20 / 73
宝物①
しおりを挟む
好きな人には婚約者がいた。普通ならここで諦める。でもその相手が、不幸になりそうな相手なら?大切な人を蔑ろにした挙句、傷つけて、反省もしない下衆なら?
ライモンドはこの国に初めて来た時、リリアに恋をした。だが、その時すでに、彼女にはクレイグ第一王子という婚約者がいた。
それはライモンドにとっては吉だった。いくら愚かな王子であったとしても、王子の婚約者に手を出すような者はいないだろうと思ったからだ。ありがたいことに、リリアにもクレイグにもお互いに愛情などない様だったし、いつかうまく行かなくなる。それまでに自分の側の準備を整えて迎えに行けば良いと。
小さな国で、行われる悪事は耳に入ってくるまでに思ったより時間がかかった。上手く隠されていたらしい。
この国をいらない、と言ったのは、私が欲しいものは、他にあるからだ。
帝国には十五人の皇子がいる。表向きには、全員に皇位継承権がある。あくまでも、表向きには。実際には皇妃から生まれた第二までの皇子にしか、皇帝の位は継がれない。
理由は、側妃の生んだ皇子の大半が殺されるからだ。死ぬまでの時間はそれぞれ違う。ある者は暗殺され、ある者は病で、ある者は事故で、そして残った者がいたとしても、彼らは、次代の皇帝を補佐する役目を仰せつかる。
断ることは即ち死だ。生きるためには、その役目を負わなければならない。
第十三皇子に生まれて、第一皇子のために、働いていることを後悔したことはない。寧ろ、私が育つまでその任を負っていた第八皇子に対して、憎しみまで感じたぐらい、この仕事に誇りを持っている。自分でも、一途に兄を慕いすぎていると思うこともある。彼らを慕うことで、この任務が楽になることなどないと言うのに。
自分は、一度欲しいと思ったものを諦めることができない。おかしいとは思うがそういう性質だ。どれだけ時間がかかろうと、必ず手に入れる。
ただ、私が欲しいと思ったものを、横から掻っ攫おうなんて無粋な真似は許さない。そんな不埒者には、罰を与えなければならない。
私は兄とリリア以外はどうでも良い。実の姉ヴィオラは、その中に入っていないのは、申し訳ないが。
「ジェイムズが、見つけたそうだよ。」
フリードから声がかかる。
「流石、早いな。」
「一応、目星をつけていたからね。やっぱりパーニー子爵家の所有する土地にあったそうだ。大量にね。」
「隠すのが上手かったのは、パーニー家ではないのだろう。」
「とりあえず間に合ってよかった。明日には詳細をまとめておくよ。」
「ありがとう。助かった。」
リリアは賢い女性だ。こちらが気がつくより先に色々なことを知っている。細やかな心配りが、それを可能にしている。彼女は女性しかわからない着眼点で物事を見て、判断する。彼女なら、男の嘘など、一瞬で見抜いてしまう。王妃教育を受けていただけのことはある。おそらく今の王妃より有能であることは間違いない。
有能だからこそ、守りたいと思う。本来なら知らなくて良いことすら知ってしまうのだから。まさに今がそれだ。
リリアを害するものを、リリアの目の届かないところで処分するのは、簡単だ。でも、彼女はそれを嫌がるだろうことは想像に難くない。
彼女はただ守られることを良しとしない。ただ囲われることを、享受しない。自分の居場所は自分で確保したい女性だ。
私が取るべき行動は、彼女に必死に食らいついていくことだ。リリアは、ある意味兄上に似ている。だから、より、惹かれるのだろうか。
三日後に、リリアは、前回話せなかった二人の人物を公爵家に招待している。
アーレン公爵家にいる限り、リリアの命の心配はない。一つ、懸念があるとすれば、それはダグラス卿が暴れすぎないかと言うことだけだ。
彼は頭は悪くないのだが、脳筋で、リリアのことになると見境がなくなる。
彼は一体どう言う立ち位置なんだ。父にしては若すぎるし、兄にしては些か歳を取りすぎている。リリアだけに尻尾を振る駄犬にみえるが、下手なことは言えまい。剣だけの腕なら比べる必要もないほど、彼が上だ。
彼はいつのまにかアーレン公爵家に出入りしていた私にも、兄のように、時には父のように、接してくれた。二人で腹を割って話したこともないと言うのに。他の人なら感じる下心も、彼にはない。
彼みたいな裏表のないタイプは苦手で、気持ち悪い。何を考えているかさっぱり判断がつかない。
それでも、これだけは自信を持って言える。彼も私同様、リリアを害する者は許さないだろう。そして、私と違い、その元凶を倒すだけの力を持っていると言うことだ。
今この国に、本気のダグラス卿を前に死を覚悟しない者がいたなら、それこそ、新国王に命じてやってもいいかもしれない。
因みに私は無理だ。最初から負けるとわかっている勝負はしない。
だから、考える。本気のダグラス卿と剣を交えず、和解する方法を。……いや、多分無理だな。
それこそ、それが可能なのは、アーレン公爵かリリアしかいない。
ライモンドはこの国に初めて来た時、リリアに恋をした。だが、その時すでに、彼女にはクレイグ第一王子という婚約者がいた。
それはライモンドにとっては吉だった。いくら愚かな王子であったとしても、王子の婚約者に手を出すような者はいないだろうと思ったからだ。ありがたいことに、リリアにもクレイグにもお互いに愛情などない様だったし、いつかうまく行かなくなる。それまでに自分の側の準備を整えて迎えに行けば良いと。
小さな国で、行われる悪事は耳に入ってくるまでに思ったより時間がかかった。上手く隠されていたらしい。
この国をいらない、と言ったのは、私が欲しいものは、他にあるからだ。
帝国には十五人の皇子がいる。表向きには、全員に皇位継承権がある。あくまでも、表向きには。実際には皇妃から生まれた第二までの皇子にしか、皇帝の位は継がれない。
理由は、側妃の生んだ皇子の大半が殺されるからだ。死ぬまでの時間はそれぞれ違う。ある者は暗殺され、ある者は病で、ある者は事故で、そして残った者がいたとしても、彼らは、次代の皇帝を補佐する役目を仰せつかる。
断ることは即ち死だ。生きるためには、その役目を負わなければならない。
第十三皇子に生まれて、第一皇子のために、働いていることを後悔したことはない。寧ろ、私が育つまでその任を負っていた第八皇子に対して、憎しみまで感じたぐらい、この仕事に誇りを持っている。自分でも、一途に兄を慕いすぎていると思うこともある。彼らを慕うことで、この任務が楽になることなどないと言うのに。
自分は、一度欲しいと思ったものを諦めることができない。おかしいとは思うがそういう性質だ。どれだけ時間がかかろうと、必ず手に入れる。
ただ、私が欲しいと思ったものを、横から掻っ攫おうなんて無粋な真似は許さない。そんな不埒者には、罰を与えなければならない。
私は兄とリリア以外はどうでも良い。実の姉ヴィオラは、その中に入っていないのは、申し訳ないが。
「ジェイムズが、見つけたそうだよ。」
フリードから声がかかる。
「流石、早いな。」
「一応、目星をつけていたからね。やっぱりパーニー子爵家の所有する土地にあったそうだ。大量にね。」
「隠すのが上手かったのは、パーニー家ではないのだろう。」
「とりあえず間に合ってよかった。明日には詳細をまとめておくよ。」
「ありがとう。助かった。」
リリアは賢い女性だ。こちらが気がつくより先に色々なことを知っている。細やかな心配りが、それを可能にしている。彼女は女性しかわからない着眼点で物事を見て、判断する。彼女なら、男の嘘など、一瞬で見抜いてしまう。王妃教育を受けていただけのことはある。おそらく今の王妃より有能であることは間違いない。
有能だからこそ、守りたいと思う。本来なら知らなくて良いことすら知ってしまうのだから。まさに今がそれだ。
リリアを害するものを、リリアの目の届かないところで処分するのは、簡単だ。でも、彼女はそれを嫌がるだろうことは想像に難くない。
彼女はただ守られることを良しとしない。ただ囲われることを、享受しない。自分の居場所は自分で確保したい女性だ。
私が取るべき行動は、彼女に必死に食らいついていくことだ。リリアは、ある意味兄上に似ている。だから、より、惹かれるのだろうか。
三日後に、リリアは、前回話せなかった二人の人物を公爵家に招待している。
アーレン公爵家にいる限り、リリアの命の心配はない。一つ、懸念があるとすれば、それはダグラス卿が暴れすぎないかと言うことだけだ。
彼は頭は悪くないのだが、脳筋で、リリアのことになると見境がなくなる。
彼は一体どう言う立ち位置なんだ。父にしては若すぎるし、兄にしては些か歳を取りすぎている。リリアだけに尻尾を振る駄犬にみえるが、下手なことは言えまい。剣だけの腕なら比べる必要もないほど、彼が上だ。
彼はいつのまにかアーレン公爵家に出入りしていた私にも、兄のように、時には父のように、接してくれた。二人で腹を割って話したこともないと言うのに。他の人なら感じる下心も、彼にはない。
彼みたいな裏表のないタイプは苦手で、気持ち悪い。何を考えているかさっぱり判断がつかない。
それでも、これだけは自信を持って言える。彼も私同様、リリアを害する者は許さないだろう。そして、私と違い、その元凶を倒すだけの力を持っていると言うことだ。
今この国に、本気のダグラス卿を前に死を覚悟しない者がいたなら、それこそ、新国王に命じてやってもいいかもしれない。
因みに私は無理だ。最初から負けるとわかっている勝負はしない。
だから、考える。本気のダグラス卿と剣を交えず、和解する方法を。……いや、多分無理だな。
それこそ、それが可能なのは、アーレン公爵かリリアしかいない。
1
あなたにおすすめの小説
【完結】どうやら私は婚約破棄されるそうです。その前に舞台から消えたいと思います
りまり
恋愛
私の名前はアリスと言います。
伯爵家の娘ですが、今度妹ができるそうです。
母を亡くしてはや五年私も十歳になりましたし、いい加減お父様にもと思った時に後妻さんがいらっしゃったのです。
その方にも九歳になる娘がいるのですがとてもかわいいのです。
でもその方たちの名前を聞いた時ショックでした。
毎日見る夢に出てくる方だったのです。
【完結済】結婚式の夜、突然豹変した夫に白い結婚を言い渡されました
鳴宮野々花@書籍4作品発売中
恋愛
オールディス侯爵家の娘ティファナは、王太子の婚約者となるべく厳しい教育を耐え抜いてきたが、残念ながら王太子は別の令嬢との婚約が決まってしまった。
その後ティファナは、ヘイワード公爵家のラウルと婚約する。
しかし幼い頃からの顔見知りであるにも関わらず、馬が合わずになかなか親しくなれない二人。いつまでもよそよそしいラウルではあったが、それでもティファナは努力し、どうにかラウルとの距離を縮めていった。
ようやく婚約者らしくなれたと思ったものの、結婚式当日のラウルの様子がおかしい。ティファナに対して突然冷たい態度をとるそっけない彼に疑問を抱きつつも、式は滞りなく終了。しかしその夜、初夜を迎えるはずの寝室で、ラウルはティファナを冷たい目で睨みつけ、こう言った。「この結婚は白い結婚だ。私が君と寝室を共にすることはない。互いの両親が他界するまでの辛抱だと思って、この表面上の結婚生活を乗り切るつもりでいる。時が来れば、離縁しよう」
一体なぜラウルが豹変してしまったのか分からず、悩み続けるティファナ。そんなティファナを心配するそぶりを見せる義妹のサリア。やがてティファナはサリアから衝撃的な事実を知らされることになる──────
※※腹立つ登場人物だらけになっております。溺愛ハッピーエンドを迎えますが、それまでがドロドロ愛憎劇風です。心に優しい物語では決してありませんので、苦手な方はご遠慮ください。
※※不貞行為の描写があります※※
※この作品はカクヨム、小説家になろうにも投稿しています。
優しく微笑んでくれる婚約者を手放した後悔
しゃーりん
恋愛
エルネストは12歳の時、2歳年下のオリビアと婚約した。
彼女は大人しく、エルネストの話をニコニコと聞いて相槌をうってくれる優しい子だった。
そんな彼女との穏やかな時間が好きだった。
なのに、学園に入ってからの俺は周りに影響されてしまったり、令嬢と親しくなってしまった。
その令嬢と結婚するためにオリビアとの婚約を解消してしまったことを後悔する男のお話です。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
我が家の乗っ取りを企む婚約者とその幼馴染みに鉄槌を下します!
真理亜
恋愛
とある侯爵家で催された夜会、伯爵令嬢である私ことアンリエットは、婚約者である侯爵令息のギルバートと逸れてしまい、彼の姿を探して庭園の方に足を運んでいた。
そこで目撃してしまったのだ。
婚約者が幼馴染みの男爵令嬢キャロラインと愛し合っている場面を。しかもギルバートは私の家の乗っ取りを企んでいるらしい。
よろしい! おバカな二人に鉄槌を下しましょう!
長くなって来たので長編に変更しました。
短編 跡継ぎを産めない原因は私だと決めつけられていましたが、子ができないのは夫の方でした
朝陽千早
恋愛
侯爵家に嫁いで三年。
子を授からないのは私のせいだと、夫や周囲から責められてきた。
だがある日、夫は使用人が子を身籠ったと告げ、「その子を跡継ぎとして育てろ」と言い出す。
――私は静かに調べた。
夫が知らないまま目を背けてきた“事実”を、ひとつずつ確かめて。
嘘も責任も押しつけられる人生に別れを告げて、私は自分の足で、新たな道を歩き出す。
【完結】王子は聖女と結婚するらしい。私が聖女であることは一生知らないままで
雪野原よる
恋愛
「聖女と結婚するんだ」──私の婚約者だった王子は、そう言って私を追い払った。でも、その「聖女」、私のことなのだけど。
※王国は滅びます。
平民とでも結婚すれば?と言われたので、隣国の王と結婚しました
ゆっこ
恋愛
「リリアーナ・ベルフォード、これまでの婚約は白紙に戻す」
その言葉を聞いた瞬間、私はようやく――心のどこかで予感していた結末に、静かに息を吐いた。
王太子アルベルト殿下。金糸の髪に、これ見よがしな笑み。彼の隣には、私が知っている顔がある。
――侯爵令嬢、ミレーユ・カスタニア。
学園で何かと殿下に寄り添い、私を「高慢な婚約者」と陰で嘲っていた令嬢だ。
「殿下、どういうことでしょう?」
私の声は驚くほど落ち着いていた。
「わたくしは、あなたの婚約者としてこれまで――」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる