公爵令嬢は被害者です

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逃げよう

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アメリが牢で暮らすようになって数日。アメリは隣の牢の住人と話すようになった。彼女は平民で彼女はこんな筈じゃなかったとしきりに訴えていた。

彼女曰く、ある子爵家が関わっている、神の子プログラムに参加したのが始まりだったと言う。

「でも事前に聞いていた話とは全く違って……最初は貧しくても教育が受けられる、から、期待で胸がいっぱいだったのに、教師となる人は、教養のかけらもないような人達ばかりで、男性はニヤニヤして胸ばかり見てくるし、子供は取り上げられて会えないって嘆いている母親もいたし。

何かおかしいんじゃないか、って誰かが言い出して……そうしたら言い出した人が次々と居なくなって。

いなくなった理由を聞いても、彼らは神の子に認定されましたって言われて……怖くなって、逃げようとしたらここに。」

「元々諦めていたのよ。小さな町だから、別に教養がなくても、この町で生きていくだけなら問題ないって。一生穏やかな生活が出来たら良いかな、って。」

「きっかけは何だったの?」

「ルーナ様よ。貴女、知ってる?貴族のお嬢様だったのに、貴族の生活を捨てて、神に仕えるために修道女になった方。あの方は、貴族の学校に通っていらっしゃらないの。全て独学で学んでいらっしゃるの。彼女がこのプログラムの第一人者だったから、私は彼女のようになりたくて、受けることにしたの。

彼女にはなれなくても、近づくことはできるかもしれないって。」

「じゃあ、あの女が悪いじゃない。」
アメリは、ほれみたことかと、目尻を吊り上げた。けれど、彼女は哀しそうに首を振る。

「いいえ、彼女のせいじゃないわ。悪いのは彼女を利用している子爵家よ。ルーナ様を騙して、私達を騙して、私腹を肥してる。

子供達は外国に奴隷として売り飛ばされる。男性も鉱山労働やら働き手として、女性は娼婦や、ハニートラップ要員として、売り飛ばされるのよ。あとは、愛玩用奴隷として、ね。子供達は幼ければ幼いほど喜ばれるそうよ。……気持ち悪い。」

「ここから逃げましょう。」
ここにいる人達を全員本当は助けたい。でも術がない。ただアメリには一つ頼みの綱があった。

望みは薄くてもそれにかける他ない。


「逃げるってどうやって?」
半信半疑の表情で彼女がアメリを見上げる。まだその顔に期待したい心が残っているように見えて、少し安堵した。

アメリはあたりを見渡して、彼女にある物を差し出した。

「これ、実は追跡装置なの。色々あって、実の親から信用されてない訳。で、修道女になったんだけど、父が私に内緒で月に一度、ここまで監視に来ているのよ。縁は切られたのに、心配症で。

ここは教会の地下だけど、牢は真下じゃないでしょう。もし、教会に来て、私がいないとなったら、探すじゃない?それが多分明後日なの。だから、その時に見つけてくれるはずなの。

牢の鍵は私に任せて。持っているやつから奪うから。」

アメリはつい一月前に偶然見かけた父の部下の姿に、他の修道女から、毎月様子を見に来られていると聞いて、驚いていた。

あの時、ちゃんと声をかけておいて良かった。

「来月来たら、お茶でも出すわね。」
そう約束したから、助けに来てくれる筈。

でも、もし助けてもらえなかったら?
見捨てられたら?

アメリは体の震えを抑えきれないでいた。






男はいつもと同じ時間に現れた。少し機嫌が悪そうにしている。

「お前を明日、外に出す。神の子プログラムの研修中と言うことになっていたから、余計なことは話すなよ?

明日お前に会いに人が来るんだろ?最後に元気な姿を見せてやれ。もう一生あえなくなるんだからな。」

ニヤリと笑う男の顔は、アメリの表情を満足そうに眺めた。

「お前もそんな顔が出来るんだな。」

修道服を乱雑に投げ捨てる。

「明日は久しぶりにそれを着て、やろうか。きっと興奮するぞ。最後のお勤めだからな。」





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