友人は自力で選びますので

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箱の中身

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ルッツ侯爵家で一番権力を持っているのは嫡男ではない。彼がこの家でそんなものを手に入れたことはなかったが、弟がいなくなった今、普通なら嫡男として自分が、という気持ちがないでもなかった。

「まあまあ、お兄様は何も考えなくてよろしいのですわ。」

妹はいつもそう言っているが、そんな訳もないだろう。そう思い、侯爵家を継ぐ者として割り当てられた仕事をしようとするが、どうにもこうにも難しくて何から始めれば良いのかわからない。

アンジェリカが連れてきた伯爵令嬢ラナーリアは、そんな自分を助けてくれるらしい。

彼女はとても可愛らしいが、僕のことがとても好きで、婚約者になりたいと妹に告げていた。僕は彼女が好きだから、嬉しいと思ったが、多分それは妹がついた嘘なのだろう。彼女はいつも会う時は難しい顔をしているし、話をしてもいつも此方が理解できないような難しい話をする。

アンジェリカは「お兄様が好きすぎて照れている」のだと、言っていたが、多分そうではないと思う。

妹はいつも僕を兄としてではなく、歳の離れた弟のように扱う。

アンジェリカは僕を侮っているのだと、ラナーリアの前にいた婚約者が教えてくれた。僕を守るふりをして管理しようとするのは、妹が兄たる僕を馬鹿にしているのと同じなんだって。

ラナーリアが来る前に僕の婚約者となった女性は、婚約者と言っても、僕じゃなくて弟にばかり目を向けていた。深く話したことはないから彼女がどんな人かはわからないけれど、本当は僕じゃなくて、弟の婚約者になりたかったんじゃないだろうか。

「貴方は、お庭で遊んでいらしたらいかがかしら。難しいお話は退屈でしょう?」

彼女はそう言って、僕にはニコリともしないのに、弟にはキラキラした瞳で笑いかけ、弟は弟で少し怒ったような表情をして、彼女を冷たい目で見ていた。

「兄上もここにいて大丈夫ですよ。嫡男としての自覚が芽生えたのは良いことです。最初から出来る者などいないのですから、少しずつ出来ることをすれば良いのですよ。」

どの家の弟も生意気らしい、と聞いていたが、僕に対する弟はどちらかというと、兄みたい。弟と兄が逆だったなら、と思ったことは一度ではない。

一つのことを覚えるのにも、僕は何度も間違える。弟なら人の名前だって、計算だってすぐに覚えるのに。

何度も同じ間違いをして、何度もやり直す僕には侯爵家は任せられないそうだ。両親はそう言って弟に後継の座を譲ろうとしたが、弟と仲の悪い妹が嫌がった。弟も、妹と同じように自分が継ぐことを嫌がって、家を出て行ってしまった。

弟は家を出る時に僕を心配だと言った。「どうしても困った時にはここに助けを求めるんだ。いい?」

弟はその紙を妹には見つからないようにしろ、と言った。絶対に見つからないように、と。弟の言ったことはよくわからなかったけれど、昔大好きだった叔父さんに貰った仕掛け箱の中に、その紙を隠しておいた。

隠し箱の開け方は僕しか知らない。ほかのことは僕よりできるのに、何度教えても、僕以外の誰もこの箱を開けることが出来なかった。僕はそれが嬉しくて自分だけの秘密として、その箱に秘密を隠したんだ。

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