公爵令嬢は被害者です

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少女①

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「あんた、やっぱりどっかの貴族なんだろ?帰らなくていいのか?」

「いいのよ。私には帰る場所なんてないし。それに、金目の物は全て売ったなんて言ったら叱られるわ。きっと。」

「悪かったよ。騙して連れてきて……でも、逃げるチャンスなんて、いっぱいあったろ、何でまだいるんだよ。」

少年は自分達とは違い身なりの良かった少女に問いかける。無理矢理拉致に近い状態で連れてきたのは悪いとは思うが、鍵付きの檻の中に、閉じ込めた訳でも、拘束しているわけでも、見張りを置いている訳でもない集団に少女が居座りつづけているのは、紛れもなく、彼女自身の意思だ。

「いいじゃない。裕福だからって幸せとは限らないわ。」

「金がないのは不幸だよ。金がないと、何もできないんだから。」

「それはそうね。もう私も売るものがないわ。こんなことなら、たくさん盗んでくるんだった。」

「お前、いいとこのお嬢様じゃないのかよ。盗みまでするのか。」

「家にお金があったって、自分が好きにできる訳じゃないのよ。自力で服すら着られない生活に戻りたいなんて思わない。」

「は?自分で着られないってどうすんだ?」

「手伝ってもらうのよ。勿論。自分で着たいと言えば、その人達の仕事がなくなって、生活出来なくなるって泣かれるのよ。」

「お前……ヤバいところにいたんだな。」

少女は少年の呟きに同意する。自分が生粋の貴族として、昔からあの生活をしていたのなら、疑問にすら思わなかったのだろうが、少女は貴族のご令嬢になる前の生活をうっすら覚えている。

少女がこの村に辿り着いたのは、自国にクーデターが起こり、王族が粛清された次の日だ。運良く少女はその国から少年達によって連れ去られた。

少女は少女の覚えている世界を探す為に、国の外に出る必要があった。だから、少年がいくら家に帰れといっても、帰る気などない。厳密にいえば、あの家は少女の家ではない。仲が良さそうに近づいてくるものの、他人だ。

「こんなことなら勉強しておくんだった。世界史とか世界地理とか勉強しておけば、少しぐらいは無双できたのに……」

「は?無双って何?」

「無双っていうのは、すごく優れているってこと。敵が居なくなることよ。」

「まあ、お前はまだ子供だし、女だからそう気を落とさなくても良いだろう。」

少年は自分なりに気を遣ったつもりだが、鼻で笑われてしまった。

「気を落としているのはそう言った理由じゃないわ。」

少女が呆れている様子だったのが、地味に堪える。

「わかってるよ。」

どうしても不貞腐れた言い方になってしまう。

少年はそれ以来黙り込んでいたが、少女は気にしなかった。少女も別のことを考えていたからだ。

「王族は変わってしまったから、またあそこに忍び込むのも骨が折れるわ。それにあそこには何もなかったし。やっぱり公爵家かしら。でも……そういえば、そう。良いことを思いついたわ。あそこ、うまくいけば、無人なんじゃない?」

少女が顔を上げると、さっきの少年は居なくなっていて、代わりに体格の良い元騎士の青年が現れる。

「ねえ、私を助けてくれるって本当?」

元騎士の青年は少女が攫われてきた時からずっと彼女のそばにいて、逃げ出したいのなら力を貸してくれると言っていた。

さっきの少年と同じような提案ではあったが、少年よりは、青年の方が頼りになる筈だ。

「じゃあ、私をここまで、連れて行ってくれない?」

「ここが君の家なの?」

「いえ、違……そうよ、そう。ここが私の家よ。」

違うと言えば、理由を話さなくてはいけなくなる。理由を話してしまうと、これからすることの片棒を担がせてしまうことになる。少女は彼らを大切に思っていた為、言葉を濁すことにした。

連れてこられた家に灯りはない。廃墟かと思っていたが、定期的に人は出入りしているようで、ちゃんと掃除もされていた。

「君は嘘がヘタ。ここは、君の家じゃない。」
元騎士が、思ったよりも低い声を出す。
「何で?」
わかったんだろう?自分が知らないだけで有名な家なんだろうか。

「ここは僕の家。厳密には元だけどね。」
懐かしげに目を細めて、元騎士の男は、爆弾発言をする。
「君はスカーレット・ヘイワーズだろう?僕の生家に何の用だい?内容によっては、君から片付けることにするから、ちゃんと本当のことを言ってね。」

騎士の威圧感は凄まじく、普通のご令嬢なら泣いていただろう。

スカーレットと呼ばれた少女は、その態度に怯むことはなく、彼を睨みつけた。

「勿論、私が元いた世界に帰る方法を探る為よ。私は、早く帰る必要があるの。今すぐ帰らないと、後戻りできなくなるの。」

「元いた世界……君は本当に、人身売買の被害者なの?」

「人身売買?に当たるのかしら?確かにここには、探るために潜入したけれど、私が知りたいのはヘイワーズ家のご令嬢になった当時のことを知りたいの。」

「それを、ハイツ家が知っていると?」

「ええ、だって、この家はヘイワーズ家に潰されたのでしょう。偶然かもしれないけれど、知っておきたいの。私が呼ばれたのは誰の意思なのかを。」
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