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伯爵家の仲

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「難しい顔をしてどうした?」

ハルスト伯爵家の仲は悪くない。ラナーリアが侯爵家からの縁談に乗り気でないのなら、断ることも視野に入れていた。寧ろ、反対とまではいかなくとも、ラナーリアの意思を無視してまで、無理矢理嫁がせる必要はないと思っている。

ルッツ侯爵家は言わずもがな問題が多い家だ。優秀な次男は家を出て、残ったのは末娘を中心に頭のおかしな奴ばかり。

ラナーリアが不幸になるとわかっている相手に嫁いで幸せになれる訳もない。だが、どれだけ周りがヤキモキしても、当のラナーリアが否と言わない限りは婚約は継続される。

伯爵家は皆ラナーリアから笑顔が徐々に失われていくのを、薄々感じていて、いつか助ける時がくるのを心待ちにしていた。

中でもラナーリアの兄であるリチャードは、妹を目に入れても痛くないほど可愛がっており、侯爵家の嫡男をいつでも、ボコボコにできるほどには腕力を鍛えていた。

ラナーリアは忍耐強く、少しのことなら我慢できてしまう。その性格は長所で短所でもあった。

「難しい顔ぐらい、私だってします。」

ラナーリアが弱音を吐くようになったのは良い傾向だと兄は思っている。婚約が決まった当時は淑女の仮面を被り続けることで、素直に悲しみを伝えて来れなかった。それはまた別の話があるのだが、今は置いといて。

「侯爵令嬢は我儘を言ってくるのか。」
「アンジェリカ様はそうね、自分が特別になりたいみたい。今でも十分特別なのに、バカみたいよね。笑っちゃうわ。……私が思うに彼女は、第二王子の婚約者になると言いながら、彼だけでは満足できないのよ。他の高位貴族のご令息にチヤホヤされることがご希望なのよ。」
「侯爵令嬢は命知らずなんだな。」
「ええ。第二王子は今頃そのことを知って彼女の身辺調査を始めているみたい。今更遅いのに、そう思わない?」

「第二王子は、確か彼女を婚約者にはしたくない、と意思表示されていた筈だが。」
「だけど、振り切れていないでしょう?周りからの圧に屈して彼女を長い間有力候補として残してしまった。候補になった間際ならいざ知らず今では侯爵家は力をつけてしまった。今更他の侯爵家をけしかけたところで、よくて相討ち、悪くて消されて終わりよ。」

「お前がもう無理だと言えば、私だって両親だって皆婚約を破棄できる。その用意はある。」

ラナーリアの答えはなかったが、兄は願った。最後の一言を。彼女が「婚約を破棄したい」と言えばすぐに動くつもりで。

だけど、此方を信じていないのか、何か他に心配事があるのか、ラナーリアはそれ以来何も言わずに話は終わった。

「お前が心配してるのは何なんだ。」

兄は妹の気持ちがわからない。妹の婚約者が酷い男ならば、逃げるのが普通ではないのか?もしかしたら、弱みでも握られて脅されているのか。

その問いに力無く笑う妹はもう何も話したくないと、会話を打ち切った。これ以上は今は明らかにすることはないだろう。

だけど、婚約を継続しなければならない、と妹が考えていることは理解した今、その原因を知らなくてはならない。




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