精神が不安定な状態だったために、回復は不可能と判断した。すまない。助けられなくて。」

「姉上のせいではありません。」
「リリア嬢はすごいな。どこで、わかったんだ?あの薬は最近現れたものだろう?」

「はい。どうやらあるお茶会の彼女の振る舞いに疑問を覚えたらしくて。リリアは、この国で一番勉強に力を入れている人ですからね。あの媚薬と香水に溺れた者が辿る末路を見たことがある、と言っていました。

……子爵家は丸ごと処罰しますか。」

「そうだね。先ほど、眠っていた母親を保護した。今はあの兄らしきものと、子爵と使用人達しかいないよ。

逃亡の線もないだろう。あちらとしても、逃げようがない。ましてや、あの娘に全て押し付ける気だったのだからな。そのための平民だろ。」



メラニーの母を後妻にしたダーニング子爵家は、ついこの間まで、領民思いの清廉な貴族だった。

そんな彼でも、道を間違えることはある。ある貴族に取り引きを持ちかけられ、人の良い子爵は、その提案を受け入れてしまう。

みるみるうちに、借金が膨らみ、気がついた時にはもう戻れなくなっていた。

ある商会が、秘密裏に仕入れた薬のモニターをお願いできたら、借金をチャラにしてやると言うので、その誘いに乗った。

得体の知れない薬を使うなんて、問題になったら困ると、悩んだ子爵に提案があった。それは平民との偽装結婚だった。子供のいる女性を狙ったのか、たまたまなのかは確認できていない。

偽装とはいえ、結婚するとなると、情が湧く。妻は、自分を受け入れてくれたけれど、娘はまだ警戒心が強いみたいだ。

息子を使い、彼女を罠に嵌めた。彼女にこの薬を使うように勧めたのは、商会から派遣されてきた女だった。

女は侍女に扮し、子爵家全体を監視していた。女は自分の身分を明らかにはしなかったが、子爵家よりは遥かに上の立場にいることは見て取れた。

その女は特徴から言って、カミラの言っていたメアリー・ヒルだろう。彼女に話を聞こうにも、どこかに隠れてしまったようで、まだ、実物を拝めていない。




感情に支配される不思議な香水が帝国に広まったのは、半年も前のこと。元々は、余興の一つとして、マジックに使うような類のものだった。

香水自体に、匂いはなく、ただつけるだけではそれは変わらない。ただ、そのつけた人の周りの感情に依って、匂いが変化すると言うもの。

例えば、つけた人と一緒の空間にいて、良い感情になれるなら、甘く良い匂いに感じ、嫌な感情になるなら、臭く感じる。

これは、元々は、軽い暗示の一つだった。

勿論、香水自体には匂いがないだけで、毒性などない。単なる遊びの一つだからだ。


だが、帝国で発明され、楽しまれたこの香水は、リスルで使用が認められた時には、全く別の物になっていた。幻覚作用の濃度が濃く、洗脳に近い状態を作り出す危険な物に、進化していた。使い続けると、使った者にも匂いを吸った者にも、影響が出る。記憶を容易に改竄され、誰かの都合の良い思い込みをしてしまったりする。

この香水をリスルで売り捌いているのは、最近急成長中のある商会だ。こんなに危険なのだから、当然カタログには載っていない。

カタログに載っていない商品は、初めてのお客様には購入されない。だんだんと注文を重ねていき、カタログに載っていない物を聞かれた時に、滑り込ませる。そうすれば客の経済状況もわかるし、捕まるリスクも減る。

彼らは、この不思議な香水を作り、世界を混乱に貶めたいだとか、そんな大それたことを思っていたのではない。ただ、傾いた没落待ったなしの、自分達の家をどうにかしたい一心でのことだ。

情状酌量の余地はある。

だが、やはり、あの弟は決して許さないだろう。宝物に近づいた不埒者には、相応の罰が与えられる。
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