異世界で嫁に捨てられそう

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聖母のような嫁とクズの俺

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嫁はいわゆる不思議ちゃんだ。
大学で初めて会った時から、すでに周りからは浮いていて、ふわふわしていた。
最初は近くにいるだけで、癒されると思っていた。

友達の話をするように、妖精の話をしたり、魔法使いになりたい、なんて話している様は、彼女だったからこそ、可愛いと思っていたが、夢みがちな、少し精神が幼い子なんだと思った。

俺は彼女の純粋さに惹かれて、彼女と結婚した。ガーデニングが趣味で、妖精さんと仲の良い彼女は、明らかに浮世離れしていて、現実味はなかった。まるで、彼女自身が妖精で、人間ではないみたいな、一種の気味の悪さみたいなのもあって、新婚だと言うのに、心は少しずつ離れていった。

結婚当初から、俺の母とは会話が噛み合わず、母はどちらかというと、バリバリ働くのが好きだった人なので、彼女独特のふんわり感とは合わなかった。

母の言うことの方がわかると言う、嫁からすると最低な夫だと自覚はするものの、もう少し現実を見て欲しいと願っていた。

彼女は会社でも楽しそうに仕事をしていた。その楽しそうな様子に、楽して稼げていいよな、なんて思っていた。会社で長時間上司の機嫌一つで振り回される社畜の俺と、好きなことだけしてお金の貰える嫁。卑屈になりながら、どんどん嫌な男になって行った。会社の若い女の子にハマるのも、仕方がないことだった。
彼女は、妻の悪口を聞いてくれて、なぐさめてくれて、癒やしてくれた。

俺の帰りはどんどん遅くなり、ついに彼女は起きて帰りを待つことをしなくなった。

それを、不倫相手とのネタにして、馬鹿にして、笑っていくにつれて、俺は、自分が嫁より立場が大きく、わがままを通せるような一角の人になったような、感覚を感じるようになった。

嫁を蔑み、哀れに思うことで、自分の立場を上にする、ような嫌な男になっていった。

家での会話はとうになかった。嫁が、雰囲気をよくしようと、話題を振ってくれたり、笑顔で話しかけても、無視を決め込んだ。大袈裟にため息をついたり、舌打ちしたり、嫁を精神的に追い詰めることばかりしていた。

本当に最低なクズ男だったと思う。

不倫相手が、結婚を迫らないのをいいことに、好き放題していたが、ついさっき嫁に離婚届を突き付けられた今、不倫相手から嫁がどれだけ嫌がらせをされてきたか思い知ったのだった。

不倫相手とは、別れるからやり直してくれ、と床に頭がつくほど、土下座し、謝って、許しを請う。

嫁はいつものふんわりとした笑顔で、拒否の言葉を口にする。俺は、お前に捨てられたら、生きていけない、と言うが、嫁は大丈夫よ、と笑う。嫁は、貴方ならこれから先どんな女性にだって寄生して生きていけるわ、と言った。

慰謝料はたっぷりいただくわね、と言った嫁の顔は、慈愛に満ちた聖母のようだった。





昨日、結局、土下座してとりあえず離婚が成立するまでは、この家で暮らすことになって、それで、どうなったっけ?

朝喉が乾いて死にそうで、水を飲みにキッチンへ行こうとして、違和感が急に降ってきた。

あれ、ここ、どこだ?

いつもの家と明らかに違う。あれ、嫁は?

「かな?かなこ?どこだ?」

知らない家の中を探す。彼女は外にいた。何かを見上げている。

なんだ?釣られて見上げると、それと目があった。な、何だ、あれ?

見てはいけないものを、見てしまった。あ、やばい。ここは、俺たちがいた世界じゃない。夢か?

嫁は俺の方に気づき、嫌そうな顔をして家に入ってきた。

「どうして、貴方までいるの?せっかく楽しくなると思ったのに。」

「お前が何かしたのか?」
ぷっと吹き出して、笑いながら、
「私にそんなこと、できるわけないでしょ?」
と、言った。
「どうやら、異世界みたいよ、ここ。」
嫁のかなこの言葉に頭が真っ白になる。

いや、やばいだろ、こんな。
生きていける気がしない。

「ね、丁度良いからここで別れましょう?貴方はどこかで、可愛い女の子でも引っ掛けて、生きていって!私はここでのんびりするから。」

「いや、無理だろ。俺なんか瞬殺だろ。お前がいないと生きていけないって。昨日言った通りなんだ。俺を助けてくれ。」

昨日より必死に頼み込む。
彼女は迷っているようだ。もうひと押しか。

「何でもする!荷物持ちでも、何でも。こきつかって構わない。」
「昨日まで私にしたように?」
大きく頷いて、受け入れる。

本当に俺は殺されてしまう。情けないけれど、嫁に守って貰わなければ確実に死ぬ!

今目の前に、二人の設定画面が表示されている。ゲームで、言えば名前をつけたり職業を選んだりする画面。

嫁の設定画面には、「精霊王の娘」と書いてあって、全能力チートなのに、俺は、村人で、レベル1なんだけど、何で?

こんなの無理。死ぬ。嫁に守ってもらわないと死んでしまう。

嫁がいくら優しくても、クズ夫の俺を助けてくれる訳はない。俺はこの世界で、生きていくには、捨てられてはいけない。嫁に寄生して生きていかなければ。

「恥をしのんでいうけどさ、俺を守ってくれ。」

嫁は呆れたように、鼻で笑って、憮然とした顔をしていたが、「ねぇ、さっき何でもするって言ったよね?」
と、言った。

はい。言いました。
嫌な予感するけれど、言いました。
男に二言はありません。


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