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鳥の名は
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甥のリチャードは、目に入れても痛くないほどの愛らしさを持っている。言われて気がついたけれど、自分はどうも人を溺愛する傾向にあるらしい。
妹は大して可愛くはないが、甥は可愛い。何故だろう。ミスティアとリチャードを会わせると可愛いの渋滞が起こるだけだが、そうはしなかった。
甥にまで嫉妬しそうな自分が嫌だった。
心配しなくても、それからすぐにリチャードは来なくなった。幼馴染の女の子と遊ぶのに忙しくなったからだ。
ミスティアは残念そうにしている。子供は好きらしい。
「ドゥーラ伯爵領には孤児院がないのです。小さな子と接する機会はリーゼが大きくなってからはほぼ無かったので。たまに父の仕事についていき、訓練所の子ども達に話を聞いたりはしていたのですが。」
そうだ。ドゥーラ領には孤児院がない。孤児がいないわけではなく、彼らは皆訓練所なる場所に入れられる。要は孤児院の上位版だが、ある程度の年齢になるまで無償で教育を受けられる。一度身につけた知識は一生彼らを守ってくれる。
だから、ドゥーラ領では、軽犯罪が少ない。貧しさから犯罪に走るケースはほぼない。
勿論、施して終わりではない。働けるようになれば今までかけられた金額を収入に応じていくらか徴収している。
それも、生活を脅かすほどではない。
対して、タイロン領ではそれはできていない。孤児院は二つあるが、どれも十分な配慮すらできていないのが、現状だ。
「今度、ウチの領の孤児院に来てくれる?彼らのために何ができるか意見を教えてほしいんだ。」
「はい、楽しみにしていますわ。」
「そういえば、鳥の名前を考えているんだって?」
結婚前に聞いた時は、恥ずかしそうにしながら「まだ秘密です。」とそう言っていたのに、名前を変えてしまうのかと、聞けば、何故か顔を赤くして、頷いている。
理由は教えてくれないが、その姿は可愛らしい。
もう今の彼女を見ても誰も「氷の女神」とは言えないだろう。けれども、この姿を誰にも見せたくない、と思ってしまう狭量な自分もいる。
彼女に「笑うな」と言い放ったあの人みたいになりたくない。
彼は一生後悔して生きていくのだろう。そう思うと、不敬だが、胸がスッとする。
鳥の名前は「ルル」と決まった。リチャードが勝手につけて呼んでいたらしい。ルルと、口にすると鳥がスッと近くに来ることから、名を理解していると思われた。
可愛い響きでミスティアも気に入っている。やっぱり前の名前を教えてくれそうにはなかったけれど、照れている姿が可愛いから今はまだ良いかな。
今はまだ、あの時のように声を上げて笑うことはないけれど、ミスティアの表情筋はだんだん動くことを思い出している。
私は可愛いミスティアを愛でるだけ。それ以外の愛し方がわからない。
彼女の全ての感情を引き出せるようにどろどろに甘やかせてあげたい、というのは彼女には内緒だ。
終わり
読んでいただき、ありがとうございました! mios
妹は大して可愛くはないが、甥は可愛い。何故だろう。ミスティアとリチャードを会わせると可愛いの渋滞が起こるだけだが、そうはしなかった。
甥にまで嫉妬しそうな自分が嫌だった。
心配しなくても、それからすぐにリチャードは来なくなった。幼馴染の女の子と遊ぶのに忙しくなったからだ。
ミスティアは残念そうにしている。子供は好きらしい。
「ドゥーラ伯爵領には孤児院がないのです。小さな子と接する機会はリーゼが大きくなってからはほぼ無かったので。たまに父の仕事についていき、訓練所の子ども達に話を聞いたりはしていたのですが。」
そうだ。ドゥーラ領には孤児院がない。孤児がいないわけではなく、彼らは皆訓練所なる場所に入れられる。要は孤児院の上位版だが、ある程度の年齢になるまで無償で教育を受けられる。一度身につけた知識は一生彼らを守ってくれる。
だから、ドゥーラ領では、軽犯罪が少ない。貧しさから犯罪に走るケースはほぼない。
勿論、施して終わりではない。働けるようになれば今までかけられた金額を収入に応じていくらか徴収している。
それも、生活を脅かすほどではない。
対して、タイロン領ではそれはできていない。孤児院は二つあるが、どれも十分な配慮すらできていないのが、現状だ。
「今度、ウチの領の孤児院に来てくれる?彼らのために何ができるか意見を教えてほしいんだ。」
「はい、楽しみにしていますわ。」
「そういえば、鳥の名前を考えているんだって?」
結婚前に聞いた時は、恥ずかしそうにしながら「まだ秘密です。」とそう言っていたのに、名前を変えてしまうのかと、聞けば、何故か顔を赤くして、頷いている。
理由は教えてくれないが、その姿は可愛らしい。
もう今の彼女を見ても誰も「氷の女神」とは言えないだろう。けれども、この姿を誰にも見せたくない、と思ってしまう狭量な自分もいる。
彼女に「笑うな」と言い放ったあの人みたいになりたくない。
彼は一生後悔して生きていくのだろう。そう思うと、不敬だが、胸がスッとする。
鳥の名前は「ルル」と決まった。リチャードが勝手につけて呼んでいたらしい。ルルと、口にすると鳥がスッと近くに来ることから、名を理解していると思われた。
可愛い響きでミスティアも気に入っている。やっぱり前の名前を教えてくれそうにはなかったけれど、照れている姿が可愛いから今はまだ良いかな。
今はまだ、あの時のように声を上げて笑うことはないけれど、ミスティアの表情筋はだんだん動くことを思い出している。
私は可愛いミスティアを愛でるだけ。それ以外の愛し方がわからない。
彼女の全ての感情を引き出せるようにどろどろに甘やかせてあげたい、というのは彼女には内緒だ。
終わり
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