1 / 9
聖母のような嫁とクズの俺
しおりを挟む
嫁はいわゆる不思議ちゃんだ。
大学で初めて会った時から、すでに周りからは浮いていて、ふわふわしていた。
最初は近くにいるだけで、癒されると思っていた。
友達の話をするように、妖精の話をしたり、魔法使いになりたい、なんて話している様は、彼女だったからこそ、可愛いと思っていたが、夢みがちな、少し精神が幼い子なんだと思った。
俺は彼女の純粋さに惹かれて、彼女と結婚した。ガーデニングが趣味で、妖精さんと仲の良い彼女は、明らかに浮世離れしていて、現実味はなかった。まるで、彼女自身が妖精で、人間ではないみたいな、一種の気味の悪さみたいなのもあって、新婚だと言うのに、心は少しずつ離れていった。
結婚当初から、俺の母とは会話が噛み合わず、母はどちらかというと、バリバリ働くのが好きだった人なので、彼女独特のふんわり感とは合わなかった。
母の言うことの方がわかると言う、嫁からすると最低な夫だと自覚はするものの、もう少し現実を見て欲しいと願っていた。
彼女は会社でも楽しそうに仕事をしていた。その楽しそうな様子に、楽して稼げていいよな、なんて思っていた。会社で長時間上司の機嫌一つで振り回される社畜の俺と、好きなことだけしてお金の貰える嫁。卑屈になりながら、どんどん嫌な男になって行った。会社の若い女の子にハマるのも、仕方がないことだった。
彼女は、妻の悪口を聞いてくれて、なぐさめてくれて、癒やしてくれた。
俺の帰りはどんどん遅くなり、ついに彼女は起きて帰りを待つことをしなくなった。
それを、不倫相手とのネタにして、馬鹿にして、笑っていくにつれて、俺は、自分が嫁より立場が大きく、わがままを通せるような一角の人になったような、感覚を感じるようになった。
嫁を蔑み、哀れに思うことで、自分の立場を上にする、ような嫌な男になっていった。
家での会話はとうになかった。嫁が、雰囲気をよくしようと、話題を振ってくれたり、笑顔で話しかけても、無視を決め込んだ。大袈裟にため息をついたり、舌打ちしたり、嫁を精神的に追い詰めることばかりしていた。
本当に最低なクズ男だったと思う。
不倫相手が、結婚を迫らないのをいいことに、好き放題していたが、ついさっき嫁に離婚届を突き付けられた今、不倫相手から嫁がどれだけ嫌がらせをされてきたか思い知ったのだった。
不倫相手とは、別れるからやり直してくれ、と床に頭がつくほど、土下座し、謝って、許しを請う。
嫁はいつものふんわりとした笑顔で、拒否の言葉を口にする。俺は、お前に捨てられたら、生きていけない、と言うが、嫁は大丈夫よ、と笑う。嫁は、貴方ならこれから先どんな女性にだって寄生して生きていけるわ、と言った。
慰謝料はたっぷりいただくわね、と言った嫁の顔は、慈愛に満ちた聖母のようだった。
昨日、結局、土下座してとりあえず離婚が成立するまでは、この家で暮らすことになって、それで、どうなったっけ?
朝喉が乾いて死にそうで、水を飲みにキッチンへ行こうとして、違和感が急に降ってきた。
あれ、ここ、どこだ?
いつもの家と明らかに違う。あれ、嫁は?
「かな?かなこ?どこだ?」
知らない家の中を探す。彼女は外にいた。何かを見上げている。
なんだ?釣られて見上げると、それと目があった。な、何だ、あれ?
見てはいけないものを、見てしまった。あ、やばい。ここは、俺たちがいた世界じゃない。夢か?
嫁は俺の方に気づき、嫌そうな顔をして家に入ってきた。
「どうして、貴方までいるの?せっかく楽しくなると思ったのに。」
「お前が何かしたのか?」
ぷっと吹き出して、笑いながら、
「私にそんなこと、できるわけないでしょ?」
と、言った。
「どうやら、異世界みたいよ、ここ。」
嫁のかなこの言葉に頭が真っ白になる。
いや、やばいだろ、こんな。
生きていける気がしない。
「ね、丁度良いからここで別れましょう?貴方はどこかで、可愛い女の子でも引っ掛けて、生きていって!私はここでのんびりするから。」
「いや、無理だろ。俺なんか瞬殺だろ。お前がいないと生きていけないって。昨日言った通りなんだ。俺を助けてくれ。」
昨日より必死に頼み込む。
彼女は迷っているようだ。もうひと押しか。
「何でもする!荷物持ちでも、何でも。こきつかって構わない。」
「昨日まで私にしたように?」
大きく頷いて、受け入れる。
本当に俺は殺されてしまう。情けないけれど、嫁に守って貰わなければ確実に死ぬ!
今目の前に、二人の設定画面が表示されている。ゲームで、言えば名前をつけたり職業を選んだりする画面。
嫁の設定画面には、「精霊王の娘」と書いてあって、全能力チートなのに、俺は、村人で、レベル1なんだけど、何で?
こんなの無理。死ぬ。嫁に守ってもらわないと死んでしまう。
嫁がいくら優しくても、クズ夫の俺を助けてくれる訳はない。俺はこの世界で、生きていくには、捨てられてはいけない。嫁に寄生して生きていかなければ。
「恥をしのんでいうけどさ、俺を守ってくれ。」
嫁は呆れたように、鼻で笑って、憮然とした顔をしていたが、「ねぇ、さっき何でもするって言ったよね?」
と、言った。
はい。言いました。
嫌な予感するけれど、言いました。
男に二言はありません。
大学で初めて会った時から、すでに周りからは浮いていて、ふわふわしていた。
最初は近くにいるだけで、癒されると思っていた。
友達の話をするように、妖精の話をしたり、魔法使いになりたい、なんて話している様は、彼女だったからこそ、可愛いと思っていたが、夢みがちな、少し精神が幼い子なんだと思った。
俺は彼女の純粋さに惹かれて、彼女と結婚した。ガーデニングが趣味で、妖精さんと仲の良い彼女は、明らかに浮世離れしていて、現実味はなかった。まるで、彼女自身が妖精で、人間ではないみたいな、一種の気味の悪さみたいなのもあって、新婚だと言うのに、心は少しずつ離れていった。
結婚当初から、俺の母とは会話が噛み合わず、母はどちらかというと、バリバリ働くのが好きだった人なので、彼女独特のふんわり感とは合わなかった。
母の言うことの方がわかると言う、嫁からすると最低な夫だと自覚はするものの、もう少し現実を見て欲しいと願っていた。
彼女は会社でも楽しそうに仕事をしていた。その楽しそうな様子に、楽して稼げていいよな、なんて思っていた。会社で長時間上司の機嫌一つで振り回される社畜の俺と、好きなことだけしてお金の貰える嫁。卑屈になりながら、どんどん嫌な男になって行った。会社の若い女の子にハマるのも、仕方がないことだった。
彼女は、妻の悪口を聞いてくれて、なぐさめてくれて、癒やしてくれた。
俺の帰りはどんどん遅くなり、ついに彼女は起きて帰りを待つことをしなくなった。
それを、不倫相手とのネタにして、馬鹿にして、笑っていくにつれて、俺は、自分が嫁より立場が大きく、わがままを通せるような一角の人になったような、感覚を感じるようになった。
嫁を蔑み、哀れに思うことで、自分の立場を上にする、ような嫌な男になっていった。
家での会話はとうになかった。嫁が、雰囲気をよくしようと、話題を振ってくれたり、笑顔で話しかけても、無視を決め込んだ。大袈裟にため息をついたり、舌打ちしたり、嫁を精神的に追い詰めることばかりしていた。
本当に最低なクズ男だったと思う。
不倫相手が、結婚を迫らないのをいいことに、好き放題していたが、ついさっき嫁に離婚届を突き付けられた今、不倫相手から嫁がどれだけ嫌がらせをされてきたか思い知ったのだった。
不倫相手とは、別れるからやり直してくれ、と床に頭がつくほど、土下座し、謝って、許しを請う。
嫁はいつものふんわりとした笑顔で、拒否の言葉を口にする。俺は、お前に捨てられたら、生きていけない、と言うが、嫁は大丈夫よ、と笑う。嫁は、貴方ならこれから先どんな女性にだって寄生して生きていけるわ、と言った。
慰謝料はたっぷりいただくわね、と言った嫁の顔は、慈愛に満ちた聖母のようだった。
昨日、結局、土下座してとりあえず離婚が成立するまでは、この家で暮らすことになって、それで、どうなったっけ?
朝喉が乾いて死にそうで、水を飲みにキッチンへ行こうとして、違和感が急に降ってきた。
あれ、ここ、どこだ?
いつもの家と明らかに違う。あれ、嫁は?
「かな?かなこ?どこだ?」
知らない家の中を探す。彼女は外にいた。何かを見上げている。
なんだ?釣られて見上げると、それと目があった。な、何だ、あれ?
見てはいけないものを、見てしまった。あ、やばい。ここは、俺たちがいた世界じゃない。夢か?
嫁は俺の方に気づき、嫌そうな顔をして家に入ってきた。
「どうして、貴方までいるの?せっかく楽しくなると思ったのに。」
「お前が何かしたのか?」
ぷっと吹き出して、笑いながら、
「私にそんなこと、できるわけないでしょ?」
と、言った。
「どうやら、異世界みたいよ、ここ。」
嫁のかなこの言葉に頭が真っ白になる。
いや、やばいだろ、こんな。
生きていける気がしない。
「ね、丁度良いからここで別れましょう?貴方はどこかで、可愛い女の子でも引っ掛けて、生きていって!私はここでのんびりするから。」
「いや、無理だろ。俺なんか瞬殺だろ。お前がいないと生きていけないって。昨日言った通りなんだ。俺を助けてくれ。」
昨日より必死に頼み込む。
彼女は迷っているようだ。もうひと押しか。
「何でもする!荷物持ちでも、何でも。こきつかって構わない。」
「昨日まで私にしたように?」
大きく頷いて、受け入れる。
本当に俺は殺されてしまう。情けないけれど、嫁に守って貰わなければ確実に死ぬ!
今目の前に、二人の設定画面が表示されている。ゲームで、言えば名前をつけたり職業を選んだりする画面。
嫁の設定画面には、「精霊王の娘」と書いてあって、全能力チートなのに、俺は、村人で、レベル1なんだけど、何で?
こんなの無理。死ぬ。嫁に守ってもらわないと死んでしまう。
嫁がいくら優しくても、クズ夫の俺を助けてくれる訳はない。俺はこの世界で、生きていくには、捨てられてはいけない。嫁に寄生して生きていかなければ。
「恥をしのんでいうけどさ、俺を守ってくれ。」
嫁は呆れたように、鼻で笑って、憮然とした顔をしていたが、「ねぇ、さっき何でもするって言ったよね?」
と、言った。
はい。言いました。
嫌な予感するけれど、言いました。
男に二言はありません。
1
あなたにおすすめの小説
神様の手違いで、おまけの転生?!お詫びにチートと無口な騎士団長もらっちゃいました?!
カヨワイさつき
恋愛
最初は、日本人で受験の日に何かにぶつかり死亡。次は、何かの討伐中に、死亡。次に目覚めたら、見知らぬ聖女のそばに、ポツンとおまけの召喚?あまりにも、不細工な為にその場から追い出されてしまった。
前世の記憶はあるものの、どれをとっても短命、不幸な出来事ばかりだった。
全てはドジで少し変なナルシストの神様の手違いだっ。おまけの転生?お詫びにチートと無口で不器用な騎士団長もらっちゃいました。今度こそ、幸せになるかもしれません?!
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
ヒロインだけど出番なし⭐︎
ちよこ
恋愛
地味OLから異世界に転生し、ヒロイン枠をゲットしたはずのアリエル。
だが、現実は甘くない。
天才悪役令嬢セシフィリーネに全ルートをかっさらわれ、攻略対象たちは全員そっちに夢中。
出番のないヒロインとして静かに学園生活を過ごすが、卒業後はまさかの42歳子爵の後妻に!?
逃げた先の隣国で、まさかの展開が待っていた——
「ご褒美ください」とわんこ系義弟が離れない
橋本彩里(Ayari)
恋愛
六歳の時に伯爵家の養子として引き取られたイーサンは、年頃になっても一つ上の義理の姉のミラが大好きだとじゃれてくる。
そんななか、投資に失敗した父の借金の代わりにとミラに見合いの話が浮上し、義姉が大好きなわんこ系義弟が「ご褒美ください」と迫ってきて……。
1~2万文字の短編予定→中編に変更します。
いつもながらの溺愛執着ものです。
狼隊長さんは、私のやわはだのトリコになりました。
汐瀬うに
恋愛
目が覚めたら、そこは獣人たちの国だった。
元看護師の百合は、この世界では珍しい“ヒト”として、狐の婆さんが仕切る風呂屋で働くことになる。
与えられた仕事は、獣人のお客を湯に通し、その体を洗ってもてなすこと。
本来ならこの先にあるはずの行為まで求められてもおかしくないのに、百合の素肌で背中を撫でられた獣人たちは、皆ふわふわの毛皮を揺らして眠りに落ちてしまうのだった。
人間の肌は、獣人にとって子犬の毛並みのようなもの――そう気づいた時には、百合は「眠りを売る“やわはだ嬢”」として静かな人気者になっていた。
そんな百合の元へある日、一つの依頼が舞い込む。
「眠れない狼隊長を、あんたの手で眠らせてやってほしい」
戦場の静けさに怯え、目を閉じれば仲間の最期がよみがえる狼隊長ライガ。
誰よりも強くあろうとする男の震えに触れた百合は、自分もまた失った人を忘れられずにいることを思い出す。
やわらかな人肌と、眠れない心。
静けさを怖がるふたりが、湯気の向こうで少しずつ寄り添っていく、獣人×ヒトの異世界恋愛譚。
[こちらは以前あげていた「やわはだの、お風呂やさん」の改稿ver.になります]
龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜
クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。
生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。
母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。
そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。
それから〜18年後
約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。
アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。
いざ〜龍国へ出発した。
あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね??
確か双子だったよね?
もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜!
物語に登場する人物達の視点です。
この世界に転生したらいろんな人に溺愛されちゃいました!
キムチ鍋
恋愛
前世は不慮の事故で死んだ(主人公)公爵令嬢ニコ・オリヴィアは最近前世の記憶を思い出す。
だが彼女は人生を楽しむことができなっかたので今世は幸せな人生を送ることを決意する。
「前世は不慮の事故で死んだのだから今世は楽しんで幸せな人生を送るぞ!」
そこからいろいろな人に愛されていく。
作者のキムチ鍋です!
不定期で投稿していきます‼️
19時投稿です‼️
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる