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異様な光景
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アイクを置いて、リリアと訪れたのは街の、寂れた食堂だった。一応高級と謳っているからには、寂れたと言う言葉は適さないかもしれないが、そう言うしかないほど、人がいない。その食堂が、ではない。街に人がいない。訂正、街に若い人がいない。
若い女性が軒並み居なくなっているせいなのか、若い男性の姿もごっそり見なくなっている。街には高齢の痩せた男女が溢れており、それだけでも、異様な光景だった。
「車内で見るのと、何だか雰囲気が違うわね。」
リリアの正直な感想に同意する。
パッと見ただけでも、歩いている何人かは顔色が悪く、生気がない。
「ねぇ、ここ最近、疫病が流行ったことってあったかしら?」
「いや、聞いていないな。」
疫病が流行る場合には、原因が何であれ国に報告されることになっている。人々の様子からライモンドも、その可能性について考えてみたが、最近はこれといってその類の話は聞かなかった。
とは言え、若い人がいないのは、流石に異常だ。
道を尋ねるフリをして、世間話程度に話しかけて見ると、若い人達は皆教会にいる、とのこと。
教会で何をしているかと聞くと、仕事だと言う。どうやら、この街の仕事は一旦教会に赴き、教会を通して就業する必要があるらしい。
一時期身元不詳のならず者達のせいで、街が壊滅状態に陥ったことがあるらしく、身元を確認できなければ雇って貰えなくなったと言う。
とは言え、平民の身元保証は、教会で行うのが常らしく、まずはそちらに赴く必要があると言うことだ。
教会で身元を保証してもらい、仕事に就いた場合、身柄を教会に引き取って貰うため、こちらには帰ってこない。
「それなら、教会にはたくさんの人が寝泊まりしているの?大変じゃないかしら。そんなにたくさんの人が入る施設なんて。」
「仕事の求人なんかは教会に行けばわかりますか?」
話をしてくれた老人は、不躾に二人の姿を上から下まで眺めて、満足そうに頷いたあと、リリアに目を向けて首を振った。
声を顰めて、意味深な言葉を口にする。
「悪いことはいわないから、早くここを出た方が良い。少なくとも、こちらのお嬢さんは別嬪さんすぎる。教会に行けば、引き離されて一生会えなくなる。騙されたと思って、さっさと逃げなさい。」
それはどう言うことか、聞こうとした時に背後から誰かの気配を感じ、冷や汗をかいた。
「ありがとう、お爺さん。よく理解できました。」
まだ話したそうにしているリリアに笑顔を向けて、彼女の体をグイッと引き寄せる。リリアは驚いて、少し照れていたが、私の顔を一瞥した後、不穏な空気を把握したようで、抵抗することはなかった。
「楽しいお話をありがとうございました。」
リリアはお爺さんに挨拶をして、あとはライモンドに体を預けた。
アイクが何か失敗した可能性……それかよっぽど危ない事に首を突っ込んだのか。
それかどちらもか。
ライモンドは帝国からずっと一緒だったアイクの他に、彼自身にとって非常に特別な従者がいる。彼はアイクとはまた違うが、彼がいないといるとではこちらの安心感が全く異なる。
「御意」
口を開くより先に返事が来るとは思わなかった。咄嗟に苦笑いが出てしまって、リリアを不安にさせてしまったようだ。
奴のことは、リリアに紹介したくない。無駄に怯えさせるのも嫌だし、アイクと違い奴は善人ではない。
リリアを守りたいのに、逆効果になってしまわないか、心配だ。
ふと気がつけば、嫌な空気はなくなっていた。流石、仕事が早い。
彼の仕事について、詳しくは知らない方が良いのだろう。知ってしまうと、口封じで殺されるか、恐怖で頭がおかしくなるか。どちらも遠慮したい。
「さっきのお爺さんの話、どう思う?教会には何があるの?ただの仕事ではないわよね?」
さっきの老人が言ったように、質素な洋服に身を包まれていても、リリアの美しさは隠すことができない。
街中にいるのは、ここに住んでいると思われる老人達と、場にそぐわない若い旅行者の二択。教会が何らかの理由で、若い人達を管理しているのなら、ここにいる若い旅行者を見逃したりしないだろう。
アイクが関係なくとも、最初から狙われていたのかもしれない。
「リリア、少し不味いかもしれない。プランBをお願いするかもしれないよ。」
リリアはキラキラした瞳ですごく嬉しそうに頷く。
「本当?私、頑張るわ!」
純粋無垢な瞳に癒される。プランAは、大人しく、暴力はなし。プランBは、脳筋で暴れて倒しまくる。
プランと言う程の内容ではないが、頭がいいくせに脳筋寄りの考えに陥りがちのアーレン家において、可愛がられた末っ子も対して変わらない。兄達と同様、もしくはそれ以上の脳筋っぷりでリリアは特訓の成果を見せるつもりだった。
「いつ、教会に行くの?」
「うーん、アイクが合流したら、行こうか。せっかく建前を用意してくれたんだ。使わなければ勿体ないよ。」
「わかったわ。それからが勝負ね!」
一応、行く前にまだプランAの最中だと言う念押しをした方が良い。リリアの食いつきっぷりに不安が過ぎる。
「リリア、絶対に私から離れないで。良いね。」
リリアの、はあい、と間延びした返事が近くで聞こえた。
若い女性が軒並み居なくなっているせいなのか、若い男性の姿もごっそり見なくなっている。街には高齢の痩せた男女が溢れており、それだけでも、異様な光景だった。
「車内で見るのと、何だか雰囲気が違うわね。」
リリアの正直な感想に同意する。
パッと見ただけでも、歩いている何人かは顔色が悪く、生気がない。
「ねぇ、ここ最近、疫病が流行ったことってあったかしら?」
「いや、聞いていないな。」
疫病が流行る場合には、原因が何であれ国に報告されることになっている。人々の様子からライモンドも、その可能性について考えてみたが、最近はこれといってその類の話は聞かなかった。
とは言え、若い人がいないのは、流石に異常だ。
道を尋ねるフリをして、世間話程度に話しかけて見ると、若い人達は皆教会にいる、とのこと。
教会で何をしているかと聞くと、仕事だと言う。どうやら、この街の仕事は一旦教会に赴き、教会を通して就業する必要があるらしい。
一時期身元不詳のならず者達のせいで、街が壊滅状態に陥ったことがあるらしく、身元を確認できなければ雇って貰えなくなったと言う。
とは言え、平民の身元保証は、教会で行うのが常らしく、まずはそちらに赴く必要があると言うことだ。
教会で身元を保証してもらい、仕事に就いた場合、身柄を教会に引き取って貰うため、こちらには帰ってこない。
「それなら、教会にはたくさんの人が寝泊まりしているの?大変じゃないかしら。そんなにたくさんの人が入る施設なんて。」
「仕事の求人なんかは教会に行けばわかりますか?」
話をしてくれた老人は、不躾に二人の姿を上から下まで眺めて、満足そうに頷いたあと、リリアに目を向けて首を振った。
声を顰めて、意味深な言葉を口にする。
「悪いことはいわないから、早くここを出た方が良い。少なくとも、こちらのお嬢さんは別嬪さんすぎる。教会に行けば、引き離されて一生会えなくなる。騙されたと思って、さっさと逃げなさい。」
それはどう言うことか、聞こうとした時に背後から誰かの気配を感じ、冷や汗をかいた。
「ありがとう、お爺さん。よく理解できました。」
まだ話したそうにしているリリアに笑顔を向けて、彼女の体をグイッと引き寄せる。リリアは驚いて、少し照れていたが、私の顔を一瞥した後、不穏な空気を把握したようで、抵抗することはなかった。
「楽しいお話をありがとうございました。」
リリアはお爺さんに挨拶をして、あとはライモンドに体を預けた。
アイクが何か失敗した可能性……それかよっぽど危ない事に首を突っ込んだのか。
それかどちらもか。
ライモンドは帝国からずっと一緒だったアイクの他に、彼自身にとって非常に特別な従者がいる。彼はアイクとはまた違うが、彼がいないといるとではこちらの安心感が全く異なる。
「御意」
口を開くより先に返事が来るとは思わなかった。咄嗟に苦笑いが出てしまって、リリアを不安にさせてしまったようだ。
奴のことは、リリアに紹介したくない。無駄に怯えさせるのも嫌だし、アイクと違い奴は善人ではない。
リリアを守りたいのに、逆効果になってしまわないか、心配だ。
ふと気がつけば、嫌な空気はなくなっていた。流石、仕事が早い。
彼の仕事について、詳しくは知らない方が良いのだろう。知ってしまうと、口封じで殺されるか、恐怖で頭がおかしくなるか。どちらも遠慮したい。
「さっきのお爺さんの話、どう思う?教会には何があるの?ただの仕事ではないわよね?」
さっきの老人が言ったように、質素な洋服に身を包まれていても、リリアの美しさは隠すことができない。
街中にいるのは、ここに住んでいると思われる老人達と、場にそぐわない若い旅行者の二択。教会が何らかの理由で、若い人達を管理しているのなら、ここにいる若い旅行者を見逃したりしないだろう。
アイクが関係なくとも、最初から狙われていたのかもしれない。
「リリア、少し不味いかもしれない。プランBをお願いするかもしれないよ。」
リリアはキラキラした瞳ですごく嬉しそうに頷く。
「本当?私、頑張るわ!」
純粋無垢な瞳に癒される。プランAは、大人しく、暴力はなし。プランBは、脳筋で暴れて倒しまくる。
プランと言う程の内容ではないが、頭がいいくせに脳筋寄りの考えに陥りがちのアーレン家において、可愛がられた末っ子も対して変わらない。兄達と同様、もしくはそれ以上の脳筋っぷりでリリアは特訓の成果を見せるつもりだった。
「いつ、教会に行くの?」
「うーん、アイクが合流したら、行こうか。せっかく建前を用意してくれたんだ。使わなければ勿体ないよ。」
「わかったわ。それからが勝負ね!」
一応、行く前にまだプランAの最中だと言う念押しをした方が良い。リリアの食いつきっぷりに不安が過ぎる。
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