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羨ましい?
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数日が経ち、その間ミシェルの周りには何も変化はない。ただ、ミシェル自身が思考の海の中で上手く泳ぎきれなくて、底でもたもたしていただけだ。そしてそれは行動にも顕れてしまう。
ミシェルを現実に引き戻してくれたのは、意外な人物だった。
彼女は一見平民に見えるような、学園では見かけない服装で、そこにいた。具合が悪いと思ったのか、ミシェルを気遣って、座らせてくれる。
顔をあげて目を見ると、本当は声をかけたくなかったが、具合が悪い人を見捨てられなくて、声を掛けたものの、死ぬほど後悔しているようなそんな表情をしていた。
ああ、こういうところが、貴族らしくない、だけどこの人の魅力で、惹きつけられるところなのだ、と、腑に落ちた。ローガン男爵家の実情は知らないが、多分嫡男はいたし、彼女はもしかしたら卒業後は平民になりたいのかもしれない。
貴族令嬢は皆より良い結婚相手を求める。家の為、領民の為、そして自分自身の為に。だから、彼女が貴族令息を軒並み虜にしていた時に、令嬢達は自分達の身の危険を感じて彼女の排除に夢中になったのだ。自分の婚約者が、ただ可愛いだけの女性に靡く筈はないから、多分彼女は中身も魅力的な人なのだとわかってはいても令嬢達のプライドがそれを許さない。彼女は性格の悪い阿婆擦れで、男を誑かす悪女なのだと考えないと、自分が選ばれなかったみたいで惨めじゃないか。
ミシェルは自分とはどこか違う人間として他のご令嬢のことを見ていた。
彼女が現れる前からずっと、ミシェル自身が自分の身の振り方に違和感があったことを今まざまざと突きつけられているようで、ミシェルは彼女との目が合わない内に目を逸らした。
「私は行きますけど人を呼んできますね。」
「ああ、大丈夫よ。ありがとう。あの辺りにうちの侍女がいますから。」
ルーナ・ローガンはこうしてみると、まるでただの平民女性で、学園で見る華やかな容姿を上手く隠せていた。
彼女は勇気を振り絞るような様子でミシェルに頭を下げる。
「私、貴女の邪魔をするつもりはありません。仕事を探し直すことは大変ですが、仕方ないことですし。だけど、せめて後半月ほどは、お目汚しを許していただきたくて。」
「え?どういうこと?仕事って何?」
ルーナが言うには誤って、子爵家の関連の店に従業員として働いてしまった、という話で、彼女がそのことに妙な罪悪感を感じているということらしかった。
「別にいいんじゃないかしら。貴女、そんな調子で焦って探して、変な男に騙されたらどうするの?若い平民女性を言葉巧みに騙して連れ去って、挙句に捨てる、なんてよくある話なんだから。私達が対抗していることはこの際無視して、子爵家に守られておけば良いのでは?」
ミシェルにそう言われることを予想していなかった彼女は何度も良いのかを確認して、最後には満面の笑みでお礼を言った。
ミシェルは少しだけ、羨ましいと思ったが、特に表情を変えずに彼女が駆けていくのを眺めた。
ミシェルを現実に引き戻してくれたのは、意外な人物だった。
彼女は一見平民に見えるような、学園では見かけない服装で、そこにいた。具合が悪いと思ったのか、ミシェルを気遣って、座らせてくれる。
顔をあげて目を見ると、本当は声をかけたくなかったが、具合が悪い人を見捨てられなくて、声を掛けたものの、死ぬほど後悔しているようなそんな表情をしていた。
ああ、こういうところが、貴族らしくない、だけどこの人の魅力で、惹きつけられるところなのだ、と、腑に落ちた。ローガン男爵家の実情は知らないが、多分嫡男はいたし、彼女はもしかしたら卒業後は平民になりたいのかもしれない。
貴族令嬢は皆より良い結婚相手を求める。家の為、領民の為、そして自分自身の為に。だから、彼女が貴族令息を軒並み虜にしていた時に、令嬢達は自分達の身の危険を感じて彼女の排除に夢中になったのだ。自分の婚約者が、ただ可愛いだけの女性に靡く筈はないから、多分彼女は中身も魅力的な人なのだとわかってはいても令嬢達のプライドがそれを許さない。彼女は性格の悪い阿婆擦れで、男を誑かす悪女なのだと考えないと、自分が選ばれなかったみたいで惨めじゃないか。
ミシェルは自分とはどこか違う人間として他のご令嬢のことを見ていた。
彼女が現れる前からずっと、ミシェル自身が自分の身の振り方に違和感があったことを今まざまざと突きつけられているようで、ミシェルは彼女との目が合わない内に目を逸らした。
「私は行きますけど人を呼んできますね。」
「ああ、大丈夫よ。ありがとう。あの辺りにうちの侍女がいますから。」
ルーナ・ローガンはこうしてみると、まるでただの平民女性で、学園で見る華やかな容姿を上手く隠せていた。
彼女は勇気を振り絞るような様子でミシェルに頭を下げる。
「私、貴女の邪魔をするつもりはありません。仕事を探し直すことは大変ですが、仕方ないことですし。だけど、せめて後半月ほどは、お目汚しを許していただきたくて。」
「え?どういうこと?仕事って何?」
ルーナが言うには誤って、子爵家の関連の店に従業員として働いてしまった、という話で、彼女がそのことに妙な罪悪感を感じているということらしかった。
「別にいいんじゃないかしら。貴女、そんな調子で焦って探して、変な男に騙されたらどうするの?若い平民女性を言葉巧みに騙して連れ去って、挙句に捨てる、なんてよくある話なんだから。私達が対抗していることはこの際無視して、子爵家に守られておけば良いのでは?」
ミシェルにそう言われることを予想していなかった彼女は何度も良いのかを確認して、最後には満面の笑みでお礼を言った。
ミシェルは少しだけ、羨ましいと思ったが、特に表情を変えずに彼女が駆けていくのを眺めた。
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