笑わない妻を娶りました

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王太子殿下

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伯爵家嫡男である私も王宮に行くこともあまりないと、王太子殿下に会うことはない。

それなのに、ミスティアと結婚するとどこからか耳にしたのであろうか。急に王太子殿下本人が伯爵家に訪ねてきた。

「先触れも出さずに失礼した。まさかあの氷の女神を射とめる者がいるとは思わなかったものだから。」

「婚約祝いに、珍しい南国の鳥を頂いたそうで。ありがとうございます。」

「ああ、あの鳥は以前王宮で飼っていたのだよ。大層大切にしていたので、可愛がっていただけると幸いだ。」

「そうなのですか。やはり環境が変わると、慣れるまで大変なのでしょうね。」

あれから何度かドゥーラ伯爵家に行っては巣箱の奥を覗くものの、未だにもう一羽は姿を現さない。

王太子殿下は、フッと、表情を和らげると、私以外には聞こえないぐらいの小さな声でアドバイスをくれた。

「そんなに会いたいのなら、今度黙って夜にドゥーラ伯爵家に入り込むと良い。一人では難しいなら、私が協力しよう。何、婚約者にサプライズをすると言えば、喜んでくれるさ。」

「……いくら婚約者と言えど、勝手にご令嬢の家に入るのは……」

「大丈夫だ。私から伯爵には話を通しておこう。…運が良ければ、ミスティア嬢の秘密も探れるかも知れないぞ。」

「お言葉ですが、彼女に秘密があるにしても勝手に暴こうとするのは、ちょっと。彼女が話したければ、いつか話してくれると思います。」

「ふむ、君は意外と堅いんだな。まあ、そんな君だから、彼女に選ばれたのかもしれないが。そうか……なら残念だ。」

王太子殿下は、私が誘いに乗らないとわかれば、すぐに身を引いた。少し物分かりの良すぎる気もするが、諦めてくれたなら何よりだ。

私はそう思っていたのだが、それは誤りだった。王太子殿下は全く諦めてはいなかった。そのことを思い知るのは、リーゼ嬢の誕生パーティが行われた折。

王太子殿下が現れ、対応に追われていた私は飲み過ぎてしまい、あろうことか婚約者の家で酔い潰れる、という失態を演じてしまった。

気がついたのは、真夜中。ジャケットのポケットから王太子殿下の入れたであろう紙切れが出てきたことから、私はこの失態が仕組まれたものだと知った。

広い屋敷の中を歩いていると、遠目に鳥達の部屋が見えてきた。

使用人に見つかれば迷ったことにして、やり過ごそうと息巻いたが、幸運なことに誰にも見つかることはない。

鳥の部屋とミスティアの部屋は近い。こんなにコソコソしている姿を彼女に見られるのは嫌だった。


何よりあの王太子殿下の口車に乗ってしまったようで、頭が痛い。実際、あの時はよくわからなかったが、どうやら私は王太子殿下が苦手らしい。というより、ミスティアのことを誰よりもわかっているかのような彼の口調に、大人気なく嫉妬しているのだと、今ではわかっている。

ミスティアとリーゼ嬢、王太子殿下は、幼馴染というものらしい。リーゼ嬢に聞いた限りでは恋愛感情は皆無らしいが、それは幼い頃の話で、今ではない。

王太子殿下の婚約者が中々決まらなかったのも、ミスティアが今までフリーだとはいえ、誰からも釣り書きが届かなかったのも、きっと王家からの牽制があったに違いない。

本人の気持ちはどうあれ、王太子殿下の相手として、限りなく近い位置にまでいたということだ。

今更モヤモヤしても仕方ない。王太子殿下の紙切れには、ご丁寧に隠れ場所まで指示がある。入ってわかったが、確かにここなら誰にもバレずに部屋の様子を見ることができる。要は、王太子殿下はこの場に来たことがあると言うことだ。

心に巣食ったモヤモヤは、当分出ていきそうになかった。
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